あなたが育てる自閉症のことば 2歳からはじめる自閉症児の言語訓練―子どもの世界マップから生まれる伝え方の工夫
著:藤原 加奈江
診断と治療社
長いタイトルだ(笑)。
まあくんママのブログで紹介されていたのを見て、そちらからAmazonで買わせていただいた本。
よくよく考えてみると、自閉症児の言語訓練を真正面から扱った本は、けっこう珍しいですね。
「自閉症を克服する」には結構多めのボリュームでことばを教える章が設けてあるけれども、いきなりごほうびで音声言語をしゃべらせようというかなりムチャな方法(我が家では失敗しました)が取られています。
後は専門書に片足突っ込んでしまいますが、「応用行動分析学入門」くらいでしょうか。
自閉症児はたいていことばの問題を抱えているのに、それを療育するガイドブックが少ないのは、それが非常に複雑な問題をはらんでいて、一般論として書くことが難しいからだと思います。
それに対して本書は、イラストを多用し、親しみやすい文体でありながら、自閉症児のことばの療育がなぜ難しいのか、その背景にまで踏み込んで非常に深いところから自閉症児のことばの問題を解きほぐそうとする、一般書とは思えない意欲的な本になっています。甘く見るとヤケドするくらい?熱い本です。
本書は、「言語訓練」と銘打っていながら、実は音声言語の獲得そのものについての訓練はほぼまったくといって含まれていません。
ですから、本のタイトルを見て、ことばの出ない我が子にことば(音声言語)を教えようと思って本書を買ってきた親御さんは、もしかすると「だまされた」と思うかもしれません。でも、そうではないのです。
それは、あとがきに書かれている著者のことばで分かります。
自閉症のコミュニケーション障害は、言語の問題だけではないので、生活全体を視野に入れたアプローチが必要になります。(中略)言語聴覚士として、また臨床心理士として、お母さん達の「どうして、ことばが出ないんでしょうか」という問いに、答えようと試みたのが本書です。
自閉症児は、「ことばが出ていない」のではありません。「コミュニケーションができていない」のです。その具体的な結果の1つとして、ことばが出ないという症状が現れているのです。
だから、自閉症児のことばの訓練とは、必然的にコミュニケーション全体への働きかけのことを指すことになります。ここでいう「ことば」とは、コミュニケーションの道具という意味であって、必ずしも音声言語を意味しません。
ですから、既に音声言語を獲得している場合は、それを適切なコミュニケーションに使わせるための工夫が、そして音声言語の獲得に失敗している場合は、何よりも「コミュニケーション」の意味に気づかせるために、カードやシンボルなどを活用したコミュニケーション訓練が必要です。
「音声言語のない子どもに、無理に音声言語を教えようとする」のは、コミュニケーションを教えるという観点からはズレた考え方なのです。
そして、もっと大切なこと。
コミュニケーションというのは、双方向的なものです。自閉症児と親御さんとのコミュニケーションが失敗しているというのは、子どもからのメッセージが親に届かないということと同時に、親のメッセージが子どもに届かないということでもあるのです。
この点においては、親の側が訓練して、自閉症という障害を持つ子どもにメッセージが届きやすくする、つまり親もコミュニケーション訓練をする必要があるのです。
これはよく考えると当たり前なのですが、親御さんに向けた本で、このポイントをここまで明確に掘り下げた本はちょっと珍しい気がします。
本書の第2章は、ことばがどのように発達して、自閉症児がどの部分でつまづいているのか、「ことばの発達」について、本全体の約40%ものボリュームを使って説明されています。
なぜ「訓練」の本なのに長々と解説のような内容が書いてあるのかといえば、この部分を親御さんが読むことで、自閉症児に対してよりよいコミュニケーションが取れるように勉強してもらうためなのです。
次の第3章「見立て」でも、親が子どもの特性、強み・弱みを整理するために、「子どもの世界マップ」という分析表を作ることを求めています。これも、親が子どもの状態を客観的に理解することで、親の側のレベルアップを求めていると考えることができます。
考えてみると、自閉症児とはいえ、子どもは元来「発達していく」存在です。
ですから、親からの働きかけは、その発達していく力をサポートすることが目的なのであって、強制的に「引き上げる」ようなことは、やろうと思ってもできないことなのではないかと思います。
それに対して、親はもう大人、放っておけば「発達」なんて当然しない一方で、勉強して理解して実践するという分別の力を持っています。
とすれば、あらゆる親による療育は、親が勉強して、親が自らを訓練して、親が働きかけて、そして子どもが障害の弱みを乗り越えて「自然に発達していく」環境作りを最大限にサポートできる存在になることだ、と言えるかもしれません。
特に、「ことば」なんていう、ある意味ヒトの叡智の頂点ともいえるスキルについては、そうだと言えるのではないでしょうか。
この本は、そういう本質を突いている点が本当にすごい。イラストや4コマまんがが一杯で、たった85ページしかない本で、ちょっと見ると内容が薄いように見えますが、もしかすると「家庭のことばの療育本」としては最強かもしれない。
書いてある内容も、臨床的な本としては相当に新しい知見まで盛り込まれていて、十分信頼できるものだと言えます。
誰にでも易しく読めて内容はとても深い。この本は必読書でしょう。
→殿堂入りさせました!
※その他のブックレビューはこちら。
今この本は貸し出し中でございます。
>自閉症児は、「ことばが出ていない」のではありません。「コミュニケーションができていない」のです。その具体的な結果の1つとして、ことばが出ないという症状が現れているのです。
「これだ~」と思いながら読んじゃいました。
つい先日 しゃべるしゃべらないという話になったときに「まあくんはしゃべらなくてもいいからたっくさんの伝える方法を身に付けてほしい(ものすご~い極論的に・・)」と言ったところ「どうして~しゃべるほうがいいに決まってる」と言われ、この後どう私の心の中を伝えればいいのかわからなかったんです・・・
そして
>あらゆる親による療育は、親が勉強して、親が自らを訓練して、親が働きかけて、そして子どもが障害の弱みを乗り越えて「自然に発達していく」環境作りを最大限にサポートできる存在になることだ、と言えるかもしれません。
フムフムフム・・・さすがそらパパです。
ちょっとメモして診断を受けたばかりのお母さんに私の言葉のように言おうっと(>_<)
でもマジメモします・・・・・
別にそんな新しいことを書いているつもりはないですので、普通に使っていただいていいですよ。
この本は、買ってすぐに読んだのですが、レビューがなかなかできずにいました。
基礎的なことがうまくまとめてある、というタイプの本ですので、私にとっては、書いてあることからの「発見」は必ずしも多くはなかったのですが、構成が実に素晴らしいと思います。
私が何十冊も本を読んでゆっくりと気が付いたことに、初めてこの本を読んだ方はすぐに気づけると思います。それがすごい、と思うわけです。
何冊かしか読んでませんが
なるほど、うちの子にあわせて読むとこうなんだ
など
親に気づかせてくれる1冊でした
殿堂入りするぐらいすごい本だったんですね
この本は味わいがありますね。難しいことを易しく、しかも正しい内容を失わずに説明することはとても難しいことだと思いますが、それができている稀な本だと思います。
ABAで必死に音声模倣をやらせるよりも、本書を読んで、子どものペースで楽しく「コミュニケーション」を教えるほうが、結果的にはより大きな実りを結ぶ可能性すらあると思います。
もし周囲で興味をお持ちの方がいたら、自信を持ってすすめていいと思いますよ。(^^)