(2)アイデア2:こちらからの指示を教える
非常におおざっぱに言えば、今回のシリーズ記事の前半の「要求のコミュニケーション」は子どもからの意思表示、後半の「スケジュール表」は親(養育者)の側からの意思表示のために絵カードを活用しているということができます。
この2種類の絵カード療育以外のさらなる応用の方向性の1つとして、親から子どもへのよりさまざまな指示、メッセージを伝えるのに絵カードを使う、ということが考えられます。
・・・が、これには注意が必要です。
私たちは、「こちらからの指示に絵カードを使う」となると、つい、「ダメカード」とか「待ってカード・あとでカード」、「おしまいカード」「静かに!カード」のような、子どもの行動を制限する・禁止することを目的としたカードをせっせと作ってしまいたくなりますが、これは非常に危険な側面をもっています。
絵カード療育を通じて私たちが願うことは、「絵カード」という、自閉症児の特性にあった特別な道具を提供することによって、子どもに「ことばを自由に使いこなす」ことをマスターし、コミュニケーションの楽しさ・重要性に気づいてほしい、ということです。
そのためには、絵カードそのもの、そして絵カードを使うことを子どもに好きになってもらう必要があります。
「好きになる」というのはどういうことでしょうか?
それは、「それを使うと、いいことがある(ごほうびがある)」という経験をすることに他なりません。絵カードを使うといいことがある、という経験を繰り返したときに、子どもは初めて絵カードを好きになり、絵カードを使うことを好きになるのです。
それでは逆に、絵カードを通じて嫌なことばかり経験したらどうなるでしょうか? 当然ですが、絵カードを嫌いになる(使わなくなる、避けるようになる)でしょう。
ですから、私たちは絵カードを「子どもにとって嫌なことを経験させるときに使う」ことを、極力避けなければならないのです。
「ダメカード」というのは、そういう意味では最悪のカードだと言っていいでしょう。子どもにとって、何も楽しいことがないカードになるわけですから。
絵カードを、こちらからの(スケジュール以外の)指示のために応用していくときには、次のような順序で「拡張」していくことを心がけなければなりません。
a.ステップ1:子どもの選択や決定の幅を広げるような指示
このような応用の代表例といえるのが「どっち?カード」や「メニューカード」といったもので、たとえばおやつの時間や遊びの時間に、その時点で選択することができる選択肢を並べて提示して「選んでください」という形で絵カードを活用するやり方です。これは子どもにとって、「楽しいこと」を提供する=「絵カードを好きになる方向」になりますから、積極的に導入できる応用方法だと言うことができます。
食事のメニューについても、写真を指差すことを教えるよりも、実際に欲しいものを「はがせる」絵カード方式のほうが、既に書いた「要求のコミュニケーション」のステップ3との類似性もあり、習得が早いお子さんも多いと思います。


↑どっち?カードの例
b.ステップ2:子どもがその指示を守ると「ごほうび」がもらえるような指示
これはやや難易度が高くなりますが、代表的なものは「まってカード」になるでしょう。
「まってカード」というのは、子どもの要求を一時的に保留してがまんしてもらうカードですが、一定時間「待つ」ことができれば、そのあとはちゃんと要求がかなえられるという「いいこと」があります。「嫌な経験」で終わらない、という意味で、使ってもいい絵カードだということになります。
ここでご紹介する「まってカード」の例は、通常の要求用の絵カードが貼り付けられるような、少し大きめのカードです。(掲示板をカード化したようなものです)
子どもが絵カードを持ってきて、あるものを欲しがったときに、その絵カードを「まってカード」に貼りつけて、子どもに返します。子どもがその「まってカード」を受け取って、一定時間待つことができれば、「まってカード」を回収し、代わりにその要求をかなえます。

↑まってカードの例。「まって」の部分を、イラストで教えるような工夫も考えられます。
この「まってカード」のアイデアをさらに広げると「ごほうびカード」という使い方にたどりつきます。「ごほうびカード」については、次回の記事で書きたいと思います。
(次回に続きます。)