(3)ステップ2:スケジュールを教える
一度に1イベント限定で掲示するステップ1をクリアできたなら、次は複数のイベントを同時に掲示する「スケジュール表」への移行に挑戦します。
ステップ1からステップ2への移行のやり方には、大きく2つの方向性があると考えています。
一つは、ステップ1の拡張としてステップ2を導入するやり方で、もう1つはステップ1とは独立にステップ2を導入するやり方です。
それぞれの導入イメージをまとめておきます。
a.ステップ1の拡張としてステップ2を導入する
これは、ステップ1で使っていた掲示板を「より大きく、情報を豊富にしたもの」として、スケジュール表を導入するやり方です。
言い換えると、これまで使っていた「1イベント掲示板」そのものは廃止して、代わりにスケジュール表を導入することになります。
この場合、例えば1日のスケジュール(もっと慣れてくれば、1週間のスケジュールも)を、時系列にそってより大きな掲示板などに並べて掲示します。
そして子どもは、活動の切り替えのタイミングごとにそのスケジュール表のある「トランジション・エリア」に立ち寄り、「次の活動」を確認し、その絵カードをはがしてポケット(この場合、親が常についていてカードを受け取るのは現実的ではないでしょう。)に入れて、次の活動に移行するというスタイルになるわけです。
このやり方の場合、非常に緻密なスケジュールを子どもに提示することができますが、スケジュールに掲示した個々のイベントが終わるたびに、確実にトランジション・エリアに立ち寄ってカードをはがしてもらうようにするか、「大きなイベント」だけをうまくスケジュール化するなどの配慮が必要になります。
そうしないと、おやつを食べ終わってトランジション・エリアに行ったら、はがし忘れた「おやつ」のカードがまだ残っていて、もう一度おやつを要求するといったトラブルが起こりかねません。
b.ステップ1とは独立にステップ2を導入する
こちらは、ステップ1で使っていた掲示板をそのまま残しつつ、学校の「時間割」のような、新しい形態でスケジュール表を導入するやり方です。
こちらのやり方では、「スケジュール表」の絵カードについては、いちいち順番にはがしていくことを子どもには求めません。スケジュールはスケジュールとして静的に掲示されます。
その代わり、ステップ1で使用した「直後のイベント掲示板」を廃止せずに存続させ、親がその都度「イベント掲示板」に絵カードを貼り付け、子どもがはがすというステップ1のやり方を基本的に続けます。
このやり方の場合、スケジュール表の場所が「いま」なのかが分かりにくくなるという問題があります。
先に説明したやり方の場合、絵カードを順にはがしていくので、一番上の絵カードが「いま」を表しているという分かりやすさがあったのですが、こちらのやり方の場合は一番上が「いま」とはならないので、例えば枠線のようなものを作ってそれを「いま」の場所に貼り付けるとか、カラフルなマークを「いま」の絵カードの上に載せるといった形で、別途「いま」はここですよ、という情報を提供するようにします。カレンダーにイラストを書くようなスケジュールであれば、終わった日や予定の上にバッテンマークを書いていくのもいいでしょう。
この2つのやり方のどちらがいいか(あるいは、さらに別の方法がいいか)は、断言できません。子どものニーズの違いによって、どのような方法が最適かは違ってくると思います。
あえて判断の基準を示すとすれば、「トランジションエリアを使った、活動から活動の切り替え」を厳密に行なうニーズが、そのお子さんにとって高いか低いかで選択すべきものなのではないかと思います。
つまり、家庭内でも活動を切り替えのたびに激しいパニックが起こり、「活動の切り替えのコントロール」が重視される場合は、活動が終わるたびにトランジションエリアに行く(そして行動を切り替える)というa.のやり方の方が向いているでしょうし、外出時などの比較的限られた場面だけが問題になるようなケースでは、外出先の情報を1イベント掲示板を使って教えつつ、もう少し長い期間への見とおしを養うために、スケジュール表を別途掲示しておくというb.のスタイルのほうが向いていると考えられます。
この辺りになってくると、もう「これが唯一のやり方だ」といったものはありません。
たとえば、a.とb.の中間的なやり方(時間割っぽいスケジュール表を掲示しつつ、直近の2~3イベント分だけ「イベント掲示板」に張り出すなど)もありえるでしょう。
子どもの得意・不得意やそれまでの「1イベント掲示板」での反応などをヒントに、「我が家オリジナル」のスケジュール表を試作し、使ってみて、その結果からさらなる改良を加える、この繰り返しで、子どもにとって最適なオリジナルの「スケジュール表のシステム」を組み上げていくほかないと思います。
スケジュール表を導入する目的は、スケジュールを理解してもらうことそのものというよりはむしろ、子どもに時間という概念(というよりこれは「世界観」とさえ言えるかもしれませんが)を獲得してもらうことにあると考えたほうがいいかもしれません。
だからこそ、そのような複雑な概念を理解してもらうためには、子どもの認知特性にあわせたカスタマイズを行なうことが欠かせないわけです。
(次回に続きます。)