まず、とても簡単に書きます。
ABAの考えかたとは、「内面モデルを使わずに行動を理解する」というものです。
でもこれでは、最初に書いたことを言い換えただけでよく分かりませんね。もう少しだけ噛み砕いてみます。
ABAの考えかたとは、「行動と、それに伴う状況の変化(だけ)から、人の行動を理解する」というものです。
さて、前回の記事で、「内面モデル」の考えかたをどう説明したでしょうか。思い出してみてください。
そうですね、内面モデルとは、「人の内面の状況や変化によって人の行動を理解する」というものでした。
つまり、こういうことです。
内面モデルでは、「内面の変化」が原因、「行動(の変化)」が結果、という考えかたです。
ABAの考えかたは、「環境の変化」が原因、「行動(の変化)」が結果、という考えかたです。
これは、特にABAについてはちょっと乱暴なまとめかたです。もう少し正確にいうなら、「行動の前後での環境の変化が、その後の行動の傾向を変化させる原因となる」といった感じになります。でもここでは、「内面ではなくて環境の変化を見るんだ」という「視点の変化」が重要なので、あえてシンプルに書いています。
どうでしょう。あまり違わないように思えるでしょうか。
行動の原因だととらえるものが「内面」であろうが「環境」であろうが、何かの原因があってその結果が行動(の変化)だ、という考えかたの「構造」は似ているから、結局やることはあまり変わらないんじゃないだろうか、と感じられるでしょうか?
でも、そんなことはありません。この「視点の違い」こそが、「内面モデル」ではできなかったたくさんのことを可能にしてくれる、とても大きな力を発揮するのです。
ここで改めて聞きます。
「内面って、見えますか?」
見えないですね。見えないから「内」面って呼ぶわけですから。
では、こちらの質問はどうですか?
「環境って、見えますか?」
見えますよね。そして最後にもう1つ質問。
「行動って、見えますか?」
これも、見えます。
そうすると、どうなるか。
「環境の変化と、それに伴う行動の変化という枠組みで、人の行動を考えていく」という「ABAのモデル」は、最初から最後まで、「ぜんぶ見える」のです。
もう1つ、似た質問をします。
「内面って、操作できますか?」
ことばによる指示などで「できる」と言えないこともないですが、少なくとも他人の「内面」を直接いじって操作することはできないですね。
「環境って、操作できますか?」
これは「できる」と言っていいでしょう。「環境」の定義にもよりますが、「子どもの行動に影響を与えるような周囲の状況」ということでいえば、少なくとも「操作できる領域はある」とは言えるはずです。そして、当然ですが、その「操作しているプロセス」も「見えます」。
ここで、もう1つの結論が見えてきます。
「環境の変化と、それに伴う行動の変化という枠組みで、人の行動を考えていく」という「ABAのモデル」なら、私たちは直接働きかけたり、操作したりできます。
はい、これで、私たちに魔法がかかったのに気づかれたでしょうか。
今まで、「内面モデル」だけしか知らなかった私たちは、子どもの行動の原因に悩み、「内面」が見えないことに悩み、その「内面」に働きかける(操作する)ことができないことに悩んできました。そして、それでも子どもに働きかける、「かかわる」ためには、何とかよく分からないその「内面」を理解し、働きかけるほかないと信じてきたわけです。
ところが、「ABAモデル」という新しい考えかたを導入しただけで、子どもの行動の原因は目に見える「環境」のなかにあることになり、原因と結果の流れもすべて見えるようになり、その「環境-行動」という構造に対してダイレクトに目に見える働きかけができるようになってしまいました。
これは、極論すれば「今まで見えなかったもの、触れなかったものが、考えかたを変えただけで見えるように、触れるようになった」ということと同じです。
ABAは、そんな「魔法」を私たちにかけてくれるのです。
その魔法は、私たちの子育てをとてもラクなものにし、子どもの存在をぐっと身近なものにし、ひいては「子どもを理解する」道筋を提供してくれるものです。
「そんなにうまくいくものなのか?」と疑問に感じられる方も多いでしょう。
ここで(ここでこそ)、ABAが科学的に検証され、さまざまな批判的検証に耐えてきたものであり、数多くの自閉症療育のなかでほぼ唯一「強いエビデンス(効果があることの科学的証拠)がある」ものである、という事実が、私たちを勇気付けてくれます。
「ABAの考えかた」のメリットは、そのまま「療育効果」という形で実を結んでいるという事実があるわけです。
ですから、私たちもこのとても魅力的な「ABAのモデル」で子どもを理解し、働きかける、「新しい考えかたをベースにした、ちょっと工夫した子育て、家庭の療育」に安心してチャレンジしていきましょう。
参考図書
おかあさん☆おとうさんのための行動科学(レビュー記事)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由(レビュー記事)
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(レビュー記事)
(次回に続きます。)
では、内面モデルにも目を向けたBOOKのように感じるのですが、いかがでしょうか?
コメントありがとうございます。
とてもいいポイントをついたご質問だと思います。
そうですね、確かにご指摘の本(私も参考書籍で紹介していますが)は、行動の原因を、内的な動機付けから説明しようとしている点において、部分的に「内面モデル」を採用していると言えるかもしれません。
ただ、さらに深く掘って考えると、「じゃあなぜそういう動機付けが存在するのか、その動機付けはどうやって学習されたのか」という点を、やはり外的な行動モデル、行動随伴性で考えるので、1レベルだけ「内面」に入っても、すぐに目に見える「外的モデル」に戻ってくるために、やはり「目に見えて、操作できる」というABAモデルの一種だと考えることができると思います。
(あるいは、分かりやすさのために「内面」を考えるモデルを採用しているけれども、その随伴性を変えるための「操作」はあくまでも目に見える行動レベルで行なうことを徹底している、と考えることもできるかもしれません)