2006年06月15日

「内面」はあるのか?-コミュニケーション療育の方法論(5)

今回の議論をまとめたうえで、療育にどう活かすかを改めて考えてみたいと思います。

人とのコミュニケーションの「はじまり」において、言葉は必要ありません
人とのコミュニケーションの「はじまり」において、「内面」を考える必要はありません

なぜなら、これらが必要になるのはコミュニケーション全体の一部分でしかなく、それも内容が複雑化・抽象化した場面でのみ必要な、コミュニケーションの「上級編」だからです。

それでは、コミュニケーションとは何から始まるのかといえば、「直接的な相互作用」から始まる、と言えます。

分かりやすい例として、動物とじゃれあうことを考えてみます。

私たちは動物と遊ぶとき、ことばが通じなければならない、とは考えませんし、「内面」を気にして、動物がどんなことを「意識して」いるかを判断してから相手をする、なんてまだるっこしいことはやりません。
そんなことを気にせず、目の前にいる動物にダイレクトに働きかけ、動物の反応を受け止め、またそれに反応して働きかける。その働きかけと反応の繰り返しの中に感じられる「お互いに影響し、影響されあっている」という実感こそが、コミュニケーションの本質なのだと思います。
ここには「ことば」や「内面化」の必要性はなく、むしろそんな邪魔なものは頭から消し去ったほうが、動物との相互理解に近づけるのではないでしょうか。

ことばを獲得「してしまった」私たちは、どうしても「理解」というと、分かりやすく言語化してしまいたい衝動に駆られますが、そこをぐっとこらえて、ことばにならない「実感としての理解」をそのまま受け止めることが重要です。
モノとは違って、動物や人はこちらからの働きかけに対する特別な反応があり、こちらもその反応から特別な影響を受ける、その特別さの実感こそが、「直接的な相互作用としてのコミュニケーション」への気づきであり、コミュニケーションに困難を抱える自閉症児への働きかけの出発点になるのだと思います。

では、その「出発点」を考えるヒントはあるでしょうか? それは、上記の文そのものに隠されています。

まずは、この世の中のものを、「モノ」「動物」「ヒト」の3種類に分け、それぞれに対して働きかけるために必要な発達的スキルを考えてみます。



モノ・・・一方向的な働きかけ(操作)のみ
動物・・・直接的な相互作用(双方向的な働きかけ-反応の関係)
ヒト・・・直接的な相互作用+言語化・抽象化された相互作用
      (コミュニケーションの一部が「内面化」される)


「モノ」は、道具として一方的に操作できるようになれば終わりです。
「操作」について効果的に療育できる方法の1つとして、このブログでは、「鏡の療育」を紹介しています。

それに対して、「動物」が「モノ」と決定的に異なる点は、一方向的な「操作」ではなく、双方向的な「相互作用」によって初めて適切な働きかけができる、という点です。言い換えると、相手からの反応を受け止め、次の反応を微調整できること、これが決定的に重要なスキルになります。

さらに対象が「ヒト」になると、このような双方向的な相互作用が必ずしも直接的なものだけではなくなり、言語化され、一部は「内面化」されて目に見えなくなります。
目に見えなくなるために、その目に見えない相手の「内面」を推測する、といった非常に複雑な要素も必要になってきます。このスキルが、いわゆる「心の理論」です。
(繰り返しますが、ヒトとのコミュニケーションに常に「内面」や「心の理論」が必要なわけではありません。ヒトを相手にする場合は、時として、そういう高度な認知スキルが必要な場合が生じる、ということです。)

さて、自閉症児がつまづいている場所は、どこでしょうか?
それは、「動物」の段階、つまり、相手からの反応を受け止めて自分の行動を微調整するという発達スキルの部分にあるのではないでしょうか? そこがうまくいかないから、「ヒト」の段階でも困難を抱えているのではないでしょうか?

ですから、「操作」のスキルを身に付けた自閉症児が向かうべき次のステップは、いきなりヒトとの高度なコミュニケーションに放り込まれることではなく、よりシンプルな「動物の段階」、つまり、直接的な相互作用だけで理解できるコミュニケーションのスキルを身に付けることだと思われます。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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