親子アスペルガー ちょっと脳のタイプが違います |
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親子アスペルガー―ちょっと脳のタイプが違います
著:兼田絢未(Blog、Twitter)
合同出版
ちょっと発売から出遅れましたが、ようやく手に入れましが、なかなか面白くてあっという間に読むことができました。
本書は、お子さん2人がともにアスペルガー症候群で、ご自身もアスペルガー症候群、という、まさにタイトル通りの「親子ともどもアスペルガー症候群のご家族」について描かれた、いわゆる「当事者本」です。
この本を読んでいて、なぜか私は、本田勝一の「探検三部作」を思い出しました。
(検索して初めて気づきましたが、このシリーズ、絶版になってるんですね。かつては国語の教科書にまで載った名文なのに、ちょっとびっくり。こちらの本も、読み始めたらとまらない面白さですのでおすすめです。)
もちろん、シンプルに「異文化を知る」という共通点はあるのですが、今まで何冊も当事者本を読んできて、一度もこういう感覚を持ったことはありませんでした。
なのに、どうしてこの本に限ってこんな風に感じたのかな?
そう考えてみて、この本で際立っている、「探検三部作」とのいくつかの共通点に思い当たりました。
・「異文化」がリアルにいきいきと描かれていること。
・そして、それを客観視する視点があること。
・しかもそれだけでなく、「異文化の中に入って一緒に異文化を生きる視点」も併せ持っていること。
・それによって、「文化A」と「文化B」との間を著者も読者も行ったりきたりする、視点の転換の面白さがあること。
・静的な状況や場面のスケッチというよりも、時間の要素の強いストーリーとして構成されていること。たとえていえば、写真ではなくビデオ。
たとえば、本書には、こんなシーンがあります。
子どもに「あなたの感じ方、考え方と、ほかの人の感じ方、考え方は違うことがあるんだよ」ということを教えるシーンですが、それに納得してもらうためには、「自分と他人で感じ方・考え方が違うことがあるんだ、それでいいんだ」ということ、それ自体に納得してもらわなければならず、さらに、「感じ方・考え方が違うことがある」理由として、「あなたは他の子とちょっと脳のタイプが違う(アスペルガー症候群である)」ということを説明しなければならなくなります。
そして、こういった説明の苦労の甲斐あって、著者は、
この話をしてから、子どもたちは「あなたはイヤだと思っても、みんなは好きなんだよ」とか「あなたは平気でも、みんなはイヤなんだよ」という「違い」の説明を、抵抗なく聞いてくれるようになりました。(初版108ページ)
と、子どもたちに「異文化への理解」をしてもらうことに成功します。
このやり取りを読んでいると、著者自身も苦労して学んできた「自分の世界」と「他の人の世界」の違い、それを客観視して子どもに伝えるメッセージに変換する視点、それを子どもに伝えたときの、コミュニケーションのズレ(別の部分に納得してもらわなければいけなくなる)、それに対して、著者がさらに噛み砕いて「文化の違い」を説明していく姿、そういったものが入り乱れて登場します。
それによって読者は、「主観・客観」、あるいは「定型・異文化」、という複数の視点や世界観のなかを多層的に行ったりきたり、重なったり裏返ったりしながら、単一の視点では絶対に見えないような、深く多彩な視点から、「異文化」としてのアスペルガー症候群(とその子育て)を著者にきわめて近い場所から疑似体験できるようになっています。
この本、確かに、アスペルガー症候群の子育てのためにとても参考になるさまざまな体験談やエピソードが満載で、そういうニーズ(子育てや支援のヒントが欲しい)を満たすための本としても期待に応える内容になっていると思うのですが、問題の解決方法としては、「分かりやすい文章で子どもに伝えていく」という手法が中心になっているため、たとえば我が家のように「言語で何かを伝える」ということが難しい(知的障害の重い)お子さんの場合、その部分では「子育てのヒント」にはなりにくい部分もあると思います。
でも、だからといってそういうお子さんを持った親御さんにとって読むメリットのない本になっているかといえばまったくそんなことはなくて、自閉症スペクトラムという「異文化」に触れ、理解し、さらに言えば「疑似体験」する、あたかも「異文化」のまっただ中に入って、そこで短い間だけ「一緒に生活してみる」、そんな感覚を味わうことができる、なかなか貴重な「当事者本」になっていると思います。
「エピソード」だけを取り上げてみれば、本書に限らず、どんな当事者本も、必ずしも一般化できない固有の事例を紹介しているに過ぎません。
でも、それらエピソードの集合体によって描写された、本書の『異文化の世界観』は、個々のエピソードを超えて、読者のイメージのなかでより一般性とリアリティをもって体験されることでしょう。
その部分において、自閉症スペクトラムの「重い側」のお子さんとかかわっている親御さん・支援者の方にとっても、「自閉症スペクトラムの世界ってこういうものなのかな」という気づきを与えてくれる本になっていると思います。
親子の両方が自閉症スペクトラムという、ある意味、特異な家族・子育てについて描かれた本書が、あまたある当事者本のなかでもむしろ一般性を失わずに存在しえている事実は、世界の極限の地の極めて特異な民族へのルポルタージュであった本田勝一氏の「探検三部作」が、異文化理解についての一般性を失わない名著であったことを彷彿とさせます。
自閉症スペクトラムのお子さんとかかわる、あらゆる方におすすめできる「当事者本」の傑作になっていると思います。おすすめです。
※過去にレビューしているその他の本については、こちらからどうぞ。
小中学部の「重い自閉症」のお子さんとかかわることが多い立場ですが、そらパパさんの言われるように、自閉症スペクトラムの世界を(たとえ言葉のない子であっても)少しでも知り、支援に役立てることのできる本だと思いました。
他の先生方にも紹介したいと思います。
よい本を紹介していただき、ありがとうございました。
ご指摘のとおり、この本はアスペルガー症候群の親子を取り扱った本ではありますが、「自閉症スペクトラムという異文化とのかかわり、葛藤」が当事者目線で深く描かれているので、「重い子」を考えるときにも参考になる本になっていると思います。
コメントありがとうございました。
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コメントありがとうございました。
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