前回までで、今回のパニック問題を解決するための「仮説」と、そこで活用するテクニックが整理できました。
1.ゲームコーナーに行きたいという欲求をかなえる手段としての「パニック」という行動は減らしていこう。→消去を活用しよう。
2.ゲームコーナーに行きたいという欲求をかなえる新しい手段として「絵カードを見せる」を学習させよう。→強化を活用しよう。
3.上記1.と2.によって、「パニックという行動」を、「絵カードを見せるという代替行動」に切り替えよう。
あとは、パニックという行動を絵カードを見せるという代替行動に切り替えていくだけなのですが・・・。
もちろん、ただ放っておいても、パニックしている子どもが突然絵カードを見せるようにはなるわけはありません。
恐らく、「ほら、絵カードを見せなさい!」と口頭で注意しても、それだけで絵カードを使えるようにはならないでしょう。
ここで、ABAのもう1つの重要テクニック「手助け」が登場します。
そうです、単なる「手助け」です。
別に「テクニック」というほどのものでもないかもしれませんね。
でも、ABAにおける「手助け」は、どのように始めて、どのように減らしていくかまで体系的に整理された、より科学的な「手助け」なのです。
今回の例でいうと、子どもがゲームコーナーに行きたがる(パニックを始めそうになる)状況を察知したら、すばやく子どもに「手助けして」絵カードを握らせ、「手助けして」親に手渡す(あるいは「提示する」)動きをさせます。それを受け取った親は、おおげさに「ゲームコーナー。はい、ゲームコーナーに行きます」などと声をかけて、実際にゲームコーナーに連れて行って遊ばせるわけです。
「ゲームコーナーに連れて行く」ことが、「ごほうび」になるはずですから、これを繰り返せば、「絵カードを見せる」という行動はごほうびによって「強化」され、だんだん身についてくる=学習がすすむことになるはずです。
もちろん、「パニックを消去する」というのも同時にやらなければいけません。
タイミングを逸して、ゲームコーナーに行きたいというパニックが始まってしまった場合には、そのパニックには応じず(無視して)、しばらく我慢してパニックが収まってきたら、絵カードを見せるプロンプト(手助け)をして、それができたところでゲームコーナーに連れて行くようにします。
ここで1つ、重要な「検証すべきこと」が発生します。
それは、「絵カードを見せる→ゲームコーナーに連れて行く」という働きかけをしたことによって、当初の「スーパーから出たときにパニックする」という問題行動が起こらなくなるかどうか?です。
今回、そもそもの出発点は「スーパーから出たときにパニックするのを何とかしたい」という問題意識でした。
そこから、パニックの「機能」を分析し、その「機能」をパニックなしで実現するための「代替行動」を考案し、そして、いまここで実際にその「代替行動」を教えています。
ですから、もし仮に、「絵カードを見せてゲームコーナーに連れて行ってもらう」という行動を教えているのに、スーパーから出たときのパニックが一向に減らないようであれば、今回立てた仮説のどこかに問題があると考えられるわけです。
例えば、確かにパニック後にゲームコーナーに連れて行けばパニックは収まっていたけど、もともとは「アイスクリームを買って食べたい」という欲求だったところを、たまたまゲームで遊んで気がまぎれただけだったのかもしれません。
あるいは、本当はゲームコーナーがうるさくて大嫌いで、そこに連れて行ってパニックが収まったのは、パニックに対するある種の「罰」として働いたからだった(当然、もともとのパニックを引き起こしていた欲求は別にある)のかもしれません。
自分が立てた仮説に基づいたABAの働きかけが期待したような結果をもたらさない場合は、それでも無理にその働きかけを続けるのではなく、一度、「そもそも仮説が間違っていたんじゃないか?」と振り返ることが大切です。
つまり、減らそうとしている問題行動がもっている「機能」は何なのか、あるいはその行動を強化している「ごほうび」とは何なのか、といった「仮説のなかの要素」を見直して、「別の可能性」を考えてみる、ということです。
ABAの強みは、こういった、「仮説を立てる」→「検証する」→「仮説を修正する」→「また検証する」・・・といった「働きかけのサイクル」をしっかり作っていけるところにもあります。
ABAの仮説は、すべて「目に見え」ますし、操作できます。そして、検証すべき「結果」も、やはり「目に見え」るのです。
ですから、一度立てた仮説にこだわるのではなく、仮説を検証しながら柔軟に修正していきましょう。
さて、話を戻して、「手助け」つきで絵カードを見せる行動が徐々に身についてきたら、今度は手助けを「減らす」段階に入ります。
これについては次回書きたいと思います。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)
代替行動とあるのは、パニック(問題行動)で得られる本人に望ましい結果と大体同じものが与えられる、自分や周囲を比較的困らせない行動の事です。
代替行動を形成する前には、パニック(問題行動)から得られている「本人に望ましい結果」が何なのか観察する必要があります。
意外とこの観察が難しいというか、ゲームセンターに行きたいんだろうと思ってたら、化粧品売り場の臭いが嫌だったとか、実際に何週間か行動を観察・記述してみないと判らないものです。
行動の観察や記述をせずに、「きっとこうに違いない!」と仮説モデルを立ててやるのはうまくいきません。
というより、セラピーにおいて色々なことが上手くいったり、いかなかったりしているのは世の常ですが、この介入は上手くいっている/いってないという事がキチンと判るためにも、実際の行動観察・記述がとても重要です。
ABA専門家の専門性の一つは、このような場合「何を観察するべきか」指示することができることです
補足およびご指摘ありがとうございます。