2007年01月01日

心理学について(1)

私は大学で心理学を専攻したわけですが、当時も、そして現在も、とかく心理学というのは誤解されやすい学問だと思います。

自閉症児の療育を考えるにあたって、心理学がどういうものかということを知ることは意味のあることだと思いますので、私なりに考える「心理学とは何か?」について、少し書いてみたいと思います。

心理学というのは、ひとことで言えば「心の科学」だといえるでしょう。そこで行なわれていることは「心を科学的に研究すること」です。

ところが、一般には心理学の一種だと考えられているフロイトやユングなどの精神分析は、実はまったく科学的ではなかったりします。(ただし、後で書きますが、科学的でないから価値がまったくない、というつもりはありません)

そして、この「心理学の一種として扱われているけれども実は科学的でない」精神分析を一種の「中継点」にして、精神世界(最近はやりのスピリチュアル何とかなど)や科学的根拠のないカウンセリング・ヒーリング、血液型性格診断を含む「性格占い」や「心理テスト」、読心術、催眠術といったものが「心理学っぽいもの」として存在します。
これらはお金儲けと直結しているものが多いので、自らの立場を「心理学」と呼んで信ぴょう性を上げようとします。しかも、こういったエセ心理学は人気があるため、一般の人がテレビや雑誌で目にする「心理学」はこういったエセ心理学ばかりという現状です。
これらのエセ心理学に「うさんくささ」を感じている人は多いでしょう。それが、心理学そのものへの「うさんくささ」にまでつながっている部分もあると思います。

この現状をなげいて「心理学はそうじゃないんですよ!」と書くだけなら簡単なのですが、ここではあえて、こういった現状を受け止めたうえで、「心理学」を語ってみようと思います。

なぜこれほどまでに「エセ心理学」が花盛りなのか。それは「心」というのがものすごく広くかつあいまいな概念だからだ、と思います。

「心」って何でしょうか? この問いに、誰もが納得できる答えを提示した人は、まだいないはずです。

「心」を辞書で引いてみると、こんな定義が出てきます。

[心・こころ] 人間の体の中にあって、広く精神活動をつかさどるもとになると考えられるもの。
(1)人間の精神活動を知・情・意に分けた時、知を除いた情・意をつかさどる能力。喜怒哀楽・快不快・美醜・善悪などを判断し、その人の人格を決定すると考えられるもの。
(2)気持ち。また、その状態。感情。
(3)思慮分別。判断力。
(4)相手を思いやる気持ち。また、誠意。
(5)本当の気持ち。表面には出さない思い。本心。
(6)芸術的な興趣を解する感性。
(7)人に背こうとする気持ち。二心。
goo辞書「大辞林 第二版」より


よく見ると、定義の(1)で除外した「知」の部分が、定義(3)で復活していたりします。そして、冒頭にある定義(人間の体の中にあって・・・)でも、「精神」というさらにあいまいなことばが登場していたりして、結局説明になっているとは言えません。

上記の定義もふまえつつ、私なりに「心」とは何か、を定義すると、「ヒトの複雑な行動の原理をひとことで説明するための概念」とでもなるでしょうか。つまり、「心」という実在があるというよりは、ヒトの行動を決める「よく分からないモロモロ」をひっくるめて「心」という名前を付けてしまった、といった感じです。
そして、「心の科学」というのは、その「よく分からないモロモロ」の中から一部の要素を抜き出してきて、その要素に科学的な説明をつけて「よく分かったコト」に変えていく営みであると考えられます。

こういったアプローチは、対象が自然現象や物質であれば、科学的に「よく分かったコト」の部分から応用され、多くの人にも肯定的に受け入れられます。
ところが、対象が「心」の場合、科学的なアプローチで(少なくとも現時点では)到達できない部分が非常に大きく、しかも多くの人が関心を持っているのは「よく分からないモロモロ」の方だったりします。
意中の異性が自分をどんな風に感じていて、好きになってもらうためには何をすればいいのかを、一般論ではなく個別具体的に教えてくれる「心の科学」は現在存在しないし、恐らく近い将来にも誕生しないでしょう。

ここに、世間一般が持っている「心」への関心と、心理学が追求している「心」の領域の間に「ズレ」が生まれ、その「ズレ」を埋めるものとして「エセ心理学」が盛り上がる理由があるのではないか、と思います。
さらに加えれば、「心理学」というカテゴリにくくられている学問のうち、この一般的な「心への関心」に最も近い領域を扱っているのがフロイト・ユング系の精神分析であることから、学問としての「心理学」に興味を持った人も、多くはそちらの世界の方に興味を向けてしまう、ということがあるのでしょう。でも、科学としての「心理学」は、実は、フロイト・ユング方面ではない、別のところにあるのです。

・・・今回は「心理学とは何か」を書くつもりが、結果的には「エセ心理学とは何か」になってしまったので、次回、もう少しまじめに心理学とは何かについて書きたいと思います。

参考:「心理学っぽいが心理学ではないオカルト」について考えるには、以下の本が面白いでしょう。


超常現象の心理学―人はなぜオカルトにひかれるのか
著:菊池 聡
平凡社新書

血液型性格診断や霊媒、精神分析などに対して取るべき態度が極めて冷静に語られています。オカルトというだけで頭ごなしに否定する本でもないところがミソです。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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