2006年06月14日

<S-S法>によることばの遅れとコミュニケーション支援(ブックレビュー)

先日の「本が山積み」の記事を書いた頃に、複数の方から「気になる本」として名前が挙がっていたので、さっそく読んでみました。


<S-S法>によることばの遅れとコミュニケーション支援
編:倉井 成子
著:矢口養護学校小学部
明治図書

第1章 ことばの発達の支援“S―S法”の考え方
第2章 ことばの発達の支援の方法―課題別個別学習・小集団学習・日常生活指導の中で
第3章 矢口養護学校小学部の実践―言語とコミュニケーションの発達


S-S法というのは聞きなれない名前ですが、本書のまえがきによると、

<S-S法>は、言語聴覚障害の領域で臨床的経験を基に作り上げられてきた我国オリジナルの言語発達障害児・者の評価・訓練・指導アプローチです。医療、福祉領域で働く言語聴覚士の間では、かなり使われているのですが、教育の現場では知られていないことが多いと思います。
(本書まえがきより)

ということで、日本の言語聴覚士の間で経験的に生まれてきたコミュニケーションに関する療育法のようです。

この「日本の」というのは、ことばの療育ということを考えると、意外と重要かもしれませんね。
海外の療育法は、当然にその国のことばを前提に組まれており、例えば私が強く支持するPECSも、語順が英語とは違うことがフェーズ4以降に進むことを少し難しくしていたりします。
ですから、「日本で開発された、日本語のための」療育法という点は、評価できると思います。

本書は構成がなかなか巧みです。上記の目次のように、全体で3部構成になっているのですが、第1章で<S-S法>の理論的な全体像を紹介し、第2章で各発達段階ごとの療育方針の立て方や課題の設定方法について解説し、第3章で実際の養護学校における事例を使って、実際の療育にどのように取り組むかが非常に具体的に紹介されています。

特に、この第2章と第3章の関係がすばらしいです。
一般に療育本というのは、「理論寄り」に書きすぎると、具体的な療育方法や課題例が漏れてしまう(そのために、当ブログでも紹介しているような「課題事典」を別に用意しなければならなくなる)一方、あまりに具体例にこだわって「実践寄り」になってしまうと、理論的な全体像が見えなくなる、というジレンマがあるのですが、本書は「理論寄り」な部分を第2章に、「実践寄り」な部分を第3章に分けて記載し、それぞれを密接に関連付けることによって、このジレンマから逃れることに成功していると思います。
その結果、読者は豊富な実践例を学びながら、同時に<S-S法>の考える療育理論についても明確な知識を得ることができるようになっているのです。

もう1つ、特筆すべき点。
それは、本書がことばの療育というカテゴリーにしては珍しい、重度~中度の知的障害児者を対象にした療育本である、ということです。

非常に古くて参考にならない本を除けば、自閉症児の「ことば」の療育本は、ことばがある程度出るようになった子どもの語彙を増やすとか用法を適正化するといったものが主流で、「ことばが出ない」こどもに対する療育については、載っていたとしても申し訳程度でしかないものが多かったように思います。
(だからこそ、ことばが出ない自閉症児に対する具体的な「ことば」の療育法が明記されている「A Picture's Worth」を、私は特に高く評価しているわけです。)

本書は、ことばの発達段階を細かくレベル分けし、その段階それぞれに合った「ことばの療育」を提案しているわけですが、その一番上の段階でも、中度の知的障害を持ち、他人の簡単なことばは分かるが発語がない子どもや、自活はできているがことばのやりとりはほとんどない子どもが対象になっています。
つまり、本書は全体を通じて、ことばがまったくない子どもや、多少の理解はあってもコミュニケーションと呼べるような発語がないような発達段階の子どもに、一生懸命「ことば」を教えるという、ある意味非常な労作になっているということなのです。

最後に、全体を通じた感想です。
言語聴覚士の先生というのは、まさに「ことば」の現場で働くバリバリの臨床家であり、その豊富な経験に裏打ちされた<S-S法>の具体的な実践内容には、非常に説得力があると思います。特に、障害が重く療育も個別的にならざるを得ないような子どもまで取り込んだ療育体系になっている点は、極めて意欲的な内容である、といえると思います。

一方、<S-S法>の理論面、つまり、ここで掲げられている「ことば」の発達モデルは、典型的な「ことば=表象」という内容にとどまっていて、正直、ちょっと古くさいかな?と感じる面もないではありません。
ただ、本療育法は理論というよりは「体系だった実践法」だと思いますので、これでいいのかな、とも思います。

比較的障害の重いお子さんの親御さんで、療育施設や専門の病院などにある手作りのおもちゃや課題を見て「自分もああいうものを家で作って子どもに遊ばせてみたい」という方には、本書はとても参考になると思います。本書には、たくさんの手作りの「ことば」の課題が、課題の実行方法と一緒に紹介されています。

右サイドバーの「殿堂入り本」で紹介している「あなたが育てる自閉症のことば」とセットで読んで、実践につなげる本として、おすすめできます。

補足:本書に何度か「マカトンサイン」という名前が出てきました。調べてみると、これでした。手話を応用した簡単なサイン言語のようですね。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 21:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
早速のレビューありがとうございます。そらパパさんのレビューは、偏った見方でもなく、要点のとらえ方が素晴らしいので、とても参考になります。(実はそらパパさんのレビューを見て、「あなたが育てる自閉症のことば」を購入しました)
うちの子にも通じる所がありそうなので、ぜひ購入して療育の一環として検討したいと思います。
あっ。もちろん言葉だけに重点をおかず、バランスよくですね。本当にありがとうございました。
Posted by ぱん at 2006年06月14日 22:31
ぱんさん、

そう言っていただけると嬉しいですね。
かなりたくさんの本を読んでいるせいか、どんな本を読んでも、たいてい、「ああ、この部分は○○の本と同じことを分かりやすく書いてるな」とか「この部分は××の本と正反対だけどどちらが説得力があるだろうか?」と感じることが多いですね。
なので、ある程度客観的なレビューを書けているのではないかな?と思っています。

これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2006年06月16日 20:55
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