2011年04月04日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (12)

家庭の療育に活用するための、ABAの考えかた、使い方についてご紹介するシリーズ記事の第12回です。

前回までの記事で、ABAの基本となる考えかた(内面モデルを使わずに、「目に見える」世界で考える)と、問題行動への王道対応パターン(機能分析、代替行動の設定、代替行動への切り替え)をご紹介しました。
これで、まずは「ちょっと工夫のある子育て」として、家庭の療育にABAを取り入れるための基礎知識としてのお話は、一応終わりです。
ここまでの知識があれば、今日からでも、ABAを家庭の療育に取り入れ、毎日の子育てに「ちょっと工夫をする」ことができるようになるはずです。

今日は、これまでの記事でカバーしきれていない、もう少し高度なABAの話題について、家庭の療育に関係しそうな範囲で、簡単に整理しておこうと思います。

1.「環境づくり」について

問題行動への対処の方法として、これまでの記事では主に「パニックが起こりそうな状況になってしまった後の対処法」を中心にご説明してきました。

つまり、ABC分析でいえば、主として「C=行動の後に起こる事象」を操作することで、問題行動に対処しようとするやり方です。

欲求表現のような機能をもつ問題行動に対処する場合、多くはこのアプローチが有効になるでしょう。
一方で、例えば「混乱や見通しが立たないことが原因のパニック・問題行動」については、そもそも、そういったパニックや問題行動が起こってしまうきっかけとなる「混乱した状況」そのものを整理したり取り除いたりすることが有効な働きかけになります

例えば、課題の時間をやっていて、後半になってくるとパニックしてしまって逃げ出してしまうお子さんがいたとします。
そして、そのお子さんのパニックには「もうそろそろ課題をやめたい」というコミュニケーションの「機能」がある、という分析をしたとしましょう。

ABC

課題の時間が長く続く

パニックする

課題から逃げられる (↑)



このケースについて、これまでご紹介したやり方(ABC分析のBとCに注目するやり方)だと、既にご紹介したのと同様、「きゅうけいカード」みたいな絵カードを用意して、それを提示することを学習させる、という解決法が考えられますね。
これも1つの解決法で、お子さんのコミュニケーションの幅を広げるいい方法だと思います。

ABC

課題の時間が長く続く


パニックする

課題から逃げられない (↓)

絵カードを見せる

休憩できる(↑)



でも、このケースの場合、他にも効果的な対処法が考えられます。
ポイントは、ABC分析の「A」、つまり「行動が起こるきっかけ」「問題行動を引き起こしてしまうような環境・状況」に手を入れて、変えていく、ということです。

そもそも、なぜ課題の時間が長いとパニックが起こってしまうのだろう?と考えるわけです。

もしかすると、子どもの体力・集中力に比べて、1つのセッションが長すぎるのかもしれません。
だとすれば、セッションの時間を短くして、こまめに休憩をはさむようにすれば、パニックは起こらないかもしれません


もしかすると、子どもにとって課題が難しすぎるのかもしれません。
だとすれば、課題の難易度を全体的に下げたりとか、易しい課題と難しい課題をうまくブレンドすれば、パニックは起こらないかもしれません


もしかすると、課題の時間がいつ終わるかの情報がないために見通しが立たず、混乱しているのかもしれません。
だとすれば、スケジュール表を作ったり、タイマーで終わる時間を教えたりすれば、パニックは起こらないかもしれません


こんな風に、「問題行動が起こるきっかけ」「問題行動を引き起こしてしまうような環境・状況」としてどんなことが考えられるのかの「仮説」をいろいろ作ってみて、それらがそもそも起こらないようにしよう、という働きかけを行ないます。
そうすれば、「きっかけ」、つまりABC分析の「A」のマス目に入るような状況がそもそも発生しにくくなりますから、結果としてその後の「B」、つまりパニックなどの問題行動も起こりにくくなるわけです。

ABC

課題の時間が長く続く


パニックする

課題から逃げられない (↓)

絵カードを見せる

休憩できる(↑)

課題の時間・負担・見通しに問題がない課題を順調に遂行(パニックしない)課題ができたことをほめられる(↑)


こういった働きかけは、お子さんをとりまく環境を、より活動しやすく問題行動が起こりにくいものに作り変えていくものですから、「環境づくり」と呼ぶことができるでしょう。
そして面白いことに、こういった環境づくりという働きかけを考えるときは、「構造化」を初めとするTEACCHのテクニックが参考になるケースがとても多いのです。

ABAを中心に療育を組み立てていこう、と考える親御さんにとっても、TEACCHを学ぶ意義はこんなところにあるわけですね。
TEACCHには、「環境づくりのノウハウ」、ABC分析の「A」に働きかけるアイデアが満載です。


参考図書



おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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