まさか!うちの子アスペルガー? ―セラピストMママの発達障害コミックエッセイ
著:佐藤 エリコ
合同出版
Mママさんのエッセイが本になりました。
こちらの本は、以前当ブログでご紹介した「絵カードのお店」というサイトを運営されているMママさんが、ご自身のブログ「うちの子はアスパラガス?」で公開されていたコミックエッセイをまとめたものです。
副題にもコミックエッセイとあるとおり、本書のエッセイはすべて、4コマまんがの横に短い文章が足された1ページ読みきりで構成されていて、長い文章を読むのが苦手な方でも気軽に読み進められるようになっています。
さて、本書の内容ですが、一言でいえば「アスペルガー症候群(だと子育ての途中で分かった)の息子さんを育てるお母さんの子育てエッセイ」です。
息子さんが3歳のときに、旦那さんの母国であるアメリカに引越ししたMママさん一家ですが、現地で息子さんに障害(アスペルガー症候群)があると気づき、療育が思ったように受けられないからという理由から、Mママさんは自らがABAのセラピストになる道を選びます。
そして、セラピストとして働きながら、そこで学んだABAやPECSのテクニックを活用して子育て・療育にも頑張る毎日が描かれています。
自閉症スペクトラムのお子さんの子育てをテーマにしたまんがって、今までにもいくつも出ていますし、どれもそれなりに人気があると思います。(こちらの記事の「自閉症を知る(まんが)」という項をご覧ください)
そういった過去の自閉症子育てマンガと比較すると、本書は次のような特徴があるといえます。
・舞台が日本ではなくアメリカである。お父さんもアメリカ人。
・お子さんの知的能力はかなり高そう(ギフテッド的?)で、エッセイで取り上げられている話題の多くが、その能力の高さ(と、障害があることによるアンバランスさ)を取り上げている。
・お母さんがABAセラピストという特殊なスキルを持っている。
・・・つまり、一言でいうと、「かなり特殊な環境の『自閉症スペクトラムの子育て』が描かれている」ということになります。
ですので率直にいって、本書で描かれている日々の生活を、すごく身近に感じるというよりは「ああ、彼の地で、こんな風に子育てに頑張っている親御さんもいるんだなあ」と、少し遠いところでの興味深い話として読み進めていく感じになる方が多いのではないかと思います。
実は、先に写真を掲載したページでは、知的に障害が重くことばのない自閉症児と、著者のお子さんであるMくんとの出会いが描かれているのですが、私自身がことばのほとんどない知的に重い自閉症児の親だということもあって、このシーンでは、Mくんではなく、ことばのない自閉症児のほうに感情移入して読んでしまいました。
(とはいえ、自閉症スペクトラムのお子さんが巻き起こす事件は、どんなに環境が変わっても共通点があるなあ、そっくりだなあと感じるところも多々あるのは面白いところです。)
また、本書の大半は息子さん(Mくん)のユニークなエピソード(さまざまなこだわりや徹底したマイペースさ、それらが原因で起こるさまざまな「事件」など)によって構成されているのですが、例えば何かこだわりや問題行動があったとして、それをどんな風に解決したかといった話は、後半のABAに関連する話を除いてあまり描かれません。
確かに、私たち自身の子育てを振り返ってみても、多少こだわりや問題行動的なものがあっても、それらをみな解決していくというよりは、そのときそのときで折り合いをつけて「解消」していくことが多いわけですが、本書でのこだわりとか問題行動の扱われ方は、まさにそういう「日々のなかで折り合いをつけていく」それになっています。
そういう意味では、自閉症スペクトラムの子がいる家庭の、ありふれた子育てがリアルに描かれているわけなのですが、本書のような本を手に取る方の少なくない割合の方が期待されるような「子育て、療育のなかでのさまざまな問題解決のヒントになるような内容を」というニーズには、必ずしも合致しないようにも思われます。
後半、ABAやPECS(絵カード)の話題も豊富に出てきますし、コピーして切り取って使える絵カード集などの資料も載っていますが、それらの技法についても網羅的に記述されているわけではないので、これらの資料を活用するためには、ある程度のABAやPECSについて基礎知識が必要だろうとも思います。
さて、そんなわけで「自閉症について知るためのコミックエッセイ」という視点からは、ちょっと厳しいことを書きましたが、実は、私自身は本書をとても楽しく読むことができ、最初に読み始めて2時間くらいで一気に読み終わることができました。
端的に、読んでとても面白いコミックエッセイになっていることは間違いないです。
本書は、「自閉症について学ぼう」とか「自閉症の子育ての問題解決のヒントにしよう」とか、そういう堅苦しい考えを持って読み始める本ではない、と(思い切って)断定してしまいましょう。
そうではなく、楽しく読めるコミックエッセイの話題の対象がたまたま自閉症スペクトラムの子育てだった、そういう感覚でライトに読むべき本だと思います。
これまでの「自閉症まんが」が、比較的重苦しい雰囲気というか、大変さとか難しさが前面に出ているものが多いのに対して、本書は自閉症スペクトラムの子育てのユニークさ、面白さが前面に出ていて、すごく前向きなのが大きな特徴(特長)だと思います。
これから自閉症について学ぼう、という方よりも、既に自閉症児の子育てを続けていらっしゃる方、自閉症の本を何冊も読んで、息抜きになにか軽い本を読みたい方、あるいはもっとシンプルに、ちょっと変わった子育てエッセイやコミックエッセイが読んでみたいと思う方。
そういう「ライトなニーズ」にこそ、本書は存分に応えてくれると思います。
※その他のブックレビューはこちら。
本当に的を得ているレビューだと思います。
今後の課題にしたいと思います。
確かに私の体験は、ある意味かなり特殊なのかもしれませんね。
空パパさんの言うように、気軽に
>ちょっと変わった子育てエッセイやコミックエッセイ
として
沢山の人が手にしてくれれば嬉しいなと思います。
ありがとうございました。
手話は表情が必要なので辛いです。
あとニコニコでMMD作品作ってます。
ニコニコでは なかなか で通っています。
めっちゃ共感しながら、楽しんで読みました。
そういう「本」なんだと思います。
娘も入学式のバックパックのあたりとかを大笑いしながら読んでました。
啓発にとってもいいと思うので、スタッフや一般向けキャラバンの時にご紹介しようと思ってます。
Mママさん、
さっそくのコメントありがとうございます。
マンガなのでどんどん読めますし、ユニークなトピックが満載で、とても楽しく読ませていただきました。
どんな方にも気軽にすすめられる本に仕上がっていると思います。
百代さん、
コメントありがとうございます。
MMDですが、ちょっと頑張ったんですが娘に受け入れてもらえなかった(のと、思っていた以上に作業が大変だった)ために、それっきりになっています。
手話の世界も、日本語対応手話と日本手話があったりして、なかなか複雑だなあ、と思います。
ブログも立ち寄らせていただきました。これからもよろしくお願いします。
こうままさん、
コメントありがとうございます。
最近は、ツイッターなどでやり取りのある方が何人も本を出されていて、とても身近で嬉しく思うことが多いですね。
この本、ちょっとレビューには批判的なことも書きましたが(^^;)、おっしゃるとおり、とても「楽しめる本」だと思います。
こういう本って、今まであまりなかったと思います。
自閉症に関心をもってもらうための、すごくライトな入り口としてもいいと思いますね。