2007年01月08日

心理学について(6)

スピリチュアリズムの「からくり」と落とし穴についてまとめて、このシリーズ記事を終わりにしたいと思います。

「心理学」という言葉をしばしば使いながら、実際には科学としての心理学とはまったく関係のない「スピリチュアリズム」の中で、自閉症児のことを「クリスタル・チルドレン」と呼んで独自の説を提唱している人たちがいる、という話を前回書きました。

本にもなっている、この「クリスタル・チルドレン」という説は、よく読むと、自閉症児と呼ばれている子どもの「内面」には実はとても豊かな世界が広がっていると考えましょう、というだけのことであり、変な薬を飲ませるとか変な修行をさせるということでもないようなので(詳しくは知りません)、「絶対に読んではいけない本」とか、そういうものではないように思います。

こういった本からは科学的な療育知識は何1つ得ることはできませんが、「うちの子どもは本当は障害児ではないんだ」と考えることが、心理的にネガティブな方向に強く傾いている親御さんにとって精神安定剤のような効果がある可能性は、否定しません。
(ただ、逆に「うちの子は他の『本当の自閉症児』とは違う」とか「私だけが子どもの真の姿を知っている」といった悪い方向に意識が向かってしまうリスクもありますが・・・)

ただ、私が心配することは、こういったスピリチュアリズムの本をオカルトに免疫のない人が読んだ場合、書いてあることに説得力を感じてあっさり信じてしまう、という危険性についてです。

実は、「スピリチュアリズム」には、とてもシンプルな「からくり」があるのです。

1つは、いわゆる「心理化(内面化)」と言われるもので、ものごとの因果関係を、すべて目に見えないヒトの内面(心)の中に閉じ込めてしまうという手法です。

スピリチュアル本では、人の人生は霊魂によって運命づけられており、それぞれが持つ「オーラ」の状態を良くすることで幸せになれる、といったことが書いてあります。さまざまな悩みも、霊魂との対話や自分のオーラの状態の改善、正しい信念を持つことなどによって解決できるとされます。
ここでは、スピリチュアリズムが説くこれらの概念はすべて、個人の内面(心)に関することである、ということに注目してください。

そして、彼らの主張をよくよく読んでみると、ぶっちゃけた話、どんな問題も自分の気の持ちようを変えることで「問題でなくする」という解決法を採用していることが分かります。
問題がそもそも消えてしまうという「からくり」なのです。

もう1つは、「エピソード主義」です。
これはこのシリーズ記事の臨床心理学に関する回でも書きましたが、特定のエピソードだけを抜き出して「こんな奇跡が起こりました」と語る手法です。これは誰も検証できませんし、そもそもその「奇跡」が本当に起こったかどうかも証明できません。
ゼロはいくつ積み上げてもゼロのまま、いくら「私が体験したエピソード」を並べても、それは何の事実も示していないと考えるべきです。

「クリスタル・チルドレン」も、からくりは同じですね。
自閉症という器質的な障害があるのではなく、特別な「内面」を持った「誤解されやすい存在だ」と解釈することによって、問題はどこにもなくて、後は親の側が子どもの「内面」の素晴らしさを「発見」すればいいだけだ、ということになり(心理化・内面化)、自動的に問題が解決されてしまうというわけです。
そしてその「証拠」は、ひたすら検証不能なエピソードの集まりとして示されます。

ただ、先にも書いたとおり、内面化や心理化それ自体は、本人が納得して受け入れている限りは、悪いことだとは言い切れません。精神世界を信じることで悩みが解決し、結果として社会適応が改善するのであれば、確かにある種のカウンセリング的な効果があるとも言えます。(実際、カウンセリングでもこういった内面化・心理化の手法が使われることがあります)

問題は、こういった考えかたを子どもに対して強制してしまう、あるいはこういった考え方に子どもの人生をゆだねてしまうときに生まれます
「心理化」「内面化」は、本来外部に働きかけて解決すべき問題を、内にこもらせ放置させてしまう危険性を持っています。
大人が自分の人生を「スピリチュアル」に生きるのは、それこそ「好き好き」ですが、それを子どもの生き方に反映させるという段階になると、親としての子育ての責任をもう一度考える必要があるんじゃないかな、と感じます。
「クリスタル・チルドレン」の例でいえば、この子は本当は自閉症なんていう障害は持っていないのだから、ありのままのオーラに満ちた存在を愛していこう、人間の都合で妙な矯正を加えてはいけない、と思ってしまうと、「療育をしない」という方向性につながっていってしまいます。

※他にも、某有名スピリチュアリストの子育て本をみると、子どもがいじめに会っている場合は、「子どもにも問題がある」ので、「子どもの『いじめられっ子』のオーラを消す」ようにして、それでもだめなら「引越しを考える」のがいい、などと書かれていたりします。

キレート療法の批判記事でも書いたとおり、子どもというのは親に対して非常に弱い立場にあります。逆にいえば、親は子どもの人生を変えてしまうだけの可能性と責任を負っているのです。

自閉症児にとって本当に必要なのは、「どう内面を解釈されるか?」なんてことではなくて、まさに具体的な行動、問題解決の取り組みであるはずです。どうせ「内面」を見るなら、そういう子どもの「声なき声」を聞く努力にこそ、価値があるのではないでしょうか。

最後に:大人が、自己のために、精神的な価値観を持つことを否定するものではまったくありません。哲学にせよ、長い歴史を生き抜いてきた宗教にせよ、精神的支柱を持つことは、人生を豊かにし、様々な苦労を乗り越えていくために意義のあることだと思います。
posted by そらパパ at 22:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kikulogで話題が出たのですが、NHKの「みんなのうた」で CRYSTAL CHILDREN という曲が流れているようです。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1183478389#CID1210135493
Posted by ntk at 2008年05月12日 15:06
ntkさん、

貴重な情報ありがとうございます。

こういうのを信じている人たちは、自分たちが「素晴らしいことをしている」と確信して善意で一生懸命やっている部分がありますから対応が難しいですね。

さすがにクリスタル・チルドレン説には世論の主流がなびくとは思えませんが、親御さん個人個人については、子どもの療育にどう向き合っていくかという意味で影響があるかもしれないなあ、とは思います。
Posted by そらパパ at 2008年05月12日 22:21
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