これは、ABAの基本概念の1つである「部分強化」について、一部で熱狂的なファンを持つ女性むけ恋愛マニュアル「ルールズ」のテクニックに関連付けて解説した記事です。
THE RULES―理想の男性と結婚するための35の法則
著:エレン ファイン,シェリー シュナイダー
左:ワニ文庫 右:ハードカバー
(ハードカバーの方が安い中古がある場合があるので併掲しました)
最近改めて読んでみて、この本に書かれていることはやはりABAそのものである、と実感したので、改めて「ルールズ」のABA的解釈について書いてみたいと思います。
もちろん、自閉症療育と無関係な話として書いているつもりはありません。
ABA的アプローチで「男性を夢中にさせる」方法は、同じくABA的アプローチで「自閉症児を効果的に療育する」方法に必ず通じるはずです。
とかく分かりにくいものになりがちなABA(行動療法)の考え方について、恋愛を例に引きながら「実感できるように」解説できればいいな、と思います。
なお、あくまでもルールズ批判ではなくて、ルールズを題材にしたABA入門ですので、そこのところは誤解なきよう、ぜひお願いします。
ルールズ的恋愛テクニックをABA的にまとめれば、こうなるでしょう。
恋愛の秘訣とは、自分自身を強化子として男性がプロポーズするようシェイピングすることである。
あらら。1文で書けてしまった。
もうこれで内容的には終わっている気もしますが、「ルールズによるABA入門」という観点で少し続けてみましょう。
ABAというのは、非常に簡単にいえば、望ましい行動にごほうびをあげ、望ましくない行動にごほうびをあげないことによって、望ましい行動を増やしたり、望ましくない行動を減らしたりするテクニックです。
ここでいう「ごほうび」を、「強化子」といいます。
強化子には、食べものやお金、休憩、ほめ言葉、その他さまざまなものが含まれます。SMのMの人にとっては、痛みや苦しさも時には強化子になるでしょう。
ABAでは、強化子のことを「行動を増やすために与えるもの」ではなく、「それを与えれば直前の行動が増えるもの」というような、あべこべな言い方で定義します。
つまり、これを与えれば行動が増えるだろう、と思って与えても、実際に行動を増やす力を持っていなければ、それは強化子ではありません。また、かつては強化子として機能していたものがやがて強化子でなくなったり(強化子としての効力を失ったり)、特定のシチュエーションでのみ強化子になるものがあったり、少し与えると強化子になるが、与えすぎると逆に罰子(与えると行動が減ってしまうもの)になるものがあったりします。
実は、ルールズというのは、「異性のアプローチ」という強化子の持つ、この辺りの微妙な特性を最大限に活用して、男性の行動をプロポーズまでシェイピングしていくテクニックだと言えます。
また用語が出てきたので解説しましょう。
「強化子」を使って、望ましい行動を増やすことを「強化」といいます。
「強化子」を与えないことで、望ましくない行動を減らすことを「消去」といいます。
強化の仕組みを使って、「簡単な行動」から少しずつ行動を形成していって「難しい行動」にたどりつくことを「シェイピング」といいます。
例えば、水族館のイルカショーの、高いところのボールにジャンプする芸は、水面のボールをつつくところから訓練を始めて、少しずつボールを高くするという「シェイピング」によって教えます。
療育においても、例えば「みかん」と言わせるのに、最初は何でもいいから声を出すだけで強化するところから始め、次に発音がきれいなときだけ強化し、こちらの声マネができたときだけ強化し・・・と、だんだん難しい課題に挑戦させ、最後はこちらが「みかん」と言ったら「みかん」と返すように訓練するようなやり方が、シェイピングの典型的な例になります。
ルールズにおいて、「強化子」とは、恋愛をする女性自身であり、女性が恋愛の過程で男性に提供できるものすべて、ということになります。電話をすることやデートすること、デートでどこまで許すか、といったことが、それぞれ強化子になります。ルールズでも、最初にこう宣言されてますね。
(Chapter IV) まずは商品を-それはあなた自身!
※今回の解説では、一部の行動分析学で使われている「好子」「嫌子」ではなく、伝統的な「強化子」「罰子」のほうを使って解説しています。ご了承ください。
(次回に続きます。)