自閉症のすべてがわかる本
佐々木 正美
講談社
1 おとなしいのは、病気だから?
2 原因はしつけじゃない
3 専門家と協力して療育をすすめる
4 TEACCHで社会性を身につける
5 社会生活に入っていくために
これは、ものすごくいい本です!
このブログのテーマである「自閉症児の家庭の療育」に、これほどまでにしっくりと当てはまる本が出たことは、これから自閉症というものを知り、療育に取り組んでいかなければならない親御さんにとって、大きな福音と言えるでしょう。
(この後、中身を一部転載します。もし問題あるようでしたら、ご連絡いただければ削除します)
本書は、各章の最初に導入として見開き2ページの「ストーリー」があります。
ある夫婦が、「自分の子どもは何かおかしい」と感じるところから、子どもが自閉症だと知り、TEACCHによる療育に取り組むようになるまでが段階を追って描かれていきます。

↑第2章の導入ストーリー。子どもが周囲に溶け込めず、しつけが悪いのかと育児書を調べた結果、自閉症の可能性に気づき、これからどうしていこうかと悩む姿を描いています。
そして、第1章は「自閉症とはどんな障害か」、第2章は「自閉症の原因は何で、どこでどうやって診断するのか」、第3章は「自閉症児の療育法の一般論」、第4章と第5章はTEACCHに絞った詳細な療育方法について、イラストと図表をベースに分かりやすくシンプルに解説されます。
この構成とその内容もよく考えられている、と思います。
第1章の「自閉症とは」にしても、よくあるような自閉症の定義を延々と書くといったことは一切なく、幼い頃から見られる自閉症の徴候(サイン)を箇条書きで並べながら、その徴候の全体像として、自閉症の三つ組みの障害が浮かび上がるような書き方になっています。
そして続く第2章、第3章も、子どもが自閉症らしいと知ったら必ず知りたくなる「原因は何?どうやったら治るの?どんな治療法があるの?どこに相談すればいいの?」といった疑問に、過不足なく答える内容になっています。
つまり、本書の1章から3章までを読めば、子どもが自閉症かも知れないと分かった親御さんがすぐに知りたいことは、およそ網羅されているということになります。ここまでのボリュームはわずか50ページ弱、しかもほとんどがイラストと図表ですから、1時間か2時間もあれば読めてしまいます。
この「すぐ読めて全体像がわかる」ということは、自閉症の入門書としてはとにかく大切だ、と思います。
よくある不幸なパターンは、これらの疑問を解決するのに時間がかかり、その間に不安ばかりが募ってしまい、たまたま見かけた「自閉症の原因は○○で、××療法で必ず治る」といった、妙に「分かりやすい」インチキ療法に引っかかってしまう、というものです。
正しい知識を最初に知ることこそが、インチキ療法への強力な免疫力になるのです。
そして圧巻は、本書の残り半分を占める第4章、第5章の「TEACCH入門」です。
私は以前、「初めてTEACCHを本で学んだとき、よく分からなかった」ということを書きました。
そのときは実際、「TEACCHは何を療育するのか」が分からなかったのです。
ところが、本書をみるととても分かりやすく書いてあったりします。

ここに書いてある6つの項目が、「TEACCHが療育しようとする領域」です。
率直にいって、このためだけにこの本を買ってもいいくらい、この図には価値があると思います。
少なくとも私が今までに見たどのTEACCH本を見ても、こんなに具体的にTEACCHの療育が目指す方向性を明示したものはなかったと思います。この図を療育のスタート地点で見ることができる親御さんが、少しうらやましいくらいですね。(^^)
続いて、「家庭でどんな療育をすればいいか」がTEACCHの理念に基づいて解説されます。もともと薄い本なので、ページ数そのものはそれほどではありませんが、どのページのどの図表にも、TEACCHのエッセンスがぎゅうぎゅうに詰まっています。流し読みせずに一字一句じっくり読めば、おそらく本書の3倍くらい厚みのある本と同等以上の療育ノウハウを学ぶことができそうです。
そもそも、家庭療育にここまで明快に焦点を当てたTEACCH本はこれまでなかったと思いますので、そういう意味では「唯一無二」と言ってもいいかもしれません。
これまで、TEACCHという名前は有名でも、じゃあ具体的にどんな療育法なのかといえば、一般には、「構造化」とか「絵カード」といった断片的なテクニック以外は良く分からない、という状況が続いていたように思います。
以前、そういう状況を打破して、「TEACCHの療育とは具体的にどんなものなのか」を教えてくれる本が出てほしい、という話も書きましたが、本書は、その希望に応える本を、ついに大御所の佐々木先生がまとめてくれた、といえるものになっていると思います。(もちろん、個人的にはもっとボリュームのある形で出てほしかったとも思いますが、このコンパクトさで出すほうが多くの人にメッセージが届く、という判断があったんだと思います)
本書は迷いなく殿堂入りです。
我が子の自閉症の可能性に気づき、検索して初めてこのブログに来られた方、まずはこの本を読んでみてください。それから、いろいろ考え始めることをおすすめします。
補足:一点だけ、本書に関する留意事項です。
本書は、明快にTEACCHの立場に立った本です。ですから、一般的には意見が分かれているような問題についても、TEACCHとしての立場で結論づけられている傾向はゼロではありません。
具体的な例として、統合教育と特殊教育、どちらがいいか(初版94-95ページ)という議論について、環境のコントロールができる特殊教育の方が望ましいことが多い、と説明されています。(もちろん統合教育を全否定しているわけではありませんが)
ですから、本書は「自閉症のすべてがわかる本」となっていますが、正確には「TEACCHの世界観から見た自閉症のすべてがわかる本」だと考えるべきでしょう。
(私から言わせれば、立場が明確であればこそ、論理に首尾一貫性が出て価値が高まるわけで、この留意事項は実際にはまったくマイナス評価すべきポイントではありません。)
※その他のブックレビューはこちら。
補追:TEACCHに関連して、本書に続く「親御さんが次に読むTEACCH本」がなかなか見つからなかったのですが、おすすめできる本が登場しました。こちらの記事もご覧ください。
この本、いいですよねえ。
もちろん、あくまで「入門書」なんですが、レビューで紹介した「TEACCHでここを変えていく」のページとか、他のどのTEACCH本を読んでも今一分からなかったTEACCHのかんどころみたいなのがよく分かる気がするんですよ。
ちなみに、今日紹介したABAの本も、同じくイラストが多くて中身が濃い、なかなかのすぐれものです。
このシリーズでは、知的な障害の目立たない自閉症スペクトラムについての「アスペルガー症候群のすべてがわかる本」というのも、同じ著者で出版されていて、そちらも高く評価されています。ご参考までに・・・。