THE RULES―理想の男性と結婚するための35の法則
著:エレン ファイン,シェリー シュナイダー
左:ワニ文庫 右:ハードカバー
ルールズの面白いところは、本質的な意味で徹底的行動主義の立場を取っている、というところにあります。
この本は、「あなたがこういう行動を取っていると、彼はあなたに夢中になりますよ」と説いています。
ここで言っている行動とは、留守電は返さないとか、前日に申し込まれたデートは受けないとか、デートは女性からお開きにするとか、そういう行動レベルに落とし込まれたものであって、「相手の気持ちを考える」といった内面に関するものではありません。
それどころか、相手の内面については、
16.彼にあれこれ指図しないこと
18.男性が変わるだろうと期待してはいけない
と、「自分の行動以外で相手を変えようとするな」と繰り返し説いています。そんなことをしなくても、「恋の法則」を行動レベルで守るだけで、相手の内面まで変えられますよ、というわけです。
これはある意味、非常にピュアなABA、徹底的行動主義だと言えるでしょう。「ルールズ」が、徹底的行動主義の盛んなアメリカで出版されたのは、恐らく偶然ではありません。
(徹底的行動主義がどんなものであるのかについては、こちらも参照ください。)
自分の行動だけで相手の内面までコントロールするというABA的考え方は、どんな世界でも懐疑と否定の目で受け止められがちです。恐らく、「恋の法則」を実践している女性自身でさえ、「すべては行動」という方法論にはしばしば疑問を抱くでしょう。
だからこそ、こういう戒めが入っているわけですね。
25.ひたすら練習あるのみ!
26.婚約しても、結婚しても、「恋の法則」はやっぱり必要
27.友達や家族にバカにされても、「恋の法則」を守ること
32.法則違反をしないこと
33.法則を守ればあなたの結婚生活は生涯幸せ
もう1つあります。こっちはもっと傑作です。
31.セラピストへ法則について相談しないこと
この「法則」は、ABAの出自を理解しているとスルメイカのような味わいを醸し出します。(シリーズ記事「ABA-歴史的考察」参照)
セラピストは一般にフロイトなどの精神分析の流れを受け継いでいますから、徹底的行動主義とは正反対の立場を取っています。ですから、徹底的行動主義の「ルールズ」に対して、肯定的な意見を言うはずがない、というわけです。
こんなところでも行動主義と精神分析の対立が登場するというのは本当に面白いですね。
さらに面白いことは、知ってか知らずか、これだけABAの作法に忠実であるにもかかわらず、本文の中では、ABAのAの字も出てこないことです。
著者が心理学を履修した経験があるかどうか知りたいですね。もし履修しているとすれば、アメリカの心理学は徹底的行動主義の影響を極めて強く受けていますから、著者がABAの方法論を学んでいたとしても何の不思議もありません。
さて、今回、5回にわたって「ルールズ」を使ってABAについて解説してみました。
あくまでルールズがメインではなくABAがメインということで、毎回最低1箇所は療育に関する話題を入れるようにしましたが、今回は入っていないことをご容赦ください。
また、繰り返しになりますが、この記事はルールズ批判ではありません。
むしろ、こんなに「完成された」行動分析学の応用事例は珍しい、ということで、とても肯定的に受け止めているつもりです。(原文にあたるためにペーパーバックまで買ってしまいました)
なお、ABAの基礎について勉強したいという方には、当ブログで「殿堂入り」している、以下の本をおすすめします。
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
著:杉山 尚子
集英社新書