DVDでわかる!犬のしつけ&トレーニング
著:水越 美奈
西東社
「愛犬を賢く育てる『魔法のクリッカー』」に続く、ペットとしての飼い犬のトレーニングをABA(行動療法)に基づいて行なう「しつけ本」です。今回も、ABAつながりで、犬へのABAテクニックを自閉症児にも応用できるのではないか、と思って購入しました。
本書の目玉は、いうまでもなくDVD(90分)がついていることです。
自閉症児の行動療法のDVDが近い将来に購入しやすい値段で登場する、ということはちょっと考えにくい状況だと思いますので、本書は、行動療法の実際を映像で見られる、非常に貴重な参考書だと言えるのではないかと思います。
なお、私は自閉症児のABA療育の参考書として、大まじめにこれらの「犬しつけ本」を取り上げています。
前にも書きましたが、「人間の子どもを犬みたいに扱うのか」とネガティブに感じる方がいることはお察しします。が、ABAはそもそも動物実験から発展してきた学問です。「犬のしつけ」という非常に研究された分野のABAの知見は、間違いなく自閉症児にも参考になると思っています。
どうしてもこの部分が納得できないと感じる方は、もしかするとABAに取り組んだ場合、結局は同じような「納得できなさ」をABAそのものに感じることになるかもしれません。
・・・さて、本の解説に戻ります。
本書は、クリッカーのような特殊な道具は使わず、えさを使って普通にABAを実践していくスタイルをとっています。
DVDを再生してみると、次のようなメニューが出てきます。
PART1 ほめ方・ごほうびの与え方
PART2 毎日の生活に必要なしつけ
PART3 さまざまなシーンに役立つトレーニング
PART4 散歩のしつけ
この中でも、自閉症の療育という観点から特に参考になるのは、ごほうび(強化子)について解説している「PART1」でしょう。PART1の中身はこうなっています。
PART1 ほめ方・ごほうびの与え方
1. 言葉でほめてからごほうびを与える
2. ほめるタイミングを逃さない
3. 状況に合わせてほめ方を変える
4. ごほうびを使い分ける
5. たまにはとびっきりのごほうびをあげる
6. ごほうびを出す場所を変える
7. 状況に合わせたごほうびの与え方
8. 覚えてきたらごほうびをランダムに
9. まとめ
実際に見てみると、これはまさにヒトの自閉症児(特にことばが出ていない場合)に早期集中介入をするときと、ほとんど同じことをやっていることが分かります。
例えば、1.はオペラント条件付けとレスポンデント条件付けをうまく組み合わせて、ほめ言葉を「社会的強化子」にしていくための工夫として、自閉症児の療育でも絶対に取り入れていくべき方法ですし、2.は即時強化の重要性を強調しています。8.では定率部分強化スケジュールという、かなり難しい概念を分かりやすく解説しています。
また、「ごほうびは犬が喜ぶものでなければならず、犬が喜ばないものは(こちらが何と思おうと)ごほうびとしては使えない」という話が何度も出てきますが、これも「強化子」の定義を正確に説明していると言えます。
PART2以降はどちらかというと犬のしつけに特化した訓練が多くなってきますが、それでも、トイレトレーニングの進め方や、アイコンタクト(名前を呼んだら目を合わせる)なども実はやっていることは犬も自閉症児もほとんど同じです。アイコンタクトで出てくる、「犬にとって嬉しいことをするときは名前を呼んで、嫌なことをするときは名前を呼ばない」というのはほんとに重要ですね。私たちも、つい逆ばかりやってしまいがちですから。
全体を通じて、いいことをした後、いかに間髪を入れずに瞬時にごほうびを与えているかに驚くのではないかと思います。
これこそが、ことばの通じない相手に対して、ごほうびの効果を最大限に引き出す一番の秘訣なんだと思います。
そういう、「プロの技」を実際に見ることができるという意味で、トレーナーの細かい動きまで含めて、家庭で我流でABAに取り組んでいる方は、犬の本だからと否定的にならずに、一度ご覧になることをおすすめします。
私自身も、ABAの「プロのやり方」について、自分なりに理解していたことを確認できた点、逆に思っていたのと違う点(とにかく、ほんとに即時にことばやマッサージで強化するのはすごいと思いました)がそれぞれあって、勉強になりました。
いわゆる「DVDつき本」で、90分もの長尺のDVDとして考えた値段は激安だと思いますので、一度だまされたと思ってご覧になってはいかがでしょうか。
p.s.どうでもいいですけど、このDVDに出てくる女性のトレーナー、頭に寝ぐせが付いているようにしか見えないんですが・・・。こういう髪型なんでしょうか?
※その他のブックレビューはこちら。
ようはあれやこれや難しく考えないでシンプルに接して御覧なさいということなのでは?
問題行動があんまり多すぎるとそれだけで辟易してしまいまして
なかなかこどもとうまく距離がとれず、当然ほめるなんてこともできなくなります。
このDVD思いがけない「つぼ」かも…
そう言ってもらえると嬉しいですね。
このDVDは、もちろん「自閉症児の療育」をやってるわけではないのですが、ABAの最も根っこにある「強化子を与えて行動を形成する」という部分に関して、とても洗練されたプロの技を見ることができた、と感じました。
私たち日本人が普通に感じる「ほめる」という行動よりも、ずっとスピーディでシステム化されているのが私にはとても印象的でした。
うちんのも大変でした…(しみじみ)
でも、ふと思ったのですが、こちらでは「模倣」がないですよね。プロンプトで伏せなどの体勢をとらせ、それに慣れたら言葉や手の動きの弁別刺激を入れているんです。ヒトへのABAアプローチは音声指示にせよ物の名前にせよ、その前に動作模倣をしたり指導者も同じ物をひととおり揃えて触って子供に模倣させたりするのですごく驚きました。カレン・プライアの「うまくやるための強化の原理」に「犬は模倣が苦手」とありましたが、だからでしょうか?かといって模倣が得意だとしても犬のトレーナーが伏せを教えるために自分も地べたに這いつくばるわけにはいかないですよね。。。
タイピングが得意なのでついダラダラ書いてしまいましたが質問はズバリ、「とりあえずヒトの場合は模倣って大事なんですよね???」です。古いレビューなのでこのコメントを見ていただけるかわかりませんが書き込みしました。
コメントありがとうございます。
この記事は確かにけっこう前のものですので、DVDのなかに模倣があるかないかは思い出せませんが、恐らく「犬のしつけ」では「模倣」は含まれないと思います。
模倣がうまくできるのは、霊長類でもかなり人間に近いチンパンジーなどに限られたはずじゃないか、と記憶しています。
ですので、犬に模倣をやらせるというのは犬の能力的に難しいんだろうと思います。
もちろん、ヒトについていえば、模倣はABAで教えるべき重要なスキルの1つだと思います。
ただ、我が家の場合もそうでしたが、模倣はそれなりに難易度が高いですので、じっくりと取り組んでいけばいいかと思います。