2006年04月27日

汎化と分化と側抑制

今回は、「知覚の恒常性障害仮説」からさらに踏み込んで、自閉症を引き起こす脳の根源的な障害とは何だろうか?ということに、想像力をふくらませてみます。

自閉症の障害を別の角度から見ると、汎化と分化の障害であると考えることもできそうです。

ここでの汎化と分化とは、以下のような意味です。

汎化=本質的でない違いを無視して「同じもの」として扱えること
分化=似ているものであっても、本質的な違いを無視せずに「違うもの」と扱えること


この「分化と汎化の障害」という視点からも、「自閉症の三つ組の障害」を説明することは可能です。

社会性の障害
 ヒトとモノでは違う行動をとる(分化)、ヒトに対応するときの一般的な作法がある(汎化)、相手によって発言や態度を変えなければならない(分化)、同じヒトにはどこで会っても一般的には同じ行動を取るべきである(汎化)が、状況によっては違う行動を取らなければならない(分化)、といったように、社会性とは複雑な分化と汎化によって成り立っています。

ことばの障害
 ことばとは、イヌA、イヌB、イヌCを見てどれも「イヌ」と分かるような汎化能力と、ネコを見たときはイヌではなく「ネコ」だと分かるような分化能力があって初めて発達するものです。

興味の限定
 知覚されるものの中で、何が本質的で何がそうではないかという区別が我々と自閉症児でまったく異なるとすれば、興味を持つ対象とその態度が我々から見て「異常」と映るのも当然でしょう。

こんな風に説明すると、「なんだ、じゃあもう知覚の恒常性障害仮説は撤回するのか」と思われてしまうかもしれませんが、実はこの2つは、同じことを違う角度から説明しているに過ぎないのです。

知覚の恒常性を確立するためには、感覚から入力された情報を、適切に切り分けられることがまず必要です。
例えば、いま目に見えているもののうち、これはパソコンのモニタで、これはキーボード、これは机で、窓の向こうには外の景色が広がっているといったように、視覚世界を適切な単位に分けていくことが必要です。これは「分化」の働きに他なりません

しかも、「分化」だけではだめです。
例えば、モニタに日が当たっていて、モニタの左半分だけ明るくて右半分が影になっていたとしても、その影の境目でモニタが割れているように見えてはいけません。これらの知覚には、本質的でない違いを無視して同じものを同じものと知覚できる能力、すなわち「汎化」の働きが求められるのです。

つまり、知覚の恒常性とは、外界の刺激に対して適切な汎化と分化の知覚ができることによって成り立っていると言っていいでしょう。言い換えれば、「知覚の恒常性」と「知覚における汎化・分化能力」は極めて密接に関係しているのです。

では、「知覚における汎化・分化」とは、要はどういうことでしょうか?
それは、広い意味でのパターン認識、つまり、さまざまな刺激の組み合わせ・パターンに対して、ある程度以上似ているものは「同じもの」として、そうでないものは「違うもの」と知覚して、同じものを1つのまとまりとして、違うものは別のまとまりとして知覚できるような仕組みを指すものと考えられます。

そして、脳細胞のネットワークで、このようなパターン認識を実現するための重要な機能の1つが、脳細胞(ニューロン)の持つ側抑制という機能だと考えられています。

側抑制というのは、ニューロンがプラスの刺激を受けたときに、自分自身は興奮して信号を増幅する一方で、自分の周囲のニューロンには抑制信号(マイナスの刺激)を発信する仕組みのことで、一言でいえば「輪郭を際だたせる」方法です。

(すみません、側抑制はそんなに難しい概念ではないのですが、ことばで説明するのはかなり面倒なため、上の説明でお許しください。フォトレタッチソフトを使ったことのある方は、写真を「シャープにする」という機能をご存知だと思いますが、あれは側抑制を応用しています。ちなみに、私の大学時代の卒論は、この側抑制に関連するものでした。)

ここで、私のものすごく大胆な仮説を書いてしまうと、自閉症ってもしかすると、このニューロンの側抑制システムの機能不全が原因なのではないだろうか? ということです。
もちろん、この辺りまでくると、想像力による部分がとても大きくて、ある意味オカルト(当たりのいい言葉でいえば、科学ロマン)だということは分かっていますが、あと少しだけお付き合いください。

側抑制が適切に働かなければ、あらゆる「パターンを認識する」「分化・汎化を行なう」能力が阻害されます。その結果として、知覚の恒常性も確立せず、汎化・分化スキルも発揮されないことによって自閉症の症状が発現する、というストーリーが考えられます。

もう1つ、側抑制には、「ニューロン全体の興奮量を調整する」という機能もあると考えられます。
信号が入ってきたニューロンの興奮量と周囲のニューロンへの抑制量が同じであれば、ニューロン全体の興奮量は一定に保たれます。
ところが、このバランスが崩れると、マイクのハウリングのように、ニューロンの興奮が興奮を呼び、興奮過剰な状態に陥りやすくなります。さらにその傾向が強まると、ニューロンの異常興奮、つまりてんかんが起こる可能性があります。
これは、自閉症児に感覚過敏やてんかんの発症が極めて多いという知見と合致します


・・・繰り返しになりますが、あくまでも仮説です。私自身も、可能性としてはあるだろうけど証明は難しいだろうし、間違ってる確率も高いだろうな、と感じている程度の仮説です。
素人の戯言として読んでいただければ幸いです。

・・・と書いていたら、びっくりするほど近いことを考えているらしい先生がいることを発見。


自閉症に働きかける心理学〈1〉理論編
著:深谷 澄男
北樹出版

まだぱらぱらと見ただけですが・・・側抑制の異常の話も出ているようです。
厚い本ですので、読めたらレビューしたいと思います。


posted by そらパパ at 22:34| Comment(2) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ん~~~っ深いですねぇ~「ニューロンの側抑制システムの機能不全」って話、噛み砕いてよ~~~く考えて、なんとか少し解った(とまでは行かないけど、雰囲気だけはつかめたって感じ)気がします!私が今まで、考えもしなかったような側面(認知心理学)から、自閉症のことが書かれていて、ホントに読んでいて面白いです!(頭悪いから、ほんとの理解までは出来ませんが・・・)追求するのが大好きな性格なので、ハマッてます!
Posted by いっくんママ at 2006年06月23日 12:46
いっくんママさんこんにちは。

私は、自閉症児の発達スキルの問題は、おそらく、脳細胞のネットワークの学習アルゴリズムに不調があることで説明できるんじゃないか、という漠然とした思いを持っています。

それをはっきりと書くことができないのがもどかしいのですが、自閉症児は、あたりまえのことを、あたりまえに学習するのが難しい脳を持っているんじゃないか、と思っているわけです。
Posted by そらパパ at 2006年06月23日 23:18
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