みんなの自立支援を目指すやさしい応用行動分析学―「支援ツール」による特別支援教育から福祉、小・中学校通常教育への提案
高畑 庄蔵
明治図書出版
第1章 みんなが応用行動分析学を使えることを目指した「支援ツール」の提案
第2章 子どもと保護者のせいにしない支援
第3章 「ナンバーぞうきん」であきこさんの自発的行動を高める
第4章 「お手玉ふっきん」でたけし君の家庭と共同実践する
第5章 手がかりツールの工夫
今月は大豊作!
「自閉症のすべてがわかる本」が、自閉症とTEACCH入門の決定版だとすれば、本書はABA(応用行動分析)実践入門の決定版だと言えるでしょう。
(一点だけ問題があるのですが、それは最後に書きたいと思います。)
読み始めると、ABAの理論と実践の両方に精通している人が書いている本だ、ということがすぐに分かります。
それもそのはず、著者は、まだ40代になったばかりなのに、養護学校の教員としての経験の中でのさまざまな支援ツールの開発が認められて、北海道教育大学の助教授に抜擢されたという、一言でいえば「ただ者ではない先生」です。
一般に、応用行動分析(ABA)は難解だと言われています。
私自身は、ABAはシンプルな概念によって構成された方法論で、他の療育技法と比べてそんなに難しいとは思わないのですが、ABAの「思想」が常識とはかなり異なっていることが、ABAを難しく感じさせている側面はあると思います。
そのような、「ABA的考え方」に慣れる、そして、ある意味「常識とはまったく異なった世界観」に触れるための必読書として、当ブログでは以前から「行動分析学入門」をおすすめしています。
ただ、問題はこの本の後、実際にABAを実践するために、次に何を読むか?でした。
今まで、いくつかの本を紹介していたのですが、正直、「これがベストだ」と言えるような本はありませんでした。
ABAを、その効果が十分に出るかたちで実践するためには、「機能分析」「介入方法の決定」「観察・記録(実験デザイン)」といった手続きを正しく踏むことが求められます。
ところが、従来のABA本では、そこまで踏み込んだ本は「自閉症児の親を療育者にする教育」とか「行動変容法入門」くらいで、これらはどれも「入門書」とは言いがたく、心理学の素養があるか、よほど熱意がないと読みきれるものではありません。
一方、より易しい入門書では、そこまで「ABAらしい」方法については触れられず、強化とか罰といった、ABAというよりはそれより古いオペラント条件付け理論による、昔からの「行動療法」の内容に留まっているものがほとんどでした。
さらに、最近の「ABA本」の傾向として、アメリカ的(ロヴァース的とも言えますが)な療育観に基づいて、ことばやコミュニケーションの療育にばかり力点を置いた本が多いことも指摘できます。
これも以前から書いていますが、ABAが本当に力を発揮するのは、問題行動を社会的に意味のある行動に変えていく、まさに「行動変容」にあるのであって、「ことば」へのABAの適用が有効かどうかは議論の分かれるところです。私は、少なくともABA「入門」の段階では後回しにすべきテーマだと思っています。
本書は、私がこれまでの「ABA実践本」に感じていたこれらの不満が解消された内容で、「行動分析学入門」の次に読む本として自信を持っておすすめできます。
1.やさしい。
ビデオカメラやデジカメでも良くありますね、「厚い取扱説明書」と「薄いはじめてマニュアル」の2つがついているものが。
まえがきで著者みずからが書いているとおり、本書は、ABAという難解な療育法をとりあえず理解するための「薄いマニュアル」という位置付けです。実践例がまんがで多数挿入され、ページ数も150ページ足らずです。
2.結構本格的。
しっかりABAしてます。ただの古い行動療法ではありません。
問題行動を「機能分析」し、「手がかりツール」によって介入の方法を工夫し、「交換記録ツール」によってABデザインによる実験デザインを導入するなど、先に紹介した難解な本と比べても遜色ない本格派のABAが紹介されています。対立行動分化強化、他行動分化強化といった応用的な技法も、さらりと紹介され実践されています。
3.行動変容に焦点を当てている。
ABAが劇的な効果を持つことが証明されている、行動の変容に的を絞って解説されているために、ロヴァース系の本による「いすに座って課題をさせて、音声模倣をさせて・・・」といった偏ったイメージで誤解されがちなABAの、本来の実践の姿を知ることができます。まさに、「これぞ王道のABA!」という感じです。
本書をある意味象徴しているのは、冒頭の10ページにわたる長編?まんがでしょう。
肥満で多動、パニックも激しい重度の自閉症児である「あきら君」の問題行動をABAによって変容させ、最後には農場への就職に成功する話は、中度~重度の障害を持つ自閉症児の親(私も含む)にとって、まさに理想的なサクセスストーリーです。
この話が実話であるということが、このインタビューから読み取れます。
http://www.mainichi.co.jp/universalon/clipping/200601/157.html
さらに重要なことは、こういった「成功談」を読んだときによく感じる「ああ、これは運が良かったケースだね」という印象をこのまんがからはほとんど感じず、むしろ「こんな風に頑張れたら、誰でもきっとうまくいくんじゃないか」と思える点にあります。
本書のさまざまな実践例は、このまんがに代表されるような「ABAを適切に活用すればどれほどパワフルで効果的な療育ができるのか」をまざまざと実感させてくれます。
これだけ素晴らしい本ですので、殿堂入り!・・・としたいところだったのですが、唯一残念なのが、ABAの用語がけっこう間違っている、という点です。
40~41ページで「消去」として紹介されているのは、正しくは負の弱化(負の罰/好子消失による弱化)であり、このページでは本当の「消去」は解説されていません。(正しくは、消去というのは「行動が強化されない(何も起こらない)ことにより行動が減少すること」です。)
また、「負の強化随伴性」という言葉も、54~55ページ以外での使われ方は正しくありません。30、32、33、50、111ページの「負の強化随伴性」はすべて「正の強化随伴性の欠落」と読み替える必要があります。
さらに、プロンプトを徐々に減らしていく「フェイディング(fading)」という言葉が、誤って「フェンディング」と書かれています。
用語が間違っているだけで、書いてある内容の誤りではないのですが、ABAはこの辺りが厳密な学問ですので、僭越ではありますが書いておきたいと思います。
※その他のブックレビューはこちら。
いつも読み逃げばかりで、、今日は勇気をだしてコメントします
素晴らしいブログですね、そらパパさんのブログを読んでいつも勉強させてもらっています(*^_^*)
今日、紹介された本、さっそくアマゾンで注文しました。
頑張って読んでみたいと思います。
著者の方にお越しいただけるとは恐縮です。
身勝手な指摘をしてしまい大変失礼いたしました。
ABAとは、ある種の「確実性」と「効率」を目指すものだという問題意識は、まったくそのとおりだと思います。
日本では、自閉症とABAというと、逆にきわめて非効率なロヴァース式の早期集中介入ばかりが話題になりますが、本来、ABAとは、誰でもすぐにできて、しかも確実に効果のあがる療育技法として評価されるべきものだと思います。
娘もこのままいけば、3年後には養護学校のお世話になる可能性が高いと思っています。そのときに、高畑先生のような先生に巡り合えたら幸せですね。(^^)
素人パパのなんてことはないブログですので、ぜひ気軽にコメントなど書いていただけると嬉しいです。
この本、かなり気に入ってます。
いすに座って課題をやらせるのとは違う、より実践的なABAを知ることができる貴重な本です。
これからもよろしくお願いします。
ちょくちょく読み逃げしてました (^ ^)
以前、私のブログに書き込み下さってありがとうございます。
私の本も、紹介して下さってありがとうございます。
そらパパさんのABAの記事、とても納得できます。
私がなんとなく感じていた事が、さらりと書いてあり感動です。
もっといろいろ書きたいですが、難しい話は苦手なのでこの辺で・・・(^ ^)
ろんろんさんのような有名人の方に読んでいただいていたとは嬉しい限りです。
ABAに関しては、私はロヴァース式懐疑派で、ろんろんさんはマンガから判断してロヴァース式賛成派のように感じていたので、私の記事を肯定的に読んでいただいていたというのは、正直、ちょっと意外でした。
これからもぜひよろしくお願いします。(_o_)
有名人とか言われると、気恥ずかしいです・・・。
↑多分、私よりそらパパさんのほうが有名だと思うんですが・・・。
私はロヴァース懐疑派ではないですよ(^ ^)
専門家の先生と二人三脚で子どものスキルアップをしてきました。私にとってはロヴァース式というより、先生のプログラムでやって来たという感覚です。
週、何十時間とかはやってません。
娘がこの方法にピッタリはまったのが、続けられた一番の理由だと思います。何よりも、私と娘の楽しいやりとりの時間だと感じていました。
私がそらパパさんの記事で共感できることは、ABAが言語の獲得以外でも、効果的だということです。
イスに座らせて・・・から入った私ですが、もっと奥の深いものだと感じています。
それではーーっ。
なるほどー。
でも、母子の「かかわり」が深まった状態でトレーニングできていたとすれば、それはABAとしてだけでなく、「かかわり」や相互作用、コミュニケーションのトレーニングとしても役に立っているのかも知れませんね。
ABAをやっていてそういう状態に持っていけるというのは、とても素晴らしいことだと思います。いい先生に恵まれたことと、ろんろんさんの努力の賜物ですね。(^^)
うちは毎日15~20分という極めて短時間のABAもどきを妻にやってもらっています。娘の場合、ABAがとても楽しい、という感じにはなっていないので、これくらいの時間が(母子ともに)限界なのかな、と感じながら続けてもらっています。
あー、正しくは、『フェンディング』ではなく、『フェイディング』なんですねー!
今読み返していて解りましたー。
やっとこの本を読み終えることができました。(遅っ)
で、このときの記事に確か間違いがあるって書いてあったなぁ・・・と思い出して、読んでみたという訳です。
やっと次の本に進める~
そうですね、「fading」ですので、「フェイディング」が正しいです。
ABAの基本的な知識はこの本と「行動分析学入門」で十分だと思いますが、さらにもう1、2冊読むなら、門先生のページで無料で配布されている「子どもと親」か、以前レビューした「うまくやるための強化の原理」がおすすめです。
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/atoz3/kado/book1/book1.htm
↑「子どもと親」のあるページです。
そらパパさんの紹介でこの本を知り、高畑先生にも実際お会いすることができました。
これからの復帰と活躍を楽しみにしていたのですが、残念です。
貴重な情報ありがとうございました。
高畑氏が亡くなられたと聞き、本当にびっくりしています。
あまり体調がよくないというお話は、風の噂に聞いたことがありましたが、事故に遭われていたとは・・・
この記事のコメント欄にも顔を出してくださいましたし、これからも素晴らしい本や活動に期待していただけに、本当に残念です。