ところで、このシリーズ記事では、個々の発達課題個別の対応法などについては触れません。
なぜならそういった話題は、豊富な経験をもつ臨床家にしか書けませんし、個別テーマになりますからボリュームも膨大になるからです。
そういったニーズに対しては、既によくできたマニュアル本も出ていますから、そちらを参照してください。今回のシリーズ記事と合わせて読むと、理解も深まると思います。
自閉症児のための明るい療育相談室(レビュー記事)
家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46(レビュー記事)
今回のシリーズ記事で掘り下げているのは、個別の問題への対策ではなく、ABAの「根っこにある考えかた、ものの見方」(これは逆に、相当詳しいABAの療育マニュアルでもあまり明確に語られていないのではないかと感じています)です。
その上で、汎用性の高い「ABAによる問題分析・解決法の模索・実践・検証」という王道の流れを、まずは「1本道」として理解すること。
この2つの話題に絞り込んで記事を書いています。
これらを理解することで、「ちょっと工夫のある子育て」としてABAを活用していくこと、これこそが、本格的なトレーニング技法としてABAを導入するよりも、より幅広く、多くの家庭でABAを有効に活用できる方法なのではないかと考えています。
さて、前回までのまとめです。
ABAにおける問題行動解決の基本スタイルは、以下のとおりとなります。
1)その問題行動がどういう「機能」を持っているのかを、ABC分析などを活用して分析する。=機能分析
2)その問題行動と同じ「機能」をもち、より社会適応的な行動=代替行動を設定する
3)代替行動を学習させ、問題行動を代替行動に切り替えていく=代替行動への切り替え
以下、それぞれのポイントです。
1)パニックやこだわりといった、私たちから見て「問題行動」「意味のない行動」と映る行動であっても、いきなり、抑えこもう、やめさせなければ、と考えるのではなく、その行動がもっている「機能」を分析することから始めること。その際、ABAのツールである「ABC分析」がとても役に立つこと。
2)問題行動を減らす第一歩として、問題行動と同じ機能を持つ「代替行動」を用意すること。
その際、自閉症という障害や、お子さん自身の特性、不得意領域などを考慮して、可能な限り「難易度の低い、負担の少ない行動」を用意すること。
「問題行動」よりも「代替行動」のほうがずっと難しい=コストが大きい場合、問題行動から代替行動への「移行」は難しくなります。なぜなら、当人にとって移行することのメリットが少なくなる(コストが増大する)からです。
そして、この「代替行動」を考えるときには、絵カードや各種支援ツールなどの「療育についてのテクニック、ツールについての知識」が役に立ちます。必要に応じて勉強していきましょう。
3)問題行動を減らしつつ、同時に「代替行動」を学習させるというやり方(代替行動への切り替え)によって、問題行動を代替行動に移行させること。
さて、まだ3)の「代替行動への切り替え」のメカニズムについて書いていませんので、今回はその部分について書いていきたいと思います。
「問題行動」であるパニックには「ゲームコーナーに行きたい」という欲求表現という「機能」があり、その行動は「実際にゲームコーナーで遊べる」という「好子」によって「強化」され、維持されてきました(という仮説を立てました)。
これを表現したのが、これまでにも何度か登場している以下のABC分析です。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べる(↑) |
ここで、パニックという行動を減らすために、ABAのテクニックのうち、「消去」という方法を使います。
消去というのは、「いまある『強化の構造』、つまり『ごほうび』をなくしてしまうこと」を指します。
そもそも、なぜ「パニック」が維持されているのでしょうか?
それは、そのパニックが、ゲームコーナーで遊ぶという「ごほうび」で強化されているからだと考えられます。
ですから、この「強化の構造」を取り除く、つまり「ごほうび」を与えずに「消去」すれば、パニックは減ると(ABAの理屈からは)期待できるわけです。
簡単に言ってしまえば、「パニックにごほうびを与えない」=「パニックが起こっても無視して、ゲームコーナーにも連れて行かない」というのが、今回のパニックに対する「消去の手続き」になります。
一方で、パニックに与えられていた「ごほうび」、つまり「ゲームコーナーで遊ぶ」ことを、そのまま「問題行動へのごほうび」から「代替行動へのごほうび」に移動させます。
つまり、パニックをしてもゲームコーナーでは遊ばせない、その代わりに、絵カードを見せる(今回選択した代替行動)ことができれば、ゲームコーナーで遊ばせる、という「2つの働きかけを1セットにして」働きかけを行なうわけです。
これをABC分析の表で表現すると、こうなります。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べない (↓) |
絵カードを見せる | ゲームコーナーで遊べる (↑) |
この「代替行動への切り替え」こそが、問題行動をABA的に理解し、ABA的に解決する、「王道パターン」です。
この王道パターンをまず理解し、さまざまな問題行動に当てはめてみる、そのときに「内面モデル」に転ばずに、徹底して「子どもと環境(外界)との相互作用としての行動」に注目する、これが私がご提案する「ちょっと工夫のある、ABAを活用した子育て」の基本になります。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)