2006年05月01日

空間と時間と・・・

「知覚の恒常性障害仮説」から導かれる1つの推測は、私たちに見えているような「世界の広がり」は、自閉症児には見えていないかもしれない、ということです。

「世界の安定した広がり」を感じるためには、頭や体を動かして視界が変化しても、その中に見えているものが「動いていない」と知覚できることが必要でしょう。それが、「知覚の恒常性」です。

ですから、知覚の恒常性に先天的な異常があったとすると、生まれたときからずっと、そもそもの世界の「見え」が安定した世界の広がりを感じさせないものであり続ける、ということになります。それがその人にとっての「当たり前の世界」になるわけです。

そのような知覚の中で「見える」世界は、私たちが見ている世界とまったく違うものになるでしょう。
もちろん、どのような環境にあっても、脳はその環境に最大限に適応します。ですから、その「見え」は、まったく生活できないといったようなものではなく、それなりに適応的なものになると思います。
ただし、その「世界」は、私たちのように、目に見えないはるか先まで広がっている永続的に安定したものではなく、身の回りのごく限られた範囲を、目まぐるしい変化に翻弄されながら、辛うじて把握していくようなものではないかと推測されます。

このような知覚世界を想像するだけで、自閉症児の特徴的な行動の多くが説明できるでしょう。それが、私がこの「知覚の恒常性」に自閉症の謎を解く大きなカギがあるのではないかと期待している理由です。

さて、自閉症児の「空間世界」を考えたとき、次に進みたくなるのは、自閉症児の「時間世界」についてです。
少し考えると思い当たるとおり、「時間の知覚」は「空間の知覚」と密接に関わっている可能性があります

例えばアインシュタインは、私たちが「空間」と呼んでいるものは、実は「時間」というもう1つの座標を加えた「時空間」と呼ぶべきものであり、空間を超高速で移動する物体を観測した場合には時間がゆっくりと進むという相対性理論を提唱しました。

また、こんな物理学の例を持ち出さなくても、私たちは「昭和は遠くなりにけり」とか「明日が待ち遠しい」とかいったように、時間の長い・短いを、空間距離の遠い・近いと似たようなものとして体感しています。「1年前」は「昨日」よりも遠い気がするし、「今この瞬間」は過ぎ去って離れていくような気がします。

私たちは、時間というものを、空間に似た(ただし、3次元ではなく1次元の)ものとして理解し、頭の中で整理していると考えられるわけです。

だとすると、空間の知覚に異常がある人にとっては、時間の知覚もまた空間同様に、理解しにくく整理しにくいものになってしまう可能性が高いと考えられます。

だとすると、これこそが、自閉症児が見通しを持ちにくかったり、待つ・我慢することができなかったり、時計やカレンダーやスケジュール表のように想像力を使わなくても時間が「見える」ものにこだわったりする理由なのではないでしょうか

そんな風に考えて、「体感される時間」とは何か、時間と空間とはどのような関係にあるのか、そもそも「時間」って何だろう? といった疑問に答えを見つけるべく、時間論の本に手当たり次第に手を出してみたわけですが・・・



時間を哲学する―過去はどこへ行ったのか
著:中島 義道
講談社現代新書

空間の謎・時間の謎―宇宙の始まりに迫る物理学と哲学
著:内井 惣七
中公新書

時間は実在するか
著:入不二 基義
講談社現代新書

図解入門 よくわかる最新時間論の基本と仕組み―時間・空間・次元の物理学
著:竹内 薫
秀和システム

時間論
著:中島 義道
ちくま学芸文庫

時間と自己
著:木村 敏
中公新書

難しい。難しすぎます。
どうやら「時間論」というのは哲学にせよ物理学にせよ超難問に属するもののようで、上記のような「初心者向けの新書や単行本」ですら、そう簡単に読みこなせるものではありません。

というわけで、現時点では時間に関してこれ以上何も書けませんが、今の私の興味の向いている方向の1つについて書いてみました。

それにしても、心脳問題といい、ことばの発達といい、時間論といい、自閉症が抱える問題はすべて、あらゆる学問が挑戦する最難問ぞろいです。
だからこそ、この障害が研究者の(私もアマチュアとして片足突っ込んでしまいましたが)心をとらえて離さないのでしょう。


posted by そらパパ at 08:25| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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