2006年04月18日

知覚の恒常性障害という仮説(5)

下のチャートは、前回ご説明した、感覚の発達、知覚の恒常性から心の理論の発達に至る、長い1本の「発達のレール」です。

[感覚入力の正常な発達]
    ↓
[知覚の恒常性の発達]
    ↓
[物の永続性の確立]
    ↓
[素朴物理学の発達]
    ↓
[『心の理論』の発達]


ここでのポイントは、それぞれの認知・知覚段階が発達するためには、1つ前の段階が正常に発達している必要がある、という点です。

これを手がかりに、自閉症の問題にチャレンジしてみます。

上記の「レール」の中で、自閉症児が、最後の「心の理論の発達」に問題があることは明らかです。

そこで、どの段階で問題が生じているのか、さかのぼって考えていくと、最後の「感覚入力の異常」にあっさりとたどり着いてしまうことに気づきます。
つまり、感覚異常から知覚の恒常性の発達が妨げられ、それ以降の認知発達にも異常が現れる、という構図です。

ここで思い出すのは、「自閉っ子、こういう風にできてます!」の中で語られる、自閉症者のさまざまな感覚異常についての記述です。

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・嗅覚も「犬並み」ってよく言われるんです。東京の街ってくさいですね。どこ行っても食べ物のにおいがします。(26ページ)
・扇風機の風が痛いです。(28ページ)
・東京駅に降りてあまりにたくさんの人を見たとたん目が見えなくなりました。(39ページ)
・私も耳が痛むんです、救急車が通ると。(51ページ)


そして、知覚の恒常性が確立していないことを推測させる記述も多数あります。

・ピサの斜塔を見るために体を斜めに傾けている(巻頭マンガ4コマ目)
・私たちの耳は、音を全部平板に拾います。(49ページ)
・タイ米は「長さが違う」と思って食べられませんでした(83ページ)
・私は自分が学校に歩いて行っているのか、世界が回り舞台のように自分に近づいてきているのか、どっちなのかはっきりと確信が持てていませんでした。(111ページ)


そして、本書の後半では、著者たちの持つ不思議な世界観、「素朴物理学」でもなく「心の理論」でもない、違う形の「仮想」が語られています。

・乗り物は、私が念を送っているから安全なんだと思っていた(103ページマンガ)
・この世界を大きな巨人が上から覗いていて、とても高性能のコントローラーで私たちを動かしているのだと思っていました。(105ページ)
・(クラスメートは学校の備品だと思っていた。)家に帰ると親がいます。学校にいるとクラスメートがいます。クラスメートとは、教室にいるものだったんです。まさか一人一人におうちがあって、そこから通ってきているとは思いもしませんでした。(108ページ)
・私としては、劇の中を生きているわけですから、両親が見えないときは「あ、両親役の人『出待ち』なんだ」と思っていました。(157ページ)


これらの考えを、「ばかげたこと」として排斥するのは簡単ですが、それでは本質を見失います。

このシリーズ記事の少し前で、我々が持っている「心の理論」も、実は証明不能な仮想の世界観でしかなく、たまたま有効に機能するから「常識」として通用しているに過ぎない、ということを書きました。

「同じもの」を「同じもの」と当たり前に判断するのが難しいといった、知覚の恒常性に異常を持った人がこの複雑な世界に放り込まれたときに、健常者と同じ「心の理論」という世界観にたどり着く「必然性」は、どこにもないのです。
むしろ、その歪んだ知覚、感覚で受け止めた「世界」を説明できるような、別の(恐らく、より原初的な)世界観を構築すると考えたほうが「必然的」でしょう。

そして、自閉症児が、知覚・感覚障害によって異なった世界観にたどり着いてしまった存在だと仮定したとき、さまざまな自閉症児特有の行動の多くが説明できるように思われるのです。

次回は、自閉症のさまざまな症状を、すべてこの「知覚の恒常性異常仮説」で説明することに挑戦してみます。

(次回に続きます。)


posted by そらパパ at 19:59| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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