2006年04月20日

知覚の恒常性障害という仮説(6)

ここまでの仮説を改めて整理します。

・自閉症児は、感覚過敏などの理由から、「知覚の恒常性」の獲得に失敗する、あるいはその発達が著しく遅れる。
・それによって、健常児が進む「素朴物理学」から「心の理論」という認知発達の道すじから外れてしまう。
・自閉症児は、知覚・感覚の異常の中で「この世界」を理解するために、常識とは異なる独特の「世界観」を構築している可能性がある。


この仮説によって、自閉症の症状がどの程度説明できるのか、考えていきたいと思います。

まずは「三つ組の障害」から。

1) 社会性の障害
 ここで言われている「社会性」とは、要は、ヒトに対してモノとは違う行動を取ることです。
 例えば、机に置いてあるものを取るときと、他人の手の中にあるものを取るときで同じ行動を取れば、同じ行動なのに後者だけは「社会性がない」と言われるのです。
 ヒトはモノとは違うルールを持っていて、そのルールに従って行動しなければならないという「気づき」に至らないことが、「社会性の障害」を生むことになるのではないでしょうか。

2) ことばの障害
 ことばが出てこないことは、ひとつには上記の社会性の障害が大きいでしょう。
 目の前にさまざまな「見え」で登場する母親を「同じもの」と理解し、常にそばにいる大切な存在だということ(恒常性)を理解できなければ、母親への関心や自発的な働きかけ、母親からほめられることが「強化子」になる、といったことが起こりにくくなると考えられ、全般的な社会性・ことばの発達の障害につながっていくと考えられます。
 そして、指差しや共同注視といった前言語行動が出てこないのも、母親の存在とその大切さに気づくために必要な、「母親という存在の永続性・恒常性の知覚」がうまくいかないことによると考えられます。
 さらに、ことばの発達には、汎化(ある刺激への反応が類似した刺激にも広がること)が重要な鍵を握りますが、「似ている」というのは「同じ」という認知の後にしか出てこないでしょうから、知覚の恒常性の確立に失敗すればうまくいかないのは当然です。

3) 興味の限定、特定のものへの固執
 これは、知覚の恒常性の障害から最も容易に説明できるものでしょう。
 知覚の恒常性が不十分な場合、安心して扱える対象は限られてきますし、その対象の扱い方も、普通とは違ってくるでしょう。感覚過敏などの要素によって、この傾向はさらに強まるものと考えられます。

その他、自閉症児によく見られるという行動についてもあわせて考察してみます。

4) 常同行動・自己刺激行動
 「外の世界」を安定した恒常的なものとして認知できない子どもが、自分の身体感覚に、安定性や「よりどころ」を求めるのは自然なことでしょう。
 もう少し認知心理学的にいえば、外界の因果関係をとらえそこなっている子どもにとって、予測可能な世界は、自分の体そのものか、その周りのごく近接した世界だけに限られるため、その狭い世界の中で生きることに強く動機づけられるのだと思われます。
 また、目を細めたり首をかしげたり、水流や木漏れ日に夢中になるなどの「変わった物の見方」に関連する常同行動は、視覚の恒常性が確立していないがゆえの、めくるめくような不安定な「見え方」を、逆に楽しんでいる可能性もあります。

5) 呼びかけに反応しない
 感覚異常もしくは「聴覚の恒常性」の獲得失敗によって、さまざまな環境下(周囲のノイズなど)で呼ばれる「名前」が弁別刺激たりえない状況になっていると考えられます。
 加えて、呼びかけの主体である「親(やその他の大人)」の存在そのものへの「気づき」にも問題がある可能性があります。もちろん社会的強化子が効かないことも背景にあるでしょう。

6) クレーン行動
 ヒトとモノを区別するような「素朴物理学」が発達していないため、ヒトをモノと同じように扱う、つまり、ヒトの手を道具のように使うことが学習されてしまうためだと思われます。

7) ごっこ遊び、見立ての欠如
 ごっこ遊びも見立ても、AというものがBというものであるという「ふりをする」という行動ですが、さまざまな「モノ」を、その場その場に現れては消えるものではなく、永続的に存在するものであるという認識(物の永続性)が獲得されていなければ、AやBという「モノ」の認識が育たず、当然見立てといった複雑な認知レベルには到達しないと考えられます。

8) 多動
 視覚のダイナミックな変化も含めて、自己刺激的な行動として現れている可能性があります。つまり、じっとしている状態では、自己の身体感覚に直結した「分かりやすい刺激」が少なすぎて安心できないのかもしれません。

9) 変化への抵抗・「並べる」ことへの固執
 物の永続性が確立していない子どもが「安定した世界」を作り出すためには、同じモノが同じ場所にあるという状態を外界に作るしかありません。言ってみれば、子ども自身による世界の「構造化」ともいえるでしょう。
 せっかく作った「安定した世界」を壊されることに抵抗するのも、当然だと思われます。

10) 障害が1歳半~3歳頃に認知されることが多い理由
 一般の子どもが素朴物理学から心の理論の入り口に立ち、「社会化」していくのがちょうどこの時期であるため、そうならない自閉症児の障害が「見える」ようになってくるのでしょう。
 一方、感覚異常や知覚異常はそれより前の段階から現れているはずなので、「後から考えてみると変わったところがあった」「他の兄弟と違う」といった印象については、より幼い時期から持つことができるのだと思われます。

11) 「ことばが消える」などの退行現象について
 「ことばを発する」というのは、何らかの生得的過程が関与する、自閉症の障害とは違うルートをたどって発達してくる過程だと考えられます。
 ところが、ことばを発するという「行動」は、主に「親がほめる・関わる」といった社会的強化子によって強化・定着されるべきものなのに、自閉症児には社会的強化子が働かない(上記(2)参照)ため、「消去」されていくのだと思われます。


・・・こんな感じでしょうか。
それぞれの行動の説明はまだまだ荒削りでまとまっているとは言えませんが、この仮説には、自閉症児の持つさまざまな特徴を説明できる力があるのではないかと期待しています。

なお、上記の説明の中には、「自閉っ子、こんな風にできてます!」に出てくるような、比較的高機能な自閉症児が持つ「不思議な世界観」の話が漏れていますので、それについて次回改めて書きたいと思います。

(次回に続きます。)


posted by そらパパ at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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