前回、「番外編」を1回はさみましたが、その前の「第7回」の記事では、ABAの理論の基礎となる「強化と消去、ごほうび」という考えかたについて解説しました。
いよいよ今回からは、問題行動のABA的解決法の1つの王道である「代替行動への切り替え」についてご紹介したいと思います。
改めて、今回のパニックについての「仮説」を説明するABC分析を見てみましょう。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べる(↑) |
今回のABC分析による「機能分析」では、お子さんのパニックは「ゲームコーナーで遊びたい」という欲求を伝える、コミュニケーションの機能を持っているという「仮説」を立てることができました。
そして、その機能は実際に果たせており、パニックという「行動」はゲームコーナーで遊ぶという「ごほうび」が続くことによって、今後もより起こりやすくなった=「強化された」と考えられるわけです。(強化された、ということを示すのが、最後にある上向きの矢印(↑)です。)
さて、この仮説によると、現在の状態(対応)を続けると、パニックという行動は強化され続け、より起こりやすくなっていくだろう、という予測が立てられます。
ところが、パニックが強化され、よく起こるようになることは、社会適応という観点からは望ましくありません。
でも一方で、「ゲームコーナーで遊びたい」という欲求を伝えるという、ここでのパニックがもつコミュニケーションの「機能」は大切にしなければいけません。
単にパニックを抑えこむだけでは、「ゲームコーナーで遊びたい」という欲求がかなえられずにさらなる大パニックを呼ぶかもしれませんし、仮にパニックが静まった場合でも、欲求を伝えるコミュニケーションの「芽」を摘んでしまうことになる恐れもあります。
では、どうすればいいのでしょうか。
パニックという問題行動は減らしつつ、パニックがもつ「コミュニケーション」という「機能」は殺さないためには、
・問題行動と同じ「機能」をもち、
・かつより社会適応的な「別の行動」を探し、
・そちらを学習させる
ことができれば、いいわけです。
平たく言ってしまえば、パニックなんかせずに単に「ゲームコーナーに行きたい」とことばで発言することができれば、それですべて問題は解決するはずです。
実際、定型発達のお子さんは、そうやって「より適切な行動」を学習することで、赤ちゃんの頃には当たり前だった「泣いてわめいて欲求表現」という段階を卒業していきます。
ところが、その「移行」がスムーズにいかないところに、自閉症のお子さんの困難があります。自閉症の三つ組みの障害の1つである、「コミュニケーションの障害」です。
ゲームコーナーに行きたいという欲求をパニックで表現するお子さんは、恐らく、その場面で「ゲームコーナーに行きたい」とことばを発することが、何かしらの理由で困難なお子さんなのだと思います。
そういうお子さんに対して、ただ無闇に「ゲームコーナーに行きたい、とちゃんとことばで言いなさい!」と諭しても、多分なかなか問題は解決しないどころか、かえって問題をこじらせてしまうかもしれません。それが難しいこと、それこそが自閉症という障害のもつ困難の1つだと考えられるからです。
ちょっと困ったことになってきましたね。
問題の所在と解決の方向性は見えてきましたが、私たちの「常識」(つまりこの場面で言えば、伝えたいことは言葉として発言すればいい、という考え方)だけに頼る子育てでは、この場面における、お子さんの「困っていること」にうまくフィットする解決法=ソリューションが見つからない、という問題が新たに発生しています。
ここで初めて、「自閉症療育についてのテクニック」が役立ちます。
例えば、自閉症療育における有力なノウハウの1つとして、「視覚支援」というのがあります。
自閉症のお子さんは一般に「視覚優位」といわれ、音声言語で何かを伝えたり何かを言わせたりするよりも、視覚的なツール、例えば書き文字とか絵カードを使うほうが、コミュニケーションが容易になるケースが多い、と言われています。
ですから、今回のケースで、パニックに代わる「コミュニケーション」の手段を考えるときも、もし私たちが上記の「自閉症児は視覚優位であるケースが多い、だから視覚支援という方法が役に立つ」という知識をもっていれば、「それじゃあ、絵カードを使ってみようか」というアイデアが出てくるわけです。
さまざまな療育についての知識、テクニックは、こんな風に必要に迫られる形で利用され、実際の場面で柔軟に変形させながら活用すべきものです。やみくもにマニュアルのように覚えて、型にはめて子どもに適用していけばいいというものではありません。(そんなやり方では、そもそもうまくいかないでしょう。)
ともあれ、今回はパニックよりも「より適切な別の行動」として、「ゲームコーナーの絵カードを提示する」という行動を試してみることにしたとしましょう。
もちろん、これがうまくいくのでは、というのも「仮説」になります。実際にやってみてうまくいかなかったら、別の方法を検討する必要があります。
ここまでくると、いよいよ問題解決の方向性がはっきりしてきました。
1.ゲームコーナーに行きたいという欲求をかなえる手段としての「パニック」という行動は減らしていこう。→消去を活用しよう。
2.ゲームコーナーに行きたいという欲求をかなえる新しい手段として「絵カードを見せる」を学習させよう。→強化を活用しよう。
3.上記1.と2.によって、「パニックという行動」を「絵カードを見せるという行動」に切り替えよう。
このように、ある行動を消去しつつ、同じ機能をもつ別の行動を強化することで、行動を切り替えていくという働きかけを、今後は「代替行動への切り替え」と呼びたいと思います。
「代替行動」というのは、問題行動と同じ機能をもち、かつ、より社会適応上望ましい「(問題行動の)代わりになる行動」という意味です。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)
小6の長男(アスペルガー、ADHD混合)が訳あって、お義母さんと住んでおります。
あちらだと自由にできるためか、出向いていっても旦那さんに会おうとしません。
(叱られる事が多いためだと思います)
こういうとき、お義母さんは必ずというほど何かを買い与えたり、外食に連れ出したりします。
言うことを聞かせたいからなのでしょうね。
でも子供からしてみれば、ごねていてもご褒美がもらえるわけですから、ますます周りに合わせられない行動が増えています。
(学校でも立ち歩きや暴力が毎日のようにあります。加配の先生はついています)
と言って、お義母さんに発達障害を理解してもらうのは難しいようです。
医師に自閉症ではないと言われたと言っていました。
アスペルガーが自閉症の仲間とは思っていないようです。
コメントありがとうございます。
コメントいただいた件、なかなか難しい状況だと思います。
ABA的に考えると、何が問題なのか、ある程度はっきりしているのだと思いますが、それに対して協力が得られにくい、という状況だと理解しました。
ABAは強力なツールですが、かかわる人が全員その考え方を理解し、共感し、協力できないとうまくいかないという特徴ももっています。
ですから、なかなか理解してもらうのが難しい、ということであっても、やはり何とか対話ができる状況を作り、少しずつでも理解を深めていってもらうしかないんだろうと思います。(それなしにABA的かかわりを成功させるのは、残念ながら難しいと思います。)
また、こちらが出向いていっても叱られることが多いから会おうとしない、という部分は、もしかすると先に対処することができる部分かもしれませんね。
この場合、状況的に、叱るという行動が効果的でない状態になっているわけですから、こちらの行動を変えて、効果的に働きかけられるようなやり方を見出すことも重要に鳴ってくるわけです。