虹の架け橋―自閉症・アスペルガー症候群の心の世界を理解するために
著:ピーター サットマリ
星和書店
いろいろな自閉症の人の体験世界について書いてある本を読んでみたい、と思いました。
もちろん、「自閉症だったわたしへ
読んでみてちょっと驚いたのは、この本はひたすら12人の臨床例を追いかけた本ではなくて、臨床例を「とっかかり」にして、自閉症・アスペルガー症候群に関する基本的情報を分かりやすく解説した、一般向け自閉症入門書だった、ということです。
少し期待とは違ったのですが、でも、その内容はとてもユニークで、さまざまな臨床例に思わず引き込まれます。
例えば、本書の第8章には、三つ子が全員自閉症、という例が出てきます。
そして同じ章には、ワクチン接種による(水銀)中毒やペプチドの代謝障害に我が子の自閉症の原因を求め、原因究明に走り回るばかりで具体的な療育がまったく始められない親の例も出てきます。
この章では、科学が自閉症の原因について語れることは現在残念ながらごくわずかであり、療育は、原因不明のまま、ある意味「手さぐりで」始めなければならないという現状について率直に語られています。
そして、親の性(さが)として、どうしても原因が知りたい、煮え切らない医者は当てにならない、ネットで大々的に宣伝されているあの治療法はどうだろう、そういった思考回路で安易に民間療法にすがってしまう傾向があることを指摘し、注意を促しています。
また、本書は「すべては私たちの見方次第なんですね」という、ある親の一言から始まっています。
同じまえがきには、著者の本書におけるスタンスも明確に示されています。
科学を伴う想像力をお届けすること、それが本書の目標です。しかも自閉症においては、おそらくその他の病気や障害にもまして、それが決定的に重要ではないかと思います。
この著者の主張に、100%同感です。
自閉症児者を理解しようとするとき、彼ら(彼女ら)の特徴的な行動を「これは常同行動」「これは社会性の障害」「これは興味の限定」などと、われわれの尺度で語るだけでは、実は何も理解していないのと同じです。
なぜなら、それはその行動が「普通」と比べてどう「異常」かは語っているかもしれませんが、まさに目の前にいる自閉症児者が、「なぜ」そのような行動を取り、その行動が「どう」機能しているのかをまったく語っていないからです。
それは、例えば100円玉を見て、「銅とニッケルでできた直径2.3センチの円盤である」と言っているのと同じで、ある側面からの事実を語っているかもしれませんが、「お金として使う」という、真に重要で理解すべき部分がごっそり抜け落ちているということです。
ただし、一方で、上記の第8章の紹介文でも書いたとおり、現時点では科学は自閉症の原因を究明できていませんし、自閉症児が体験している世界を真に描写できるようにはなっていません。
そこで登場するのが、「科学を伴った想像力」というわけです。
当てずっぽうもいけないけれども、現在のアメリカの自閉症診断基準であるDSM-IVが陥ってしまったような、自閉症を単なる目に見える行動障害だけで語ろうとするのはもっといけない。
これまでに分かっている自閉症に関する科学的知見にしっかり足をつけた想像力でもって、自閉症の心の世界に分け入っていく。
自閉症児の親にとって、ほんとうに最初に取り組まなければならないことは何なのかを突き詰めていったとき、「子どもの生きている世界を理解する」ことがその筆頭に上がってくることは間違いないのではないでしょうか。
そして、それがわずかでもうまくいけば、自閉症の子どもとの「心の交流」は大きく前進し、普段の療育も生活もずっと心理的負担の軽いものになるでしょう。
本書は、そんな、ちょっと他の本とは違った、でもよく考えてみると非常に理にかなったアプローチで、自閉症について知ることができる入門書です。
以前、自閉症入門書として最初に読むことをおすすめする本として「自閉症児の保育・子育て入門」をご紹介しましたが、本書は、その次に読むべき本として強くおすすめできると思います。
なお、訳者は、現在PECSテキストの翻訳に取り組むなど、TEACCH的アプローチの療育に関して精力的に情報発信されている門先生です。
※その他のブックレビューはこちら。
まだ読んでない本も持っているんですが、
購入しちゃいました(^^ゞ
もちろん こちらから♪
そらパパの読みたくなる解説?ものすご~く楽しみにしてます(^^)
これはかなり面白い本だと思いますよ。読みやすい本ですが、字がぎっちりと詰まっているので、思いのほかボリュームはあります。
星和書店の本は、どれも装丁が独特?(ちょっと同人誌っぽい)ですが、中身はしっかりしていると思います。