2006年04月23日

知覚の恒常性障害という仮説(8)

ここまで、7回にわたって、自閉症の障害が知覚の恒常性の発達障害から生じているのではないかという仮説について書いてきました。

ここで思い出すのは、以前ご紹介した、「『こころ』の本質とは何か」という本に登場する四分割表です。

 関係の発達
遅れあり

正常

認識の発達

遅れ
あり
自閉症精神遅滞
正常アスペルガー
症候群
正常

以前は、この表については批判的に紹介しました。
ここで述べられている「関係の発達」という概念があまりに曖昧で、検証不可能だからです。

でも、この「関係の発達」を、知覚の恒常性に置き換えた場合、この図がまったく違う意味を持ってきます

 知覚の恒常性
異常あり

正常

認識の発達

遅れ
あり
自閉症精神遅滞
正常アスペルガー
症候群
正常

この2つの表は、ほとんど同じことを言っています。
違うのは、「関係の発達」とは要は何なのかを再定義し、より単純なレベルに還元した(でも表の構造は変える必要がなかった)という部分のみです。

「関係の発達」とはつまり、自己の外側に広がる「世界」を適切に知覚する能力が発達することに他ならない、ということです。

この表の4つのエリアは、それぞれ次のことを示しています。

・知覚が正常で、認識能力が正常に発達すれば「正常」となります。
・知覚が正常でも、認識能力の発達が遅れれば「精神遅滞」となります。
・認識能力が正常に発達しても、知覚の恒常性に異常があれば「アスペルガー症候群」となります。
・知覚の恒常性に異常があり、かつ認識能力の発達が遅れれば「自閉症」となります。


もちろん、実際にはこれらはきれいに4分割されるわけではなく、連続的に分布して「自閉症スペクトル」を形成します。

知覚の恒常性の異常を引き起こす原因としては、次の2つがあると思われます。

・感覚異常
・全般的な脳のダメージ


感覚異常とは、「自閉っ子、こういう風にできてます!」で出てくる、雨が痛い、風が痛いといった過敏性に代表されるような、感覚入力の先天的な異常を指します。
感覚異常によって脳への感覚入力がおかしくなり、知覚の恒常性が確保できない場合であっても、脳内のその他の処理プロセスが正常に機能していれば、脳は何とか無理やり社会に適応していこうとするでしょう。
その状態が、まさに「アスペルガー症候群」ということになるのではないでしょうか。

そして、感覚異常の有無に関わらず、何らかの理由で脳が大きなダメージを受け、知覚の恒常性を確立するような脳内プロセスが働かなくなった場合も、やはり自閉症の症状が発生すると考えられます。
この場合、知覚の異常だけでなく、全般的な脳の認識能力にもダメージが及んでいる場合が多いと考えられるので、精神遅滞を併合した(低機能)自閉症となるケースが多くなると考えられます。

このような2つの経路を想定するモデルは、自閉症の発症比率に男女差があること、女児の自閉症児は低機能自閉症である確率が高いことを説明できる可能性があります

・感覚異常・・・X染色体性劣性遺伝(男児に発生しやすい)または別の理由
・全般的な脳のダメージ・・・さまざまな理由(遺伝、出産時のダメージ、etc.)(性差なし)


ここまでの仮説をチャートにまとめると、こうなります。

発達障害仮説チャート

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:31| Comment(2) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
始めまして

本より噛み砕かれた言葉で書かれているので
わかりやすいです ありがとうございます

すぐ来れるようにリンクしていきますね
Posted by ママにはないしょのパパ at 2006年04月24日 01:19
ママにはないしょのパパ さん、はじめまして。

リンク先のブログにもおじゃましてみました。
お互い、自閉症児の父親として、できることから取り組んでいきましょう!

これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2006年04月25日 22:40
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