自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく
著:ニキ・リンコ、仲本 博子
花風社
今回は、アメリカで自閉症児を育てているトニママこと仲本さんの「現地レポート」に対して、翻訳家で自らも自閉症スペクトラム障害をもつニキ・リンコさんと花風社の浅見さんという方が対談をするという、ちょっと変わった構成になっています。
あと気が付くのは、表紙が派手です。全面光沢のある山吹色?で、私はこの本はカバーをつけなければちょっと外では読めません(笑)。
今回のテーマは、ずばり、昨年施行された「発達障害者支援法について」。本法をふまえ、これからの発達障害者支援はどんなものを目指せばいいのかについて、アメリカのIEP(Individualized Educational Program=個別化された教育プログラム)を1つの先行事例としていろいろ考えてみよう、という本です。
テーマは結構「堅い」んですが、この本は素直に面白い、と思いました。
1つは、「アメリカの療育っていっても意外と大したことない!」ってことを、実体験をもってはっきりと描き出しているところ。
よく、日本は遅れていて何もしてくれない、アメリカは当たり前のように何でもやってくれる、といった話を平気でする人がいますが、少なくとも本書を読む限りは、そういうことを無批判に書いている人は信用できないか、たまたま運が良かっただけだと判断してよさそうです。
もちろん、アメリカの方がずっと進んでいるな、と感じる点もたくさんあります。特に、日本の介護保険制度と少し似ている官民分業のシステムは、多様な療育ニーズに効率よく応えなければならない自閉症児療育にはとても向いているんじゃないかなー、と感じました。
ともあれ、確実に言える事実は、日本の療育システム・環境にも優れたところがあるし、アメリカにもある。少なくとも、どちらかが圧倒的に優れていてもう一方が何十年も遅れているなんてことは絶対にない、ということでしょう。
それともう1点、面白かったところ。
これは同じくニキ・リンコさんの「俺ルール!」のレビューでも書いたんですが、ニキさんの語る「自閉っ子の感覚異常」の話が、なぜか今回も、茂木健一郎氏の脳科学本「心を生みだす脳のシステム」とかぶっているのです。
私、ネコのひげもついていないみたいなんです。
ネコってひげで自分の身体と周りの距離を測っているでしょう? 人間は一般にたぶん、ひげじゃないところで自分の身体と周りのものの距離をはかっているんですよね。だから物にぶつからずに歩ける、ふつうは。
私はそれがやはりオートマティックにできないんです。実家に帰ったりすると、木造一戸建てだから、ふだんより寒くてふだんより厚着するでしょう? そうしたらぶつかったり転んだりひどいんですよ。どうも身体の感覚が違ってしまうみたいで。
(自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく 初版129ページより)
この話、ニキさんは漠然と語っていますが、茂木本にいう下記の「ボディ・シェーマ」の話とほとんど同じ内容になっています。
一方、脳の中には、視覚認識におけるよりはるかに早く空間の枠組みの変化が起こる志向性のシステムがある。すなわち、身体に関する空間知覚を構成する志向性のシステムだ。
(中略)駅や街角の人混みの中を、私たちはあまり人にぶつからずに歩くことができる。いろいろな角度から人が近づいてきても、それをひょいひょい避けて先に進むことができる。(中略)そのようなことができるのも、自分の手や足、肩がどこにあるかといった、自分の身体が占める空間的な領域を、リアル・タイムで把握して、その範囲に他人が来ないように自分の行動を制御できるからである。
(心を生みだす脳のシステム 初版110ページより)
「俺ルール!」のときも、自閉症の感覚障害と、茂木氏のいう「クオリア」とがつながっていたのですが、今回も、ニキさんのいう感覚異常が、茂木氏のいう「ボディ・シェーマ」と非常につながりのある話だということが分かります。
うーん、ニキ・リンコさんに、この「心を生みだす脳のシステム」を読んでもらいたいですね。そうしたら、どんな感想を持つんだろう。
本書の趣旨とはまったく違うのですが、ここの部分は「俺ルール!」からのつながりもあって、本当に興味深かったですね。
茂木氏の本も、「心を生みだす・・・」以降いろいろ読んでいるのですが、こういった、自閉症者の語る認知・感覚異常と最新の脳科学の知見を組み合わせるという方向性にも、もしかすると自閉症療育のヒントの原石が隠れているのかもしれませんね。
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