前回の「分析」で、今回例にとったパニックは、次のように理解できることが分かりました。
このパニックには、スーパーという場所において、ゲームコーナーで遊ぶことができるようになる、という機能をもっている。
パニックはゲームコーナーで実際に遊ぶという「ごほうび」によって強化されたので、今後も続くだろう。
すっきりしていますね。パニックという問題行動の「前」と「後」を考えることで、その意味=「機能」も見えてきます。
※これに対して、内面モデルによる問題行動への対処は、いろいろ考えているようでいて、実は「問題行動それ自体しか見ていない」ことが多くなります。
問題行動に「きっかけ」とか「結果」が関係している、というのは冷静に考えれば分かることですが、内面モデルによるアプローチでは「いま」何を考えているんだろう、という思考パターンに陥ってしまい、「前」も「後」も考えずに「いま」の問題行動だけを見てしまうことがしばしばあります。
そのために、つい私たちはただ放置したり、逆に厳しく叱ったりという、その場その場の場当たり的な対応に追い込まれてしまいがちになるわけです。
ただし、これはあくまでもABA的視点からの「仮説」であって、絶対に正解だという確証はありません。
この仮説が正しいかどうかは、実際にこの仮説に基づいた働きかけを試してみて、効果が出るかどうかで判断=検証していくことになります。
この「検証」が容易な点も、ABAの強みです。
目に見える世界のなかだけで問題を解決しようとするABAは、仮説が正しいか間違っているかも「見える」ため、間違った仮説を信じて独りよがりの療育(でも間違っているために効果が望めない)に陥るリスクを減らすことができるのです。
それではここでもう一度、今回のパニックについての「仮説」を整理してみます。
ABAにおける仮説をうまく「見える化」するツールとして、「ABC分析」というものがありますので、それを使ってみましょう。
ABC分析では、横に並んだ3つのマス目を使います。
A | B | C |
. |
上にABCと書いてありますね。だから、ABC分析と呼ばれます。
このうち、真ん中の「B」は「Behavior(行動)」のBです。ですので、ここにはそのときに問題となっている(=制御するターゲットとなる)行動を書き込みます。今回は「パニックする」ですね。
A | B | C |
パニックする |
次に、AとCには前回着目した「行動のきっかけとなった環境・状況(の変化)」「行動の後に生じた環境・状況の変化」を書き込みます。Aが行動の「前」、Cが行動の「後」、ということになります。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べる |
最後に、「C」のマスの中、つまり行動の後に起こったことのすぐ右に、矢印を書き込みましょう。
これは、その「結果(C)」が、直前の行動(B)にとって「ごほうび」になる=増やすような方向に働くか、「罰」になる=減らすような方向に働くかを示す(もちろんこれもこの時点では仮説)ものです。
今回、「ゲームコーナーで遊べる」という結果は、この子どもにとって「ごほうび」になっていて、将来同じような状況になったときに再びパニックする傾向を増すだろう、と予想できますので、「行動が増える」という意味の上向き矢印「↑」を記入します。
もしも、「C」に書き込まれた「ある結果」が、直前の行動を減らすようなものであると予想される場合は、下向きの矢印「↓」を、また、どちらともいえない(あまり行動の増減に関係なさそうな)ときは「-」を記入します。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る | パニックする | ゲームコーナーで遊べる(↑) |
とりあえず、現時点で整理できていることは、これで「ABC分析」の表にうまく整理できました。
このように「ABC分析」をすることで、ある行動(今回の例では「パニック」)の前と後で、状況がどう変化したのか、そしてその変化は、その行動を増やす方向に働くのか、減らす方向に働くのか、といった情報が構造化され、「見える化」されます。
次回は、このABC分析の結果をふまえて、いよいよABAの理論的な話題にも踏み込んでいこうと思います。
※ところで、現実のパニックなどの問題行動では、今回の例のように仮説を1つに絞り込むことができなかったり、結果として起こることがいくつもあったりすることも珍しくないと思います。
そういった場合は、例えばは下記のように、関係のありそうな「A」と「C」をすべてABC分析の表の中に書き出してみるところから始めます。その上で、どのA-B-Cの組み合わせが実際に問題行動に影響しているのか(1つだけではないかもしれません)を、今後のシリーズ記事でご説明するようなやり方で1つ1つ検証していくことになります。
A | B | C |
ゲームコーナーに寄らずにスーパーを出る スーパーの外に出たら暑い 買って欲しいものを買ってもらえなかった | パニックする | ゲームコーナーで遊べる (↑) 涼しい店内に戻れる(↑) やはり買ってもらっていない(↓) |
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)
私は奈良で教員をしておりますが、ABAの推進も進めています。(密かにですが・・)
特総研の先生とも連絡を取り合い、共同研究も進めている最中です。
現場(教育)では、なかなかABAの普及が難しく、悩んでおります。
原因の一つとして、ABAは専門用語が難しく、敬遠されがちにあるかと考えています。その点では、そらパパさんのABAシリーズはとてもわかりやすく、理解されやすい内容だと思いとても参考になっています。
家庭をターゲットにした内容だとは思うのですが、初心者の教員にも同じくこのような説明をするべきではと思っています。いかがでしょうか?
別件で質問ですが、PRTでの介入の価値はどれほどあるとお考えでしょうか?
コメントありがとうございます。
ABAを、ABAを受け入れる素地があまりない場所で広めていくのって、とても難しいですよね。
私も、職場でABAを取り入れようといろいろ頑張ってみましたが、結局、どうしてもこのシリーズ記事で書いているような、まさに「ABA的な考え方」に対して拒絶反応が出てしまって、「今のままでいいじゃない」となってしまうという経験を何度もしました。
この辺りは、「考え方そのもの」を変えていく話になるので、単に用語を分かりやすくしただけではなかなか乗り越えられないのかもしれないなあ、とも感じたりしています。
でも、少なくとも「分かりにくい」よりは分かりやすいほうがいいに決まっていますし、このシリーズ記事の内容は、もちろん親御さんだけに意味があるのではなく、支援や教育に携わる方にも何らかの意義があればいいなあ、と思って書いています。
それと、PRTですが、私は残念ながら軽く本を読んだ程度で、詳しくありません。
ただ、ABAの派生技法は、要は「どういう療育モデルを採用するか、どういったトレーニングをどういった体系で実施するか」のバリエーションだと思っています。ですので、そういった派生技法については、実践面で共感できるものであればいいとこ取りで活用していく、くらいでいいのかな、と個人的には感じています。