2006年07月01日

知覚の恒常性障害仮説:まとめページ

「知覚の恒常性障害仮説」とは、私が考察した、自閉症の原因と障害の本態に関する仮説です。

かなり力をいれて作った仮説で、内容的にもさまざまな知見に幅広く触れたものになっていますが、それだけに記事がかなり広く分散していますので、まとめページを作ってみました。
なお、関連記事が増えるたびにこのページは更新される予定です。

知覚の恒常性障害仮説チャート

この仮説は、「自閉症の本態とは、知覚の恒常性が何らかの原因で(感覚異常もしくは知覚システム自体の異常)確立しないことによって、人やモノに対する認識の枠組み自体が正しく発達しないことにある」という考え方です。

この仮説の詳細については、以下のシリーズ記事で読むことができます。

知覚の恒常性障害という仮説(1)
 この仮説の名称にもなっている「知覚の恒常性」とは何かについて、説明しています。

知覚の恒常性障害という仮説(2)
 私たちの心の発達プロセスを考えたとき、「心の理論」の前発達段階として、「素朴物理学」の獲得を想定することができます。

知覚の恒常性障害という仮説(3)
 「心の理論」と「素朴物理学」との関係を考えながら、なぜヒトは誰もが「心の理論」のような推論方法を獲得できるのかを考えます。

知覚の恒常性障害という仮説(4)
 「素朴物理学」が成り立つ前提として、「知覚の恒常性」の獲得が必要だと考えられる理由について解説しています。

知覚の恒常性障害という仮説(5)
 「自閉っ子、こういう風にできてます!」で語られる不思議な内容を、知覚の恒常性障害との関連で説明します。

知覚の恒常性障害という仮説(6)
 この仮説の説明力を検証するために、さまざまな自閉症の症状をすべてこの仮説で説明しようとすればどうなるかについて考えます。

知覚の恒常性障害という仮説(7)
 自閉症の障害の本質は、もしかすると世界観の歪み、言い換えれば「『私』の天動説」にあるのではないでしょうか。

知覚の恒常性障害という仮説(8)
 知覚の恒常性障害仮説に基づく発達障害系統チャートを提示し、他の発達障害との関係についても考察します。

知覚の恒常性障害という仮説(9)
 系統チャートから自閉症とアスペルガー症候群の発症機制を考察した「まとめ」です。


また、この仮説に関連する記事として、次のようなものがあります。

「哲学の謎」ブックレビュー
 この仮説に気づき、深めていくためには、私自身の中に哲学的思考回路が必要でした。それに関連するレビュー。

「マトリックス」DVDレビュー
 自分の世界観を相対化するための思考回路を目覚めさせるのに、この映画が最適です。

何を療育するのか?
 この仮説の上に立ち、ソーシャルストーリー、TEACCH、PECS、太田ステージ、感覚統合などのさまざまな自閉症療育法が、どのようなタイミングで、どのような自閉症児に最も役に立つのかを考察。自閉症療育法を大統合する挑戦的な試みの第一歩のつもり。

汎化と分化と側抑制
 この仮説からさらに踏み込んで、知覚の恒常性障害を起こす脳の根本的な障害が、脳の側抑制機構の異常にあるのではないかという考察。半分オカルト(科学ロマン)ではありますが、私自身は可能性はゼロではないと感じています。

空間と時間と・・・
 知覚の恒常性に障害があり、空間知覚に異常があるとすれば、時間の知覚についても同様に問題が生じる可能性があると考えられます。

気になるニュース(ディーゼル粒子とプルキンエ細胞と自閉症)
 脳科学からのアプローチで、小脳のプルキンエ細胞の異常によって、この仮説で考えているような知覚や分化・汎化障害が起こる可能性が出てきました。

他の発達障害との関係
 この仮説に立ったとき、自閉症と、それ以外の他の発達障害との関係はどうなるのかについて考察しました。

なお、最近ではこの仮説を出発点に、さらに広い見地に立った新しい仮説づくりにチャレンジ中です。新しい仮説では、「知覚の恒常性の障害」を「環境を適切に知覚する能力の障害」とより広い概念でとらえ、その障害によって環境との相互作用が阻害される、といった方向で考えていく予定です。
posted by そらパパ at 08:50| Comment(4) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
極めて感動的な仮説です。先生の仮説を真に理解するには年老いたわたしに時間がひつようなので、じっくりと咀嚼させていただいたのちにコメントさせていただきます。
 わたし周辺の研究者では名古屋大学に斉藤と言う先生がおられ、京都仏教大学に宮下照子という自閉症児の認知機制について学位論文をかいた女性がいます。最近では国立育成センターの臨床心理士の小嶋なみこというのが本学の収支論文で自閉障子の認知機制の報告をしています。
又、時間がありましたら、色々お教え願いたいとおもいます。知覚心理学と学習心理学の2分化がそれぞれの学問の発祥の時点からつづいていますが、今後は両者の統合こそが不可欠だとおもっています。
老化防止のためにもお父さんのブログを日々楽しみにみさせていただいています。
Posted by don at 2006年09月25日 12:22
donさん、

思わず赤面するような言葉が並んでいて、恐縮の限りです。
私は仮説を実験で検証したりすることもできない素人ですので、プロの先生方のされている自閉症研究と比べれば児戯に過ぎないと思っています。
そんな素人の仮説を読んでいただいて、コメントまでいただけるとは本当に光栄です。

ちなみに、ここで書かせていただいた「知覚の恒常性の障害」という仮説を出発点にして、現在書いている最中の「環境知覚障害」という仮説に発展させています。
また、先日の「認知過程のシミュレーション入門」という本で紹介されていた、コネクショニスト・モデルから見た自閉症の機制に関する仮説を取り込んで、この仮説をさらに発展させる予定でいます。

そこまでいけば、多少は「見られる」仮説になっていくかな?と個人的には少し期待しています。
Posted by そらパパ at 2006年09月25日 22:42
自閉症研究はやはり海外が最先端ですので、可能であれば英語でGoogleを検索されることをお勧めします。例えば知覚関係の研究でしたら、ケンブリッジ大学のhttp://www.psychol.cam.ac.uk/lara/index.htmlをご覧ください。他にもジャーナルをSubscribeしなくてもウェブ上に掲載されているものがたくさんあります。概論のペーパーとしては、http://www.homepages.ucl.ac.uk/~smgxscd/Papers/2005%20Autism.pdfが参考になるかもしれません。
Posted by ふぃふぃ at 2007年08月15日 11:55
ふぃふぃさん、はじめまして。

情報ありがとうございます。

知覚研究は奥が深そうですね。
今は個人的には、知覚についてはギブソン理論に傾倒しています。自閉症についての仮説も、この仮説からさらに進めて「一般化障害仮説」というものを立てました。

もしよろしければ、そちらもご覧下さい。

http://soramame-shiki.seesaa.net/article/24739116.html
Posted by そらパパ at 2007年08月15日 23:22
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