パニックという「問題行動」を、絵カードを見せるという「代替行動」に切り替えるために、最初は絵カードを見せるための行動をすべて支援者の側が「手助け」します。そして、「絵カードを見せる」→「ごほうびが手に入る(=ゲームコーナーで遊べる)」という「成功経験」を何度も繰り返します。
これが、ABAで何かを学習させるときの、基本的なステップになります。
例えば、机に座らせて課題をやらせるためにABAを活用する場合でも、最初はすべて手助けして、それでうまくいったらごほうびを与える、の繰り返しです。
ともあれ、手助けつきの学習を繰り返していくうちに、少しずつ、お子さん自身の自発的な「絵カードを見せる」という動きができるようになってくるはずです。
自発的な動きが出てくるようになったら、「できる」という成功体験を壊さないように、少しずつ少しずつ、「手助け」の量を減らしていきます。
手助けを減らすときには、これも常識とは少し違うかもしれませんが、「後ろから」減らしていきます。
そのためには、「絵カードを見せる」という行動を、さらに細分化して、「細かい行動の一連の流れ」に分解するところから始めます。
例えば、絵カードをバインダに入れて携帯させているようなケースでは、
①バインダを取り出す
②バインダを開く
③バインダから絵カードを選ぶ
④選んだ絵カードを取り出す
⑤絵カードを親に見せる
といった感じになるでしょう。
このように5段階の「手順」を設定した場合、最初は、①から⑤まで、すべて手助けします。
そして、少し慣れてきたら、次は①から④までを手助けして、最後の「⑤絵カードを親に見せる」だけを、子どもだけでやらせてみます。
それがうまくいけば、今度は①から③まで手助けして④と⑤は子どもだけで、という風に、行動の全体の流れのなかの、後ろのほうから徐々に手助けを減らしていって、最後はすべての手順(①から⑤まで)をすべて子どもだけでできるようにすることを目指すわけです。
このように「手助け」を少しずつ減らしていく「手助け減らし」も、ABAのなかでしっかりと体系化されテクニックとして整理されているものです。
そして、学習させるべき行動をいくつかの手順に細分化し、その手順の後ろのほうから徐々に手助けを減らしていくやり方を「後ろから法」とここでは呼びます。
※ちなみに、本来のABA用語では、「手助け」のことを「プロンプト」、「手助け減らし」のことを「プロンプト・フェイディング」、「後ろから法」のことは「バックワード・チェイニング」と呼ばれています。全部英語ですね。
ちなみに、ABAでいう「手助け」には、「手とり足取り、実際に相手の体を動かして手助けする」やり方だけでなく、ことばかけで「絵カードは?」などとヒントを与えるやり方、バインダや絵カード(動作の対象物)を指差して注目させるやり方、体を動かすところまではやらずに、腕を軽く指で突いたりすることで動作を促すやり方など、いろいろな手助けの方法が考えられます。
最初は「手とり足取り」から始めて、徐々に軽く体に触れるだけとかことばかけでヒントを与えるといった「軽い手助け」に切り替えていくのも、ここでいう「手助け減らし」の一種になります。
とても大切なこと。
「手助け減らし」は、速やかに、着実にやっていかなければいけません。
あまりに手助けが多く、いつまでもそれを続けてしまうことが繰り返されると、手助けされることが行動のきっかけになってしまい、いわゆる「指示待ち」という行動パターンが生まれてしまいます。
この「指示待ちの行動パターンの形成」は、ほぼ良いことづくめのABAに基づく療育が、悪い結果につながる数少ないリスクの1つですので、ABAを家庭の療育に取り入れるにあたって、特に意識して避けなければならないことになります。
「手助けをできるだけ速やかに(でも失敗経験をさせないように)減らしていくこと」は、親御さんにとっての負担軽減にもなりますが、最終的にはお子さんにとって大きな利益をもたらします。
ところで、「代替行動」である絵カードを見せる行動を学習させる方法は整理できましたが、一方の「パニックする」のほうはどう対処すればいいのでしょうか?
「代替行動への切り替え」では、問題行動に対しては「消去」というやり方を使うと説明しました。
ここでいう消去というのは、「それまで続いていた強化のサイクルを止めてしまう=ごほうびを与えなくすることによって、もう二度と強化されないようにする」ということです。
ですから、代替行動を教える段階に入ったら、パニック(問題行動)には、これまでの「ごほうび」を絶対に与えないようにします。
具体的には、「パニックしたからゲームコーナーに行く」という展開は避ける、ということです。
無理に「パニックを起こさせて、それを消去する」という手続きを取る必要はありません。
そうではなく、「パニックを起こしてしまう状況を、絵カードを活用して事前に避けられるようにする」という戦術をとりましょう。
つまり、パニックしそうになる直前、「ゲームコーナーに行きたそうだな」という状況を察知し、代替行動である絵カード提示をさせるようにするわけです。
もちろんそれでも、やむなくパニックが始まってしまうことはあると思います。
その場合は、パニック中は無視して落ち着くのを待ち(暴れて危険な場合などは、やむを得ず行動を抑えるような対応も必要でしょう)、ある程度落ち着いたところで、代替行動である「絵カード提示」をさせ(こういう状態のときは、落ち着いているときより多めの「手助け」を与えて構いません)、そのうえでゲームコーナーに連れて行く、という手順を、面倒でもとるようにします。
最終的に、子ども自身がパニックを起こさずに、代わりに自発的に絵カードを提示して「ゲームコーナーに行きたい」というコミュニケーションをできるようになったら、今回の問題行動への対応は完了となります。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べない (↓) |
絵カードを見せる | ゲームコーナーで遊べる (↑) |
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)
代替行動とは、パニック(問題行動)で得られる本人に望ましい結果と大体同じものが得られ、かつ自分や周囲を比較的困らせない行動の事です。
代替行動を形成する前には、パニック(問題行動)から得られている「本人に望ましい結果」が何なのか観察する必要があります。
意外とこの観察が難しいというか、ゲームセンターに行きたいんだろうと思ってたら、化粧品売り場の臭いが嫌だったとか、実際に何週間か行動を観察・記述してみないと判らないものです。
行動の観察や記述をせずに、「きっとこうに違いない!」と仮説モデルを立ててやるのはうまくいきません。
というより、セラピーにおいて色々なことが上手くいったり、いかなかったりしているのは世の常ですが、この介入は上手くいっている/いってないという事がキチンと判るためにも、実際の行動観察・記述がとても重要です。
ABA専門家の専門性の一つは、このような場合「何を観察するべきか」指示することができることです。
ちなみに細かいことを言えば
・プロンプトとは手助けではなく「手がかり刺激」の事です。
・バックワード・チェイニングのチェイニングとは行動連鎖を作ることです。すなわち本人の前の行動が、次の行動のプロンプトになり、次の行動が前の行動の強化子になるといった連鎖を形成することを指します。バックワードでする理由はこの強化子化に由来するものです
補足およびご指摘ありがとうございます。
たしかにプロンプトは「手助け」ではなく厳密には「手がかり刺激」ですね。(でも、そう説明してしまうと、初見の人は??となってしまうかもしれないですね。)