必ずしも特定の療育法に属さない、一般的な知見を応用した絵カード療育法(仮に「そらまめ式絵カード療育」と呼んでいますが、その本質は第1回の記事で書いたように、「誰もが自由に活用できる一般的な範囲の絵カード療育についてまとめたもの」です。)の基本は、これまでのシリーズ記事でいったん終わりです。
ここからは、さらに絵カードの応用範囲や利便性を広げていくための追補的なアイデアをまとめていきたいと思います。
これらは、必ずしも導入する必要があるというものではなくて、家庭で役に立ちそうなものを選んでカスタマイズしたり、記載されたアイデアをヒントに別のやり方を見つけていったりといった形で活用いただくために紹介するものになります。
(1)アイデア1:絵カードをまとめる・携帯する
前半の要求のコミュニケーションの教えかたのなかでは、絵カードは家のあちこちに分散して存在することになります。
これは、「その場所では何を要求することができるのか」を、絵カードの存在それ自体が教えてくれるということを意味しているので、家の中を構造化するのに役立ちます。つまり、このやり方は自閉症児にとって比較的「マスターしやすい」やり方だと考えていいと思います。
ただ、その一方で、このやり方だと絵カードを利用できるのが家の中だけになりますし、何かを手に入れたいと子どもが思ったとき、その「手に入れたいと思った瞬間」にコミュニケーションを開始することができず、その「手に入れたいもの」の絵カードが貼ってある場所まで移動して絵カードを取ってこなければならないという問題があります。
つまり、家のあちこちに絵カードが分散しているというスタイルは、当初は子どもにとって最適化された(構造化された)ものになっていると考えられますが、やがて子どもの能力が向上して絵カードという「ことば」がある程度「内面化」してきて、実際にその絵カードがある場所に行かなくてもその要求をイメージできる(イメージのなかで絵カードという「ことば」によって表象できる)ようになってくると、ちょっと不便になってくる=最適化という状態から外れてくる、ということです。
つまり、絵カードという「外的言語」に習熟することで、子どものなかに「内言語」が発達してくると、「手元に絵カードがない」という状況は子どもにとって不便なものになってくるわけです。
おそらく、子どもがこの段階に入ってくると、その何割かは音声言語に移行していくようになると考えられます。
絵カードを取りに行く時間と手間は「コスト」になりますから、それと比較して、「いつでもどこでも」使うことのできる「音声言語」のメリットが(自閉症児にとって使いにくい「ことば」だというコストを上回って)大きくなってくると、子どもはみずから音声言語を使い始めるようになると考えられるのです。
もちろん、こういった展開をみせるお子さんは、それ以前の段階からおうむ返しやひとりごとのようなコミュニケーション機能を持たない発語があるなどの「レディネス」(芽ばえ反応)がある場合が多いでしょう。まったく無発語からいきなり話し始めるということは可能性としてはあまり高くないと考えられます。
ですから、絵カードの使いこなしの水準が上がってきたにも関わらず、音声言語への移行の兆候があまりみられないタイプのお子さんについては、絵カードをより機動的で機能的な「ことば」として活用できるよう、家のなかに分散している絵カードを「まとめる」ことと、「携帯する」ことを検討しましょう。
絵カードが常に手元にあり、使いたいときに瞬時に取り出して使うことができたとすれば、それは機能面で限りなく音声言語に近い、フル機能の「ことば」たりえるものになっていくはずです。
具体的には、たとえば以下の順で絵カードを整理・携帯化させていくアイデアが考えられます。
ステップ1:今まで各所に貼ってある要求の絵カードに加えて、同じものをもう1セット作り、トランジションエリアの一角にまとめて貼り付ける。
ステップ2:今まで各所に貼ってあった要求の絵カードは廃止し、トランジションエリアにまとめて貼り付けられたものだけにする。
ステップ3:絵カードをバインダー(マジックテープで各ページに絵カードを保管できるようにしたもの)に整理して、そのバインダーをトランジションエリアに吊り下げるようにする。
ステップ4:バインダーを子どもに携帯させる。
ちなみに、バインダーで携帯することを考えると、先の「作り方」でご紹介した55ミリ角の絵カードは大きすぎると思います。できればステップ1から、遅くともステップ3の段階で、絵カードを小さくして携帯性を高めることをおすすめします。(こちらの記事で、より小さな絵カードのテンプレートを公開しています。)
(次回に続きます。)