さて、前回までで、今回のパニックは、「ゲームコーナーで遊びたい」という欲求を周囲に伝えるというコミュニケーションの「機能」を持っている、という「仮説」を立てるところまでの、ABA的思考法の流れを簡単にご説明しました。
もう一度、その仮説に基づくABC分析の表を見てみることにしましょう。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べる(↑) |
ここで素朴な質問ですが、なぜこのお子さんの場合、「ゲームコーナーで遊びたい」という欲求が「パニック」という行動につながったのでしょうか。
それは恐らく、過去に同じように何らかの欲求があって、そのときにパニックしたらその欲求がかなえられた、あるいはもっと直接的に、以前にもゲームコーナーに行きたいときにパニックしたら連れて行ってもらえた、といった経験があって、それを「学習」して繰り返していたのだ、と考えられるでしょう。
あるいは、今回たまたま、初めて「パニックする」という行動をとってみたら、ゲームコーナーに連れて行ってもらった(そして楽しい経験をした)、ということなのかもしれません。
いずれにしても、今回のシーンでは、「パニックする」という行動の後に「ゲームコーナーで遊ぶ」という「楽しい経験」が続いています。
ちょっと違う言い方をすれば、今回、「パニックする」という行動に対して、「ゲームコーナーで遊ぶ」という「ごほうび」が返ってきた、と考えることもできます。
そのため、今後、似たような場面(ゲームコーナーに行きたいのに連れて行ってもらえない、あるいはもっと一般的に「何か欲求があるのにかなえられない」といった状態)では、今回とった「パニックする」という行動が、より起こりやすくなると想定されます。
ABAでは、このように「ある行動の直後に、どんなことが起こるか?」によって、その行動が今後、より起こりやすくなるか起こりにくくなるかが変化する、という考えかたをします。
これは、専門用語でいうと「行動随伴性」と呼びますが、ABAにおける基本中の基本となる、非常に重要な考えかたです。
大事なことなので(誰かさんではありませんが)もう一度。
ある行動が、その後起こりやすくなるか起こりにくくなるかは、その行動の直後にどのような事象が続いたか(随伴するか)によって決まる。
これが、ABAのすべての出発点となります。
ある行動の後に、①どんな事象が続くと、②その行動の起こりやすさがどう変化するのか、についてのABAのルールは全部で5つありますが、その中でも特に重要なのは、下記のたった2つです。
1)ある行動の直後に、①ごほうびが与えられると、②その行動は起こりやすくなる。=強化
2)ある行動の直後に、①ごほうびが与えられないと、②その行動は起こりにくくなる。=消去
強化と消去、まずはこの2つだけを理解しましょう。
家庭での療育ということであれば、事実上、この2つだけを活用していればABA療育は十分に可能です。つまり、
1)増やしたい行動があれば、その行動の直後に「ごほうび」を与えて強化すればいい。
2)減らしたい行動があれば、その行動の直後に与えられている「ごほうび」を発見して、それを与えないようにして消去すればいい。
ということです。
ちなみに、「直後」というのは、できれば数秒以内、遅くとも「60秒以内」という短い時間を想定しています。
ここでいう「ごほうび」というのは、ABAの専門用語では「強化子」とか「好子」などと呼ばれますが、必ずしも食べ物とかおもちゃなどの「物」が与えられることには限りません。休息やほめ言葉、自己刺激、お金、スタンプカードへのスタンプ、「注目されること」など、その子のその後の行動を増やす効果をもっているものはすべて「ごほうび」と考えます。
また、「存在している『嫌なこと、負担になること』がなくなること」も、ここでは「ごほうび」と考えます(やや乱暴な整理ですが)。
たとえば、「今やっている難しい課題を、やらなくて済むようになる」ことは、「ごほうび」になります。なので、課題の時間にパニックすると課題の時間が終わりになる、というパターンがある場合、「課題の時間が終わる」ことが「ごほうび」になって、「パニックする」という行動は強化され維持されることになります。
別の例としては、説教されているときに「ごめんなさい」と言えば説教が終わる、というパターンがある場合、「説教が終わる」が「ごほうび」になって、「ごめんなさいと言う」という行動が強化されていると考えられます。これは、望ましいケースとあまり望ましくないケース、両方があるかもしれませんね。
そして、ABAでは、「いま現に続いてしまっている問題行動があるとすれば、そこには必ず『強化の仕組み』が働いているはずだ」と考えます。
先ほども書きましたが、行動を増やしたり続けさせたりする「ごほうび」は、親が意図的に子どもに与えるものだとは限りません。
たとえば普段、おとなしくしている時は親や支援者にかまってもらえなくて、パニックしたり暴れたりすると家族総出で相手をする、といったケースの場合、「注目される」「家族にかまってもらえる」ということが、結果として「ごほうび」となり、お子さんのパニックを維持・強化している可能性があります。
ここで改めて重要なことは、「ごほうび」を考えるときに、「内面モデル」に戻ってしまってはいけない、ということです。
例えば、「愛されること」とか「安心すること」といった、「内面の動き」を「ごほうび」だと考えるのは、ABA的には不適切です。
そうではなく、「声をかけてもらうこと」「休息の時間が得られること」「ほめてもらうこと」といったように、「目に見える」形で理解する必要があります。
「そんなの、結局同じなのでは?」と一瞬思ってしまうかもしれませんが、これはとても大きな違いです。
この後で、ABAの実際の「働きかけ」を行なうときには、この「ごほうび」を与えないようにしたり、違うものにしたいといった「ごほうびの操作」を行います。
そのとき、「ごほうび」が、「愛されること」のような「内面モデル」になっていたら、その操作が目に見えない、あやふやなものになってしまいます。
すべての分析、理解、仮説作り、働きかけを、目に見える世界のなかで組み立てていく。
それがABAの働きかけの基本中の基本ですので、その中でのキーワードになる「ごほうび」も、目に見えるものや現象として表現されなければならないわけです。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)