2011年01月24日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (4)

さて、これまでのシリーズ記事で、ABAの一番重要なポイントは、私たちに「内面モデル」とは異なる人の行動の理解のしかた、働きかけのポイントを教えてくれるところにある、という話をしてきました。
専門家によるトレーニングではない、「家庭の療育」「工夫のある子育て」としてのABAでは、この「新しい考えかた、見方を意識して、少しだけ子育てのやり方を変える」というところこそが最も大切なんじゃないか、そう思っています。

ここからは、実際の子育ての場面で、「ABA的な見方、考えかた」がどんな風に活かされるのか、それはよくある「内面モデル」とはどんな風に違うのか、そういったことを考えながら、具体的なABAのテクニック的なこともその中に織り交ぜる形でご紹介していきたいと思います。

ここで例として、目の前で突然パニックを始めたお子さんがいると想定します。何とかしなければなりません。

ここで、「この子は何を考えているんだろう」というところから問題の解決を図ろうとするなら、これは完全に「内面モデル」の考えかたです
つまり、「いまこの子が考えていること=内面の動き」が、パニックという「行動」を引き起こしている、という構造を前提にものごとを考えていることになるからです。

では、「この子は何に困っているんだろう」あるいは「この子は何を伝えようとしているんだろう」ではどうでしょうか?
この視点は、そんなに悪くありません。ABA的思考法に慣れた後なら、こういう視点から問題を探っていっても迷うことは少ないでしょう。

でも、そうでない(まだABA的思考法に慣れていない)場合は、この問題設定もあまりよくありません。
なぜなら、このレベルだと、まだ簡単に内面モデルに移行してしまう可能性が残っているからです。
例えば、「何を困っているんだろう」「何を伝えたいんだろう」という問題設定は、「子どもが内面から発するメッセージを何とかして探ろう」という方向性に、簡単に変わってしまいがちです。そうすると「内面モデル」になってしまって、「目に見えないものを推測する」という困難なルートに乗ってしまいます。

では、ここで設定すべき「ABA的に適切な問題設定」とは、どんなものでしょうか?

それは、簡単にいうと、「この子は何をきっかけにパニックを起こし、パニックによって状況はどう変わるのか?」と考えることです。

もう少し詳しく書いてみましょう。ここでは、パニックという「行動」を中心に、その「前」と「後」について、以下の4つの考察ポイントを軸に考えていくことになります。

1つめの考察ポイントは、「パニックを始めるきっかけになったのは、どんな環境・状況(の変化)だろうか?」という点です。これは行動の「前」についての視点ということになります。

2つめの考察ポイントは、「パニックの結果として、どんな環境・状況の変化が起こるだろうか?」という点です。これは行動の「後」についての視点ですね。

そして、この第1と第2の考察ポイントが揃ったとき、「このパニックには、どんな『機能』があるのだろうか?」という第3の視点をもつことができるようになります。これについてはこの後で改めて考えます。

そして、4つめの考察ポイントとして、「このパニックが今後も繰り返されるような『メカニズム』が働いているだろうか?」という分析が出てきます。

例えば、店内ではおとなしくスーパーの買い物に付き合っていたのに、店から出た途端にパニックを始めた、といったケースを例にとってみましょう。

この場合、「店から出た」ということ(状況の変化)が、パニックの「きっかけ」になっている可能性が高いと推測できます。(第1の考察ポイント)

子どもにパニックが起こると、親の側は大抵、ああでもない、こうでもないといろいろなことを試行錯誤してパニックを止めようとするわけですが、例えばこのケースで、もう一度スーパーに戻って、店内のゲームコーナーに連れて行ったら、遊んだ(そして、パニックは収まった)、という展開があったとすると、子どもはこのパニックによって、パニックしなかった場合と比較して、「ゲームコーナーで遊ぶ(ことができた)」という「状況の変化」を起こしたことになります。(第2の考察ポイント)

そして、この2つの考察から、「今回のパニックは、『スーパーのゲームコーナーで遊ぶことができるようになる』という『機能』をもっている行動のようだ」という「分析」ができます。(第3の考察ポイント)

ところで、この「ゲームコーナーで遊びたいパニック」は、今後、スーパーから帰るときに繰り返されるでしょうか?
恐らく、繰り返されることになると推測されます。
なぜなら、今回の対応で、「パニックする」という行動の結果として「ゲームコーナーで遊ぶ」という「ごほうび」が得られているからです。
次にスーパーに来て、またゲームコーナーで遊ばずに帰りそうになったら(つまり、今回と同じ状況になったら)、この子はまたパニックするでしょう。
ここには、行動の結果として「ごほうび」が得られ、それによって将来、同じような状況その行動が起こりやすくなるという「メカニズム」が働いている(それによってパニックが繰り返される)と考えることができます。(第4の考察ポイント)

このように、ある行動に「ごほうび」が与えられることによって、その行動が今後も発生しやすくなる、継続されるという「メカニズム」のことを、ABAでは「強化」と呼んでいます

以上をまとめてみましょう。

今回のパニックには、スーパーという場所において、ゲームコーナーで遊ぶことができるようになる、という機能をもっている。
今回のパニックは、ゲームコーナーで実際に遊ぶという「ごほうび」によって強化されたので、今後も続くだろう。


どうでしょうか?
「内面モデル」による考察が、その場その場で相手の気持ちを手探りで調べていくような漠然としたものであるのに対して、ABA的な思考法による「分析」は、非常にシステマチックで、すっきりしていると感じられないでしょうか?
しかも、この方法は、今回のパニックに限らずあらゆるパニック場面で応用できますし、もちろんパニックだけでなく他のさまざまな問題行動の解決にも活用できる「汎用性」をもっています。

もともと、ABAというのはApplied Behavioir Analysis、「応用行動分析」の略語です。
「ほめて伸ばそう」みたいなABAの実践面だけを学んで、その背後にある考えかたを知らないと、なぜABAが「行動分析」なのかよく分からないと思いますが、今回のように「そもそものABAの視点」を知れば、それはまさに「行動」の「分析」以外の何者でもないことがお分かりいただけるはずです。

次回は、このパニックをどう「解決」していくのかについてのABA的なアプローチについて書きたいと思います。

参考図書



おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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