子どもが発達障害?と思ったら ペアレンティングの秘訣
著:服巻 智子
NHK出版
1 もしかして…
わが子が何か違っていると感じたら
親としての心構え
家族計画と人生設計
“困った行動”の考え方と「氷山モデル」
家族のキーパーソン
夫婦のあり方
きょうだいに気配りすべきこと
2 これからどうすれば…
その子自身の人生
「子どもがかわいいと思えない」本音
家庭での工夫のコツ
自閉症スペクトラムとペット
サポートブックを作ろう!
3 親だって癒されたい
親だって癒されたい―夢をあきらめて
ストレスマネージメントを生活に取り入れる
親のための時間管理法
お役立ち情報を手っ取り早く求める
4 支援あれこれ
自閉症児支援のノウハウ
支援方法のいろいろ
専門家の活用法
園選び・学校選びのコツ
園や学校の先生との関係づくり
5 子どもと自分自身の人生も考えて
すれ違いの間をつなぐこと
親の気持ちの変遷と子離れの計画
理解し合うことから生まれるもの
この本、一言で言えば、「子どもが発達障害かもしれない」と考えて不安になったり落ち込んだりしている、あるいは「子育てのしかたが分からない」と感じている親御さんに向けたアドバイス集です。
内容は、目次を見れば分かるとおり、
・子どもの障害に気づいた後の親としての対応、気持ちの持ち方、受容
・きょうだいとの接しかた
・いわゆる「問題行動」のとらえかた、対処方針
・療育や家庭環境改善の始めかた、すすめかた
・親のストレスマネジメント、「手の抜き方」
・専門家や公的サービスの利用、学校との関係づくり
・子どもの将来にむけた人生設計
といったように、発達障害のお子さんをもつ親御さんに向けた、「最初の一歩」的なアドバイスが中心になっています。
具体的な療育技法については、TEACCH的な「視覚支援や構造化が効果的」といった簡単なアドバイスを中心に、ある程度は書かれているものの主たるテーマではなく、あくまでも「親としてのあり方」についてエッセイ的にまとめられた本という位置づけです。
多くの自閉症本では、たとえ「入門書」であっても、こういったそもそも論的な話題は冒頭でごく簡単に取り上げられているだけのことが多く、いきなり具体的な療育や支援体制作り、障害の理解といった本格的な話題に入ってしまう流れの中で、「頭では理解できても気持ちがついていかない」と感じてしまう方も多いのではないでしょうか。
本書は、具体的な方法論に入る前の、その「気持ち」のほうに焦点を当てて、どうすれば、最初のショック状態から「気持ちを落ち着かせて、前に進んでいけるようになるのか」を深く掘り下げているという点がとてもユニークです。
他の一般的な自閉症入門書、療育入門書とあわせて、「親としての気持ちの問題について応えてくれる本」として、一緒に手元において最初に読むのに向いていると思います。
さて、この本、全体的に服巻氏の人柄のにじみ出た良書だと思うのですが、いくつか気になるところがあります。
レビューの後半では、それらの、ちょっと気になったポイントについて触れておきたいと思います。
一点目は、対象読者を「知的障害のない」発達障害のお子さん(とその親御さん)に限定しようという意図がなぜか強く感じられる点です。例えば、
2004年に発達障害者支援法が施行されてから、発達障害とはLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)を指すようになりました。これらのグループは、基本的には知的障害を持たない障害群です。しかし、ASDを持つ人たちの半数以下が知的障害をあわせ持つと報告されています。(初版30ページ)
もともと知的障害をあわせ持たない自閉症スペクトラム障害のことを、純粋な自閉症とされていました。(初版23ページ)
他の障害や疾病と重複障害ではない純粋な自閉症スペクトラム障害は、知的障害を伴わないことが知られていますが…(後略)(初版137ページ)
…うーん、この最初の引用だと、知的障害を持つ自閉症は「発達障害の主流ではない」と読めてしまえますし、また、本書以外ではあまり目にしたことのない「純粋な自閉症」という表現についても、そもそも障害概念の「広がり」を前提としているはずの「自閉症スペクトラム」という概念を、あえて「知的障害の有無」で切り分ける必然性がなぜあるのかもよく分からないと感じました。
そしてもう1つ気になった点は、話題が「理系的」な方向に行けばいくほど、ちょっと首をかしげたくなるような内容や、一部については明らかに誤っているといわざるを得ない内容が出てくる、というところです。
例えば、139ページ~140ページ(初版)に、「エビデンスベースド」とされる療育法がリストアップされているのですが、そのなかに「感覚統合療法」が含まれています。
しかしながら、感覚統合療法については、EBM的な検証においては効果が実証されていない(つまり、エビデンスベースドな療育法ではない)というのが一般的な評価でしょう。(下記参照)
感覚統合療法について考える -ベムのメモ帳
オーストラリア自閉症早期療育エビデンス・レビュー
自閉症スペクトラムの子どもへの感覚・運動アプローチ入門(ブックレビュー)
また、このリストに含まれる他のさまざまな療育法についても、エビデンスベースドとは必ずしも言えないものがいくつも含まれているように見受けられます。私が発見できていないだけかもしれませんが、少なくとも上記「オーストラリアエビデンスレビュー」において、エビデンスがないと評されているものがいくつかあります。
それ以外にも、夫婦での子どもの障害に対する受け止め方、感じ方の違いについて解説しているページ(初版42~43ページあたり)で、その「違い」のそもそもの理由を「男性脳・女性脳の違い」で説明したり、「ひとり発達障害を持つ人がいると、その親族に何世代かさかのぼると必ず似たような特徴を持つ人が存在するということは、確かなこととして報告されています。」(初版25ページ)といった断定的な表現があるなど、「理系的な説明」のなかの少なくない箇所で、ちょっと疑問を感じるところがありました。
まあ、とはいえ、エッセイ的に「文系的なアドバイス」として読んでいく限りは特段支障はなさそうなレベルの問題だとは思います。
ともあれ、こういった「親御さん自身を対象読者としたペアレンティングの本」、とりわけ、自閉症スペクトラムのお子さんをもつ親御さんに特にフォーカスを当てた本というのはあまりなかったと思いますので、子どもの障害を知り、「親としてのありかた」を改めて考えてみたい、アドバイスが欲しいと考える親御さんにとっては読んで得るところの多い本だと思います。
文字も大きく文章も平易で短い単位でまとまっており、読みやすいです。
※他のブックレビューはこちら。
いつもありがとうございます。
私も読みました。
「女性の著者がお母さんに向けて」「お母さんがわかりやすく」を意識して書かれた本だと強く感じました。そらパパさんご指摘の42・43ページも女性が読んだらピンとくるのかもしれません。
夫の理解の話題やきょうだい児の事などが早い段階で記載されているのも好感が持てました。
家族のあり方に言及し家族を勇気づけるといった点では「そらパパさんがお父さんに向けて」書かれた御本と根っこは同じなのかなとも感じました。
個人的に一番気になったところは25ページの「確立」かなぁ。
それでは。
コメントありがとうございます。
男脳、女脳っていうのは、まあ雑談レベルなら私も使ったりすることがありますが、何か男女の違いを説明するための「メカニズム」として使ってしまうと、完全に同語反復になってしまって説得力を失ってしまうと考えています。
まあ、そんな風に堅く考えずに、エッセイ的に読み流すのであればそれでいいのかなあとも思うのですが(^^;)。
また、確かに、この本は「お母さん向けの本」なんだろうなあ、という印象は持ちました。
そして、ご指摘いただいたとおり、(実は私もこの本を読むまではあまりはっきりと意識していなかったのですが)私が書いた本は、「お父さん向けのペアレンティングの本」になっていたんだなあ、と改めて感じているところです。