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2006年09月14日 [ Thu ]

卒論の話。

唐突ですが、今日は、私が大学時代に書いた卒業論文の話を書こうと思います。
ちゃんと最後で自閉症とつながりますので、ご興味があればお読みください。

先日、「認定心理士」の資格申請のために大学のかつての研究室に行って、自分の卒業論文「自己組織化モデルの和音知覚への適用−適応過程としての和音知覚」(そらパパ、1993)を十数年ぶりに読みました。


↑クリックすると、卒論を読むこともできます(笑)。酔狂な人はご覧ください。

そして、読んでみて、実は現在の関心ごとである「自閉症の療育」と関連のある実験結果が出ていることに気づき(そんな内容は完全に忘れていました)、少し驚いたというわけです。

当時、私はけっこう作曲とかに関心があって、音楽理論を独学でかじっていたところ、ちょうど大学3年のときの心理学の講義で「音響心理学」というのを受け、音に対する知覚というのが心理学の研究テーマになりうるということを知りました。

そこで、卒論のテーマとして、音楽理論と音響心理学とが交わる領域である「協和感」の問題、つまり「協和音程(例えばドとソを同時に鳴らした場合)が協和的に聞こえて、非協和音(例えばドとレ)がそう聞こえないのはなぜだろう?」という、以前から興味を持っていたトピックに取り組むことにしました。

私はこのテーマを、人間を使った実験ではなく、コンピュータによるシミュレーション実験によって研究しました。当時、「うちの卒論で人間相手の実験をしないなんてのは聞いたことがない」と言われました(笑)。

ここでコンピュータシミュレーションの際に利用したのが、コホネンの自己組織化モデルといわれるニューラルネットワークです。
詳細は省きますが、これは以前にも何度かご紹介した(1, 2, 3)、コネクショニスト・モデルの一種であり、脳細胞のネットワークを模した学習システムをコンピュータ上に用意し、その上でさまざまなシミュレーションを行なうという研究方法です。

この卒論では、声をはじめとする「日常の音」を聞いているだけで、和音に対する協和感が学習されていく、という仮説を検証しました。
そして、さまざまな条件を設定してシミュレーションを行なった結果、期待どおりの学習が成立する場合としない場合が出てきたのですが、その「成立しない条件」の中でもっとも際だっていたのが、「音程差の弁別閾を実際のヒトと異なる大きさにした場合」でした。
音程差の弁別閾とは、例えばドとソの和音を聞くとき、片方の音の音程を微妙に変えていくと、どのくらいの差で「違う音程だ」と分かるか、という最小の量を指します。ヒトの音程差の弁別閾は、一般には半音の1/3程度だと言われています。
シミュレーションの結果、弁別閾をこの一般値の近辺に設定すれば期待どおりの協和感が発達する一方、弁別閾を広げても狭めても協和感の発達が遅れたり通常とは異なった協和感が発達する、ということが分かりました。

ここでは、「狭めても」という部分が重要です。
音程差の弁別閾が狭い、というのは、音程差を知覚する能力が高いことを意味しています。つまり、弁別閾を、刺激に対する「感度」だと考えると、感度が高すぎても低すぎても、認知の発達にはマイナスに働く可能性がある、ということを示しています。
この実験からは、ヒトが協和感を学習するためには、小さな音程の違いが適度に無視される、ある程度大ざっぱな(感度の鈍い)音の知覚が重要な役割を果たしていることが分かりました。

ここで、自閉症の話に移ります。

この私の卒論の実験結果で重要なことは、環境の知覚に対する感度が「高すぎる」、つまり、環境の小さな違いを無視できずに「違い」として知覚してしまうことは、環境への適応に対してむしろマイナスに働く、ということです。

自閉症児は、物事に対してかたくなな態度をとる傾向があり、環境の変化に適切に対応することができず、変化に抵抗することもしばしばです。
このような環境への適応の不全は、単純に考えると、環境からの情報を十分に得ていない、情報に鈍感であることによるものと考えてしまいがちです。

しかし、実はまったく逆である可能性があります。
つまり、自閉症児は環境からの刺激に対する「感度」が高すぎるために、どんな小さな違いも無視することができず、いつもまったく新しい環境と直面しているような知覚をしているために環境への適応が進まないのかもしれないのです。
「適度に大ざっぱな知覚・情報処理」は、行動の汎化のためにも重要です。汎化の障害と自閉症の症状との間には密接な関係がありそうだ、という話題も、以前書きました。自閉症者の体験記などで常に話題になる「感覚過敏」も、刺激に対する感度が高すぎる可能性を強く示唆しています。

実は、こういった、刺激への感度と自閉症の症状の関係は、単に私の卒論から独断で結びつけただけの話題ではなく、別の角度からも問題提起されているテーマです。

 

自閉症の謎を解き明かす
著:ウタ・フリス
東京書籍

例えばこの本でも、表現は異なりますが、自閉症児者が細かい「部分」に対して敏感であり、それを安定した全体として把握する力が弱いことが指摘されています。
この本では、その理由を高次脳機能である「中枢統合力の障害」に求めていますが、私はそうではなく、そもそも脳のネットワークが刺激に対して敏感すぎるのが原因ではないかと考えているのです。(この本も読了したので、またレビューしたいですね。)

私の卒論に偶然に示されていた刺激への感度と認知の発達の関係、その実験結果と自閉症児の障害とのある種の類似性、さらには自閉症児が刺激への「感度」の異常を持っている可能性を示す多くの証拠、これらを総合的に考えると、次のようなシンプルな仮説も成り立つことになります。

[何らかの脳の障害]
    ↓
[刺激への感度の異常な高さ]
    ↓
[感度が高すぎることによる知覚・汎化の障害]
    ↓
[自閉症のさまざまな症状]


自分の卒論を改めて読んだことがきっかけで、ようやく、これまでご紹介していた「知覚の恒常性障害仮説」を更に発展させた新しい自閉症論が書けそうな気がしてきました。
この記事を足がかりにして、近日中にまとめていきたいと思います。

posted by そらパパ at 22:36 はてなブックマーク | コメント(4) | トラックバック(0) | 理論・知見
この記事へのコメント
はじめまして。
最近、このブログを知り読ませていただいています。特に「知覚の恒常性障害仮説」はプリントして車に乗せていて何度か読み返しています。知覚のフォーカス機能が基盤となる障害と思っていましたが、知識のない自分にはこんなに整理・発展できませんでした。また、知覚に障害の核となる問題があるといったセミナーや学習会で聞いたことはありませんでした。
相談を受けたり、自閉症を説明したりする福祉の世界で働くものとして、自分の不勉強を深く反省しながら、そらまめさんのブログを中心に、再度、自閉症の勉強しなおそうと思っています。新説楽しみにしています。よろしくお願いします。
Posted by 東風(こち) at 2006年09月15日 01:32
東風さん、はじめまして。

「知覚の恒常性仮説」には、今読み返すといくつか弱点があります。
新しい仮説は、方向性は大きく変えないのですが、その辺りにかなり手をいれたものになる予定です。
来週あたりから掲載できればと考えています。よろしければご覧になってください。(^^)
Posted by そらパパ at 2006年09月15日 23:15
そらパパさんこんにちは。
久しぶりに、コメントさせていただいています。
この秋から、なんとか時間が取れそうなので放送大学にて、養護の二種免許を取るべく勉強を始めることにしました。(やっと。)
重度重複クラスに在籍する自閉症の生徒達と毎日接していて思っていたのですが、自閉症の生徒達は、聴覚、視覚、触覚、味覚など、私たちが見て取れる範囲においては、とても刺激に対して敏感です。なので、少しの変化に対する混乱が生まれたり、特定の音、現象等へのこだわりが生まれているのだろうと、思っていました。不勉強ゆえのことでしたが、そらパパさんの今回の仮説、すとんと胸に落ちました。
現在臨時免許運転中ゆえ、(高校の理科の免許しか持っていないのです。)自分の感じ方、生徒のとらえ方が、正しいのか、間違っているのか、迷いながらの毎日なのですが、なんだかすっきりです。これからもよろしくおねがいいたします。
Posted by なおりん at 2006年09月17日 13:01
なおりんさん、

私の書いているのは、あくまでも仮説ですので、本当に妥当性が高いかどうかは、まだまだ検討を続けていかなければならないと思います。

ただ、これまでほとんど注目されてこなかった領域である「コネクショニズム」の世界で、実は自閉症の発生の仕組みに関する結構クリアな仮説が出てきていることを最近知り、この仮説を理解して、ぜひとも広く紹介していきたい、と考えています。

これから書こうと思っているのは、私自身の「知覚の恒常性障害仮説」と「アフォーダンス理論」、さらには上記の「コネクショニズムからの自閉症へのアプローチ」などを組み合わせたものになりそうです。

ご興味を持って読んでいただければ嬉しく思います。
Posted by そらパパ at 2006年09月18日 22:46


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