涼太郎、またやっちゃった!?
著:倉田 ちかこ
廣済堂出版
自閉症児の子育てまんが&エッセイということで、以前紹介した、「中村さんちの志穂ちゃんは」や「イケイケ、パニッカー」と似たような趣の本です。
上記の既紹介の2冊の本が、まんがも母親本人が描いているのに対して、この本は「著:倉田ちかこ、まんが:越智充奈子」とそれぞれ別々になっていたので、誰かプロの人が描いたんだろうか、と思って少し調べてみたんですが、どうやらまんがを担当したのは著者の妹(まんがにも何度も出てくる)のようですね。
何で調べようかと思ったのかというと、それにはわけがあって・・・
それは単純にいえば、「まんがが下手すぎる」という率直な印象からです。
調べてみて姉妹の合作と分かって、微笑ましさも感じるのですが、商業出版されている本ですので厳しいことを書いてもいいかな、と。
既紹介の上記2冊、さらにはもっと有名な「うちの子かわいいっ 親ばか日記」など、まんが素人の母親の描いているまんが作品と比べても、描写力において明らかに劣ります。
母親と子ども、あるいは周囲の人たちが、さまざまな困難の中でどのような状況に陥り、どんな感情を持ち、どんな表情をしていたのか、まんがからはほとんど読み取ることができません。
まんがを読んでいるようでいて、実はセリフやト書きを読まされているということにすぐに気が付いてしまうのです。
さて、気を取り直して内容はというと、中度の自閉症の男の子の子育てエピソード集です。
まんがのほうは特に時系列はなく、ここ数年の事件?をいろいろと紹介する内容になっており、まんがの合間にはさまれるエッセイのほうは逆に、生まれた頃から現在までの子育てを時系列に振り返るような内容になっています。
肩の力を抜いて、単純に「子育てエッセイ」として読めばさらっと楽しく読み流せると思います。お母さんの前向きさ、子どもへの深い愛情は本当に素晴らしいですし、登場するエピソードは冷静に読むとものすごく大変なものばかりなだけに、何事も楽観的かつ前向きに考えるお母さんの姿勢に救われる思いがします。エッセイの最後に書かれているこのメッセージには、私もちょっと心動かされるものがありました。
障害がわかるまでは育児書を何冊も読んで、平均と比べては喜んだり落ち込んだりしていたが、障害がわかってからは一般の育児書が不要になり、誰とも比べることのない「オリジナルの子育て」ができるようになった。(初版123ページ)
ただ・・・です。
自閉症に関するほとんど正反対の意見を読み比べたりしてきて、どんな本を読むときも「これは正しいかな、どうかな?」と吟味しながら読み進めるくせがついているせいか、私には、本書を読んでいて、何度も「あれ??」と思う場面がありました。
その疑問は、巻末に寄せられているTEACCHの佐々木正美先生の解説を読んで「やっぱり」という思いに変わりました。
しかしまた涼太郎さんたちは、まだ今日的な意味での専門家に出会って来られなかったことを、少し不幸なことであったとも思う。
(中略)「歯医者さんでのてんやわんや」は、避けて通ることができたかも知れない。もう少し小さなご苦労でという思いは拭いきれない。(初版127~128ページ)
本書は、度重なる脱走、水遊びで部屋が水浸し、歯医者や美容院でパニック、家具へのイラズラ、トイレトレーニングなど、自閉症児の親なら誰でも思い当たるようなさまざまなトラブルのエピソードにあふれています。
ただ、それらの問題行動への対応はというと、少なくとも自閉症児一般の特性を考えたとき、疑問を感じるものが多いように感じられました。そしてそれが、もしかすると問題行動を一層増やし、子育てを大変なものにしたのではないのかな、という(佐々木先生と同様の)印象を持ったのです。
他人の子育てにとやかく言うのは非常に失礼なことだと思いますので、これ以上書く気はありません。ただ、こういう本が商業出版として出て、帯にも「あなたにもきっと役立つ子育てのヒントがいっぱい!」という宣伝文句が書いてあることも考慮して、自閉症児の親御さんのために一言だけ最後に書いておきたいと思います。
楽しく読む分にはおすすめできます。ただ、この本を自閉症児の子育てのヒントにするのは、やめておいた方がいいと思います。
※その他のブックレビューはこちら。