今回は、いわゆる「ポイントカード」についてと、あとがきです。
4.ポイントカードについて
自閉症療育でよく使われるのが、「ポイントカード」です。
これは、家事や課題など、子どもが期待される行動をしたときにシールや花マルなどの「ポイント」を与え、ポイントが一定数たまったら、欲しいものが手に入ったりやりたい遊びができたりする、というシステムです。
少し考えると、これはABAの「強化」のしくみを応用していることが分かりますね。
ポイントがたまったときに手に入るものや遊びが、「ごほうび」であることはもちろんです。
そして、その「ごほうび」を手に入れることができる権利=ポイントも、子どもがその意味を理解することができれば、同じように「ごほうび」としての力を発揮します。
これによって、
・全部強化のメリット=望ましい行動をするたびごとに「ポイント」を与えることで、望ましい行動を着実に強化できる
・部分強化のメリット=ポイントがたまるまではリアルな「ごほうび」を与えずに済むので、「ごほうび」の総量を抑制できる
という、2つのメリットをうまく両方とも得ることができるため、家庭でのABA療育でもしばしば利用されます。
ポイントカードの仕組みを活用するときのポイントは以下の通りです。
・子どもがポイントカードの意味を(少なくともある程度は)理解していること。
・始める前に、必ず「どんなときにポイントが得られるか」「ポイントがたまったときのごほうびは何にするか」「そのためのポイントはいくつためなければならないか」を親子でしっかり確認し、合意すること。
・一度決めたポイントカードのルールは、必ず守ること。
ポイントカードによって子どもの行動を変えていく取り組みは、他のABAの働きかけと比較するとかなり高度なものになります。
実際にチャレンジしてみて「これはまだ難しいかな」と感じた場合には無理をせず、ポイント以外のより直接的な「ごほうび」を活用する戦術に切り替えることも大切だと思います。
最後に
これで、今回の「子育ての工夫としてのABA」というシリーズ記事は終わりになります。
最初の話題に戻りますが、ABAの真髄というのは、テクニックではなく、「内面モデル」を使わずにいろいろな行動のしくみを説明しようという、ABAの「考えかた」にあります。
その画期的な「ABAの考えかた」があるからこそ、ABC分析、強化、消去、手助けといったABAのさまざまなテクニックが活きてきます。
ABAを日々の子育てや療育のなかにうまく取り入れるためには、まずはABAの「テクニック」ではなく「考えかた」を理解していただきたいのです。
とはいえ、今回とりあげた「スーパーでのパニック」の例は非常にシンプルだったので、恐らく「ABAモデル」であっても「内面モデル」であっても、似たような結論と対処法にたどりつけるかもしれません。
でも、もう少し複雑な例、例えば「学校の先生の前では素直なのに、親の前ではパニックばかり」という問題があった場合、様相はかなり異なってくるのではないでしょうか。
こういった問題に対処するために、内面モデルでは、例えば「愛着」とか「トラウマ」とか「アンビバレンツ」といった概念を持ち出してくることがあります。いわく「親に対するトラウマがあって・・・」とか「親に対しては接近したい気持ちと反発したい気持ちのアンビバレンツ(二律背反)があって…」みたいな「解釈」があって、「だから、親に対する態度が先生とは異なるんだ」という結論が導かれたりします。
そうすると、その「対応法」は、「親が子どもを受容する」とか「抱っこやスキンシップで子どものトラウマを解消」みたいな方向に向かっていくでしょう。
ABAでは、そんな面倒な方法はとりません。
同じ子どもが、先生への反応と親への反応が異なるとすれば、それは先生に対する行動と親に対する行動について、それぞれ「異なった強化のメカニズム」が働いている、と考えます。
簡単なことで、例えば、抱きついたら殴られる人と、抱きついたら抱きしめ返してくれる人がいたとすれば(これはまあ極端ですが)、その2人に対する「抱きつく」という行動の現われかたはまったく違ってくるに決まっています。
それと同じように、さまざまな子どもの行動に対して、対応する人の対応の仕方が違えば、「強化のメカニズム」も違ってきて、結果としてどのような行動が多くなり、どのような行動が消えるかという「行動のパターン」が対応する人によって違ってくるのは当たり前なわけです。
ですから後は、親の子どもに対する対応のうち、パニックを増やしてしまっている「強化のメカニズム」としてどんなものがあるかを分析し、それら1つ1つについて「強化のメカニズム」を変えていく、という「対応法」が導かれます。
こういった例を比較すれば、「内面モデル」に基づくアプローチと、「ABAモデル」に基づくアプローチがまったく異なることがはっきりすると思います。
ABAモデルの優れた点は、まずは何よりも「目に見えるところで勝負ができる」ということ、それに加えて、新しい問題や複雑な問題が出てきても、むやみにそれらを「新しい概念を作ること」で説明しようとしない、ということにあります。
先ほどの例でも、「内面モデル」では「愛着」とか「トラウマ」といった、目に見えない新しい概念が登場しましたね。それに対して、ABAでは、これまでの「強化のメカニズム」の考えかた一本で問題を解決しようとしています。
新しい概念がいろいろ登場すると、その理論が「奥が深い」ように感じられるかもしれませんが、実際は逆です。少ない概念で多くの問題に対応できる理論こそが、本当に力があって「奥が深い」理論なのです。
その証拠に、トンデモ系の理論とか、スピリチュアル系の世界観は、大抵ものすごく複雑な概念がいっぱい出てきますよね。それは、そうやって「新しい概念」をたくさん作っていかないと、説明できない取りこぼしがたくさんあることの裏返しなのです。
だから、言い換えると、ABA的に考えることの真髄は、「複雑な概念をたくさん覚えようとしないこと」にあるとも言えます。
ABAは「応用」ということもあって、さまざまな人がさまざまなテクニックや概念に独自にネーミングして、独自の体系を作っています。
特に、「現場のカリスマ」的な人ほど、さまざまなオリジナルのテクニックを「○○法」などと呼んで、自著でずらりと紹介したりしていることでしょう。
そういった複雑なテクニックや体系は、もちろん「現場の知」として大いに価値がありますし、うまく活用すれば大きな力を発揮してくれるでしょう。
でも、ABAの「根っこ」は、常にごくシンプルな「強化のメカニズム」、これだけで動いていて、そこに余計な肉はついていないことを、いつも思い出していただきたいと思います。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)