前回、ABAが想定する「行動の起こりやすさが変化するパターン」として、5つあるうちの2つだけを紹介しました。
さらに、その変化のパターンを理解するためのキーワードとなる「ごほうび」についても、ABAにおける本来の定義とは異なる説明をしています。
このあたりについてもう少し正確を期すために、本来のABAにおける定義について説明する記事を書いておこうと思います。
ただし、専門用語が頻発しますから、このシリーズ記事の他の回と比べると、ずっと難しい印象となると思います。
今回の内容については、以下の2冊が詳しいですので、このあたりをしっかり学びたい方は、どちらか1冊をお読みになるのがいいと思います。
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論(レビュー記事)
ある行動の直後に起こる事象が、将来の「起こりやすさ」に対する影響の仕方には、以下の5つのパターンがあります。
1.ある行動の直後に、快となるような事象が続くと、その行動は起こりやすくなる=(好子出現の)強化
2.ある行動の直後に、不快となるような事象が続くと、その行動は起こりにくくなる=(嫌子出現の)弱化
3.ある行動の直後にこれまで続いていた事象が発生しなくなると、その関係によって制御されていた行動は徐々に制御されなくなる=消去
4.ある行動の直後に、既に存在していた快となるような事象が取り除かれると、その行動は起こりにくくなる=(好子消失の)弱化
5.ある行動の直後に、既に存在していた不快となるような事象が取り除かれると、その行動は起こりやすくなる=(嫌子消失の)強化
ここで、「好子」というのは、「快となる事象」=何かしらの欲求が満たされるような経験等を指し、ある行動の後で出現するとその行動を起こりやすくし、逆にある行動の後で除去されるとその行動を起こりにくくします。
「嫌子」というのは、「不快となる事象」=いわゆる嫌悪刺激を受けるような経験等を指し、ある行動の後で出現するとその行動を起こりにくくし、逆にある行動の後で除去されるとその行動を起こりやすくします。
これらに加えて、それまで「好子または嫌子の出現・除去」の随伴性によって制御されていた行動は、その随伴性がなくなると制御されなくなります。
※上記は厳密な好子・嫌子の定義ではありませんが、あえて簡単のためにこういう理解でいきます。より厳格なABAの理論を学びたい方は、上記の本などを参照ください。
具体的な例をあげることで、この5つの行動随伴性の関係を改めて確認してみます。
1.ビールを飲む(行動)と、ほろ酔い気分(快となる事象)になる→ビールを飲むという行動は(好子出現の)強化され、起こりやすくなる
2.ビールを飲む(行動)と、気分が悪くなる(不快となる事象)→ビールを飲むという行動は(嫌子出現の)弱化され、起こりにくくなる
3.ビールを飲んでも、これまで感じていたほろ酔い気分を感じなくなる→ビールを飲むという行動は徐々に起こりにくくなり、消去される
4.ウコンを飲んだら、せっかくのほろ酔い気分(快となる事象)が醒めてしまった→ウコンを飲むという行動は(好子除去の)弱化され、起こりにくくなる
5.ウコンを飲んだら、気持ち悪い二日酔い(不快となる事象)がすぐに良くなった→ウコンを飲むという行動は(嫌子除去の)強化され、起こりやすくなる
ちなみに、今回のシリーズ記事で採用している「簡単バージョン」の行動随伴性の整理と、上記の5つの随伴性・好子・嫌子との関係は、以下のようになります。
簡単バージョンの「強化」=好子出現の強化と嫌子消失の強化、両方をあわせたもの
簡単バージョンの「消去」=好子出現の強化のメカニズムに対する消去のこと
簡単バージョンの「ごほうび」=好子が出現することと、嫌子が消失すること、両方をあわせたもの
さらに、まだ登場していませんが、
簡単バージョンの「罰」=嫌子出現の弱化と好子消失の弱化、両方をあわせたもの。あるいは、嫌子が出現すること、好子が消失することそれ自体。
簡単バージョンの「代替行動への切り替え」=(上記でご紹介していませんが)ABAでいう「代替行動分化強化」
簡単バージョンの「手助け」=(上記でご紹介していませんが)ABAでいう「プロンプト」
簡単バージョンの「手助け減らし」=(上記でご紹介していませんが)ABAでいう「プロンプト・フェイディング」
簡単バージョンの「後ろむき法」=(上記でご紹介していませんが)ABAでいう「バックワード・チェイニング」
簡単バージョンの「ポイントカード」=(上記でご紹介していませんが)ABAでいう「トークン・エコノミー」
という用語も、今後のシリーズ記事で登場する予定です。
参考までに、今回のシリーズ記事で取り上げているパニックのケースを、今回の「専門用語ベース」で表現すると、以下のようになります。
今回、「パニックする」という行動の直後には「ゲームコーナーで遊ぶ」という事象が続きました(=随伴しました)。
恐らく、この「ゲームコーナーで遊ぶ」という事象は、お子さんにとって「快となる事象」、つまり「好子」である、と推測されます(これも仮説です)から、パニックという行動は、「ゲームコーナーで遊ぶ」という「好子出現の強化」によって強化されたと考えられます。
そう考えると、今回の対応の結果として、今後もパニックは続く/より起こりやすくなるでしょう。
なぜなら、パニックという行動の直後に、ゲームコーナーで遊ぶという「好子」が「随伴」したことで「好子出現の強化」が起こっているから。
・・・どうでしょうか?
こういった厳格な書き方のほうが頭が整理される、という方もいらっしゃるのではないかと思います。
ただ、今回のシリーズ記事では「より分かりやすいABA」を目指しているということもありますので、先の「簡単バージョン」の表現で解説をしていきたいと思います。
ですので、今回の「番外編」の内容は、今後のシリーズ記事を読むうえでも必要にはなりませんので、読み飛ばしていただいても大丈夫です。ご安心ください。
(次回に続きます。)