2007年01月05日

よくわかる心理学―こころの謎にせまる(ブックレビュー)


よくわかる心理学―こころの謎にせまる
著:尾形 佳晃
池田書店 図解i読本

第1章 心理学って一体なに?
第2章 心理学の仕組み
第3章 心理学の基礎分野
第4章 心理学の応用分野
第5章 いろいろな「心の病気」
第6章 「心の病」の治し方
第7章 こんなに身近な心理学
第8章 自分でできる心理学


皆さんもご存知のとおり、自閉症児の療育と関連のあるさまざまな学術的な研究・取り組みは、主に心理学の世界で行なわれています。

もちろん、実際の「治療」とか「療育」の実践についていえば、医学の世界での取り組みが大きな割合を占めているわけですが、その実践の理論的背景を遡っていくと、やはり心理学の世界と重なってくると言っていいと思います。

ところで、皆さんは「心理学」と聞いて、どんな学問を想像するでしょうか? あるいは、「心理学者」というのは、どんな研究をしているかご存知ですか?

多くの方は、心理学とは人の心を読む学問だ、と考えているのではないでしょうか? そして、心理学者というのは、いろいろな科学的手法を駆使して、他人が何を考えているのかを読み取ったり、他人の考えや行動をコントロールするための理論を作り上げている人たちだ、と思っているのかもしれません。心理学者と話をしたりすると、心が読まれてしまうのでは、と不安になったりするかもしれませんね。

でもそれは、まったくの誤解です。

一般に売られている「心理テスト」とか、「読心術」とか「人の心を操る」とか「○○ヒーリング」とかいった本は、学術的な心理学とはほとんど関連がありません。
こういったものに、しばしば「心理学」といった言葉が使われていることが、心理学という学問に対する大きな誤解を招いているといっていいと思います。(ただ、これは心理学の側にも多少の責任?があると思っています。これについては現在書いている最中のシリーズ記事でも書きたいと思います)

そして残念ながら、よくある、「図解心理学」とか「よくわかる心理学」といった1200円~1500円くらいの値段帯で売られている啓蒙書を読んでも、実はこの辺りの誤解はあまり解けません。

というのも、こういった本を執筆している定番「心理学者」(あえて名前は書きませんが、こういった本が並んでいる棚を良く見ると、3~5人くらいの同じ著者が似たような本を何冊も書いているのがすぐ分かります)は、正直言って心理学者としてはかなり怪しい人たちで、「一般読者の期待を裏切らない商業本」を書くことだけを考えている、と言わざるをえません。つまり、「誤解を解く」どころか、その誤解に沿った形で、人の心を読んだり操ったりすることと関連する心理学の実験だけを集中的に取り上げて本を構成していることが多いのです。
その結果、内容は極めて偏ることになり、読めば一層「心理学っていうのはやっぱり人の心を読んだり操ったりしている学問なんだろうか」と誤解と混乱を増長させる結果にしかなりません。

本当は、こういった入門書こそ、「心理学っていうのは心理テストの高級なものでもないし、読心術でも催眠術でも人を操る手管でもない」ということを最初にしっかりと宣言して、本来の心理学の姿を伝えるべきものだと思うのですが、そういった本は「読者の期待を裏切る」ことになり、あまり売れないせいか、残念ながらほとんど存在しません。
もちろん、大学の教科書として使われているような「心理学入門」であれば、そういった誤解を招く内容にはなっていないのですが、今度は一般読者には難しすぎて最後まで読めないでしょう。

いろいろな「心理学入門書」を見た中では、本書がほとんど唯一、最初に「心理学っていうのは『心理テスト』とかからイメージするような学問じゃないんだよ、巷の心理テストというのはただの占いだよ」という、一般読者が心理学について最初に知るべき最も重要な情報から始まり、そこから先は直球勝負の本来の心理学の話題が書かれています。
しかも、一般向けの啓蒙書ですので、イラストも豊富で誰でも気軽に読めます。

もちろん「入門書」ですから、本当に基礎的なことしか書いてありませんし、内容がやや臨床心理学に偏りすぎかな?という意味での不満もあります。
ただこれは、著者が福祉の現場で働いている心理士だということからすると自然なことだと思いますし、自閉症児の療育、という関心に基づいて心理学を学ぶという意味ではむしろプラスに働くかもしれません。

この本を読んでも、人の心が読めるようにはならないですし、人を操ることができるようにもなりません。
でもそれこそが心理学の本来の姿(現在の姿?)ですし、そういったことが「できるような気になる」誤った本に比べれば、はるかに多くの正しい知識を得ることができる本だと思います。

一般的な心理学を知るための最初の本としては、本書をおすすめできると思います。

補足:お手軽な科学啓蒙書で最も有名な「図解雑学」シリーズでは、「心理学入門」はまずまず手堅い内容になっています。(教科書的であまり読んで楽しくなさそうですが)
間違っても同じシリーズの「心理学」は買ってはいけません。こちらは、「宇宙飛行士が宇宙で自閉症になった」というトンデモ記事が載っている目も当てられない本です。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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