2006年05月20日

よくわかる最新時間論の基本と仕組み(ブックレビュー)


図解入門 よくわかる最新時間論の基本と仕組み―時間・空間・次元の物理学
著:竹内 薫
秀和システム

第1章 時間の基礎
第2章 時間の哲学・生理学
第3章 時間の物理学
第4章 時間と空間のはて―時間論の最前線(超ひも理論の世界、時間はなぜ目に見えないのか ほか)

出張中に読んだ本の3冊め。

自閉症児の時間認知の障害(見通しを立てにくい、待てない、記憶のフラッシュバック、etc.)について考えているうち、そもそも我々の一般的な時間認識も一種の「幻想」なのではないかという「気づき」に至りました。

そのような考えについて理解を深めるため、さまざまな時間論に関する本を読みましたが、中でも、一番面白くて読みやすく、かつ得るところが多かったのが本書でした。

脱線しますが、本書の著者である竹内薫氏は、ごく最近のベストセラーである下記の本の著者で、最新の物理学と科学哲学の素養を兼ね備えた、バランス感覚に優れた実力派科学ライターです。(下記の本も本当に面白いです。「固くなった頭のストレッチング」にとても適した読みやすい本ですので、余裕があれば読むことをおすすめします。)


99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方
著:竹内 薫
光文社新書

・・・話を戻します。
ちょっとネタバレになってしまいますが、本書のあとがきで出てくる、時間に関する著者の結論を引用してみます。

いずれにせよ、物理的な時間をなんらかの「実在」と考えることから、あらゆる勘違いが生ずることは、ほぼ確かであり、それは、本書でご紹介した哲学的な議論や物理学的な議論からも明らかだと思う。
(本書 あとがきより)

・・・オカルトでも、空虚な空想でもなく、最新の科学から導かれる時間に関する結論が、これです。ちょっとびっくりしませんか?

我々は時間を、過去から現在、そして未来に向かって「流れて」いくようなものとして認識しています。
この考え方に異論を唱え、時間というのは我々が世界を理解するために構築した「枠組み」であって、必ずしも実在するものではないと考えたのが、哲学者のカントでした。

本書は、このような哲学的な議論をとっかかりとして、このカントの考え方がどうやら正しそうだ、ということを、物理学的アプローチから検証していこうという試みです。

近代物理学は、この世界(宇宙)に「絶対空間」と「絶対時間」という「神の座標軸」を設定してその中での物質の振る舞いを記述しようとしたニュートン物理学から始まりました。

その後、時間も空間も測定者からみた相対的なものであり、「絶対空間」や「絶対時間」といったものは存在しないというアインシュタインの相対性理論が生まれ、さらに量子物理学になると、空間、時間、運動といった世界の構成要素は、実はそれぞれに絶対的な実体があるものではなくて、相互に関連しあって、我々から見た世界の「見え」を構成しているに過ぎないことが分かってきました。

そして、我々が「時間」と読んでいるものは、突き詰めていくと「宇宙の始まり」から続くエントロピーの増大にすぎず、我々が「時間を一方向のみに感じる」のは、我々がエントロピーが拡大する方向にしか物事を観察したり記憶したりすることができないからだ、というのが(私が理解した)著者の時間に関する大まかな説明です。

・・・ちょっと難しいですね。
例えば、いまここで私が「タイムマシン」を起動させて時間を1時間戻したとします。そうすると、世界のあらゆる物質が「1時間前」の状態に戻り、私の脳のニューロンの状態も1時間前に戻り、その1時間の「記憶」も「老化」もなくなった状態に戻ります。
そのとき私は「時間が1時間戻った」と分かるでしょうか? 分かるわけありませんよね。

ですから、実際には「時間」というのは必ずしも過去から未来にだけ流れる必要はないのですが、私たちは、「時間が前に進んだ」ことだけしか知覚できません。だから、我々にとって時間は「常に前に進む」のです。

この辺り、どうしてもうまく説明できませんが、詳しくは本書を参照してください。SFや科学啓蒙書が好きな方にはきっと面白いと思います。

本書ももちろん、自閉症児療育に直接関係する本ではありません。

でも、「私たちの時間に対する認識は、絶対的な世界の真理ではない」ということは、療育にあたってぜひとも頭に留めておくべき事実だと思います。

我々は、療育にあたって、ややもすると「我々の時間認識」を常識として自閉症児に教え込もうとします。でも、私たちの時間に対する認識は、私たちの(障害のない)認知の枠組みの中でもっとも効率的に働くものになっているのです。
そしてそれは、恐らく私たちの「空間への認知の枠組み」と密接に関連しています。

私は、「知覚の恒常性障害仮説」の中で、自閉症児は空間の認知の枠組みに深刻な障害を持っている可能性があることを指摘しました。
もしそれが正しいなら、空間認知に障害をもつ自閉症児への「時間認知」の療育は、私たちのやり方をそのまま教え込むことではなく、自閉症児の空間認知の枠組みと障害を考慮した、独自のものを志向する必要があると思います。

それがどのようなものであるかは、私にはまだはっきりと分かってはいませんが、TEACCHで多用されている時間の視覚化・構造化(スケジュール図、横一列のカレンダー、残り時間の分かる時計など)は1つの有力なやり方だと思います。

いずれにせよ、時間というものへの「常識」を捨て去って頭を柔らかくし、療育へのヒントを探すにあたって、本書や、関連する「99.9%は仮説」などを読むことは、いくばくかの役に立つのではないでしょうか。

※さらに補足。
 今回の出張では、時間論についての本をもう1冊読みました。内容的にはこちらの方が詳しいものになっており、本書の「次に読む本」としておすすめです。

 

時間の本質をさぐる―宇宙論的展開
著:松田 卓也、二間瀬 敏史
講談社現代新書

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 09:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
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