応用行動分析学から学ぶ子ども観察力&支援力養成ガイド―発達障害のある子の行動問題を読み解く!
平澤 紀子
学研 ヒューマンケアブックス
はじめに
第1章 子どもに合わせた支援を考えるために
子どもに合わせると言いつつ
子どもを見て支援を考える
第2章 子どもの行動を見て、支援を考える方法
パニックの原因は、不安やストレス?
なぜ、そのように行動するのか?
子どもの行動を観察する
ABCから支援を考える
支援を行い、見届ける
支援を更新する
第3章 ケースから学ぶ
友だちとのかかわりのなかで行う支援―友だちをたたいてしまうタロウ君(幼稚園年中クラス)
あてはめから子どもや状況に合わせる支援へ―授業中に騒ぐミチオ君(小学校1年生)
勘や経験から根拠に基づいた支援へ―強いこだわり行動を示すタカシ君(特別支援学校小学部1年生)
個人への対応を学級全体に広げる支援-授業場面でおしゃべるをするハナコさん(小学校3年生)
家族と一緒に考える家庭生活での支援-母親の言うことを聞かないヒロコさん(特別支援学校小学部3年生)
叱責による強い指導から教育的ニーズに届く支援へ-好きなことはするが、嫌いなことはしないナオト君(小学校6年生)
友だちに働きかけて子どもの環境を変える支援-友だちに大声で注意するヨシオ君(小学校6年生)
共通理解に基づいた複数の教師による支援-友だちや教師に暴言を言うアキラ君(中学校1年生)
子どもの将来を見据えた地域とつながる支援-現地実習で教育的ニーズが見えてきたカズオ君(特別支援学校高等部2年生)
参考文献
おわりに
学校の先生むけのABAの入門レベルのマニュアルです。
ABAの理論的なところはほとんど飛ばして、いきなりABC分析を使った「行動問題の解決」の進め方を解説し、一気に本格的なケーススタディに入っていくという、けっこう大胆な構成になっています。
ですので、A5サイズで120ページあまりと非常にコンパクトで薄い本でありながら、あまり「内容の薄い本」という印象はなく、むしろ「多彩な事例が読める、役立つ情報が易しく解説された内容の濃い本」に仕上がっていると思います。
何より本書の圧巻は、全体の7割ほどを占める「第3章」のケーススタディでしょう。
目次をご覧いただければ分かるとおり、9件のさまざまな「行動問題」を取り上げており、かつ、すべてについて、
(1)行動問題の観察
(2)ABC分析による機能分析から支援プランの立案
(3)介入と記録
(4)結果のフィードバックから支援をさらに改善
という4つのステップに分け、どのようにABAに基づいた支援を行なえばいいのかを詳細に解説しています。
↑すべてのケーススタディについて、丁寧な解説がつけられています。
支援の手順がこのような4ステップにかっちりと分けられていることによって、実際にはかなり高度なABA的支援を行なっているにもかかわらず、ABAをほとんど知らないような人が見ても容易に理解可能な、易しい内容になっている点も素晴らしいと思います。
つまり、この本の解説方法自体が、ABAでいうところのスモールステップを1つずつ進めていくような形で、誰もが確実に理解できるような構成になっているということができますね。
ところどころに入っているイラストもなかなか秀逸で、イラスト自体がABAの分かりやすい解説になっているものもたくさんあります。
例えば下のイラストも、「負の強化(嫌子消失による強化)」が具体的にどのような形で私たちの身近な「行動問題」となるかを、実に分かりやすく示していると思います。
↑イラストもABAの理解を深めるのに役立っています。
私はかねがね、家庭療育のなかでのABAによる支援で一番重要なのは、机に座らせて課題をやらせるようなタイプのトレーニングではなく(それも重要ですが一番ではない)、普段の生活のなかでの子どもとの接しかた、端的には生活のなかで起こるさまざまな問題や子どもの苦労に対してどう対処するかの「ちょっとした知恵、工夫」にABAを活用することだと思っています。
そのためには、細かいABAの理論を学ぶというアプローチだけではなく、まずはABC分析と代替行動分化強化あたりから「実践でする使える考えかた」を知り、そこからABAに触れていく(そしてABAの理論というよりは「ABA的な考えかた」から学んでいく)というアプローチも意味があると思っています。
この本は、まさにそういった「身近な問題を解決する考えかた、工夫としてのABA」にフォーカスし、詳しいケーススタディのおかげで実感をもってABAを学べるという点で、ABAの入門書(ただし理論以外の部分)として、もちろん学校の先生だけでなく親御さんにもおすすめできます。
唯一ちょっと気になるのは、第1章の「子どもに合わせた支援を考えるために」だけが、やや堅い文章で読んでいて難解な印象を受ける点です。
短い文章でできるだけ最小限必要な「ABAの理論」を解説しようとしたための結果なのかもしれませんが、第2章以降の文章が易しくて読みやすいだけに、この第1章の「読みにくさ」で損をしているように思います。
この本を読むときは、第1章はナナメに読むか、既に他の入門書でABAの基本的な考えかたを理解しているなら飛ばしてしまって、第2章からじっくりと読んでいけばいいと思います。第1章をじっくり読むのは、第2章以降を最後まで読み通した後でもまったくかまいません。
そうやって少し工夫して読めば、分かりやすくABAの実践を学べる書として、どなたにでもおすすめできる本です。
※参考図書
本書とよく似たアプローチをとりつつ、もう少し理論面を本格的に学びたいという方には、当ブログ殿堂入りのこちらの本もおすすめです。
発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析
編著:小笠原 恵
中央法規(レビュー記事)
理論の部分だけを安価な新書で補強したいという方には、こちらもおすすめです。同じく当ブログ殿堂入り。こちらはかなり硬派な教科書です。
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
著:杉山 尚子
集英社新書(レビュー記事)
※その他のブックレビューはこちら。