2010年08月09日

3た論法から療育リテラシーを考える(4)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第4回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

前回までで、

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、

(3)有効性があるという「結果」は公表され、そうでない結果は公表されないことで効果が過大に評価される「発表バイアス」があること、


についてご説明しました。今回はその続きになります。

実際には効果のない「療法」に効果があるように錯覚するトリックの1つとして、

(4)平均への回帰

というのもあります。

以下の「3た論法」をご覧ください。

「頭が痛い・サプリを飲んだ・頭痛が消えた!」
「下痢気味だ・おなかマッサージをした・下痢が治った!」
「最近パニックが多い・なんとか療法を試した・パニックが減った!」


実は、この3つの「3た論法」は、構造的に非常によく似ているところがあります。それを今回お話ししようと思います。

さて、ちょっと考えてみてください。
これまでの療育に限界を感じ、何か新しい療育を試してみようと思うのは、どういうときが多いでしょうか?

それは端的にいって、「お子さんの状態が悪いとき」ではないでしょうか。
仮に全面的に状態が悪くはないとしても、「寝つきが悪い」とか「おもらしが増えた」など、その時点で(通常より)思わしくない状態にある、何らかの側面を改善したいと感じたときに、親御さんは「新しい療育を試そうか」と考えるのではないでしょうか。

つまり、新しい療育を試してみるときというのは、「お子さん自身の状態が、平均的な状態より悪い状態にある」場合が多いということになります。

急性の病気ではない、慢性病や発達障害などでは、状態は単純に良くなり続けたり悪くなり続けるといったことはなく、状態の「波」のようなものがあり、よくなったり悪くなったりを周期的あるいは不定期に繰り返すのが一般的です。
そして、本来の平均的な状態よりも相対的に「悪い状態」にある場合、確率的にいって、その後の経過としては、「(平均より悪い状態から)さらに悪い状態」になる可能性よりも、「平均的な状態に近づく=相対的にはよくなる」可能性のほうが高くなります

これは、何か見えない力がそうさせるといったオカルト的なことではなくて、平均的な状態よりも良かったり悪かったりという状態は、ある種の「外れ値」状態にあるということなので、その「外れ値」的な状態が続く可能性よりも、「平均」的な状態に移行する可能性が高く、それが相対的な「見え」としては、「悪い状態の後は『良くなる』ことが多く、良い状態の後は『悪くなる』ことが多い」ように感じられる、ということを意味しています。

たとえば、サイコロを何回もふることをイメージしてください。
あるとき、3回連続で「1」の目が出たとします。このとき、サイコロの目の3回平均値は「1」になります。
ここで、続けてあと3回サイコロを振ったとき、ふたたび「1」が3回出る確率は1/6の3乗で約0.5%となります。
つまり、「3回続けて1が出る」という「悪い状態」を基準にすると、「その後の3回」が「それまでよりも良くなる」確率は99.5%もあることになります。

これと同じような意味で、「お子さんの『状態の波』が悪いとき」を基準にすると、「その後のお子さんの状態」が「それまでより良くなる」確率は、50%よりもずっと高くなるということになります。
これも、事前・事後で計測すると、数値で「良くなった」ことを示すことができます。でも、だからといって、その療法に効果があることを必ずしも意味しません

このような、「悪い状態の後は『良くなる』ことが多く、良い状態の後は『悪くなる』ことが多い」ことを、「平均への回帰」と呼びます。

この「平均への回帰」を理解することは、療育リテラシーのなかでもかなり重要なことだと思いますので、他にもいくつか例をあげておきたいと思います。

例えば、「テストの成績が悪かったから塾に通わせる」というケース。
そのテストの結果が実力と無関係に「たまたま悪かった」場合、その次のテストでは「平均への回帰」により、点数が向上する可能性が高いでしょう。
でも、その成績の向上は「平均への回帰」ではなく、「塾に行った効果だ」ということになってしまうでしょう。
ここにも、誤った「3た論法」が生まれます((テストの成績が落ちたから)ナントカ塾に通った、テストの点がアップ、ナントカ塾は効果がある!)。

「平均への回帰」のもう1つの分かりやすい例は、スポーツ選手などの、いわゆる「2年めのジンクス」でしょう。
デビューの年に、たまたま実力以上の成績をおさめた(外れ値的な結果を出した)選手は、2年目はその実力以上の成績を出し続けることができず(平均への回帰)、平凡な成績となり「2年めのジンクス」と呼ばれることになります。
これに対し、本当に実力のある選手は、1年めの好成績も「外れ値」ではないため、2年め以降も好成績を続けることができます。

これは、療育の成果を測るときも、「悪い状態が平均的な状態に戻った」ことではなく、「平均的な状態からさらに良くなって、その良い状態が維持されている」ことを見なければ、「平均への回帰」に過ぎないものを療育効果だと見誤る可能性が高いことを意味しています。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 19:44| Comment(3) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBSラジオで「ホメオパシーをめぐる問題から代替医療を考える」と約1時間やっていました。

http://podcast.tbsradio.jp/dig/files/dig20100819.mp3

ゲストは、
医療ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員の田辺功さん
http://www.cocoknots.co.jp/tanabe/index.php

民主党・参議院議員の櫻井充さん(仙塩総合病院心療内科勤務医、月に2回程度ですが、診療をまだ続けており)
http://www.dr-sakurai.jp/

大阪大学サイバーメディアセンター教授の菊池誠さん
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/index-j.html
ホメオパシーに関してはプラシーボ効果と言う立場。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1489733.html

田辺さん、朝日新聞の現役時代には
>「医療の非科学性を減らし、有効性を上げる報道」が、私の仕事<
>1999年から2000年には健康面で「ふしぎの国の医療」という62回の連載をしました。そのなかで指摘をした非科学で無意味な診療のうち、この8年間で改善されたのは半分か、多くても3分の2くらいでしょうか。医療現場ではまだまだ根強く生き残っています。<
で、2008年5月にフリーになった方。
こういう方が、「癌患者が使っている健康食品に医師は関心を向けるべきだ。良い、効果のあるものは、勧めるべき」「健康食品には効くものもある。国が基礎研究をして、有望なものは民間に渡して、営利化すべし」とか言うようになるとは??

営利に出来るものは、トクホ(特定保健用食品)がありますよ。

外国では、高名な医師がホメオパシーを使っているとか言って擁護していました。

櫻井さん、ご家族の健康食品体験やご自身の身体法の経験から、統合医療を普及・推進する議員の会会長代行をやっているそうで、その余りの「3た」さん振りに唖然、

菊池さんが「ホメオパシーのような明らかにダメなものは、政府の検討機関では門前払いすべき」という提言に、桜井さんが言を左右にして応えなかったのが印象的でした。

そらパパさん、「馬の耳に念仏」と徒労感に陥らずに、手を変え品を変え、こういった記事を載せていってください。
Posted by ヒゲ達磨 at 2010年08月23日 16:21
ホメオパシーは「荒唐無稽」 学術会議が全面否定談話
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf

>ホメオパシーに頼ることによって、確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題であり、時には命にかかわる事態も起こりかねません。こうした理由で、例えプラセボとしても、医療関係者がホメオパシーを治療に使用することは認められません。

>ホメオパシーは現在もヨーロッパを始め多くの国に広がっています。・・非科学的であることを知りつつ、多くの人が信じているために、直ちにこれを医療現場から排除し、あるいは医療保険の適用を解除することが困難な状況にあります4。またホメオパシーを一旦排除した米国でも、自然回帰志向の中で再びこれを信じる人が増えているようです。

>日本ではホメオパシーを信じる人はそれほど多くないのですが、今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。そしてすべての関係者はホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める役割を果たさなくてはなりません。
Posted by ヒゲ達磨 at 2010年08月24日 18:32
ヒゲ達磨さん、

コメントにて情報提供ありがとうございます。

このあたりの話題については、Twitterの療育クラスタでもつとに話題になっており、多くの方が問題意識を共有できる状態になっていると思います。

先ほどTwitterでも書いたのですが、Twitterって、日本におけるSNSで、いわゆる「知識人層」が広く使うものとして初めて普及したものなんじゃないだろうか、と思います。

で、そのSNSのなかで初めて問題意識として共有されたのがホメオパシーなんじゃないだろうか、と思います。
いま、新聞が広くホメオパシーを取り上げているのは、このネットでの盛り上がり抜きには語れないでしょう。

これからは、こういった代替療法もTwitterでの評判なり問題提起を無視できなくなるのではないでしょうか。(それはつまり議論がオープンになるということですから、もちろんいい傾向です)
Posted by そらパパ at 2010年08月24日 23:44
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