2006年04月05日

PECS:フェーズ4以降についての私見(2)

前回、PECSのフェーズ4で導入される「二語文」について、子どもにとっての必然性が感じられないという話をしました。

それでは、健常の子どもが一語文から二語文に移行するときには、どのような「必然性」があるのでしょうか。
それを考えれば、PECSの「フェーズ4問題」も解決するかもしれません。

通常の言語発達がどのように進むのか概観すると、どうやら一語文から二語文になるきっかけは、大きく分けると2つあるようです。

1つは、動詞の導入による要求と叙述(マンドとタクト)の区別です。
いままで「みかん」で済ませていたものを「みかん、チョーダイ」と言うようになるというものです。そして、ただ「みかん」と言った場合の意味は、絵本や店頭を見て「みかんがあるね」という、叙述に限定されていきます。

これは、健常の子どもの場合、ことばの獲得の前から指差しや共同注視によって叙述のコミュニケーションが出てくるので、ことばが出てきた段階で、「みかん」という一語文が「みかんがほしい」という要求の意味と「みかんがある」という叙述の意味、両方を既に持っていることが関係していると思われます。
この2つを区別して、みかんが欲しいときには確実に手に入れられるように「みかん、チョーダイ」ということばが「必然的に」発達してくるのでしょう。

ところが、これがPECSの場合だとうまくいきません。「一語文」に相当する「カードを渡す」という行為は、100%要求表現として扱われているので、わざわざ「ください」のカードを足して二語文にする必然性が生まれないのです。

指差しなどの前言語的な叙述表現を子どもが表現するのであれば、それを伸ばしていってPECSの二語文につなげることも考えられますが、叙述の指差しができる子どもなら、PECSを導入しなくても音声言語が出てくる可能性が高いようにも思います。

健常の子どもが二語文を獲得するもう1つのきっかけについて考えてみます。
一語文から二語文に移行するパターンには、先ほどの「名詞+動詞」というもの以外に、対象を限定する「対象+名詞または動詞」というパターンがあるようです。
つまり「パパ、アソンデ」と「ママ、アソンデ」を区別するとか、「パパ、どこ?」と聞かれて「パパ、カイシャ」と答えるとか、誰が(あるいは何が)どうした、と表現したいときに、二語文の必然性が出てくるというわけです。

でも、これもPECSにあてはめて考えてみると、要求する相手を限定するならその人のところにカードを持っていけばいいし、叙述の対象を限定するためには叙述表現ができている必要がある(しかしPECSでは叙述はフェーズ6になっている)ということで、うまくいきません

そして、PECSのフェーズ4で考えられているような「大きい/小さい」や「赤い/青い」といった属性が出てくるのは、健常の子どもでももう少し後になるようです。
しかも、自閉症児は一般に「大きい/小さい」といった概念の形成が非常に困難だと言われています。
ですから、属性の導入を二語文以上の文章への「最初のきっかけ」にすることも、ちょっと不自然なことだと考えられるわけです。

考えれば考えるほど、PECSでセンテンス構造(二語文以上の文章)を導入することがなかなか難しいということが分かってきます。
端的にいえば、二語文以上にしなければ表現できないことで、フェーズ3を終えたばかりの自閉症児がぜひとも表現したいと思うことがあまりない、もしくは私たちが見つけていない、ということなのだと思います。

それだったらむしろ、カード1枚による「一語文」のスキルをどんどん上げて、コミュニケーションできる内容を増やしていったほうがいいような気がします。
実際、PECSとは言いながらも、フェーズ3どまりで、でもちゃんとコミュニケーションに役立っているケースもたくさんあるようですし。

そして、どうしても「二語文」っぽくしたければ、「みかん」というカードを「みかんください」というカードに変えて、それを今までどおり「1枚のカードとして」使えばそれで構わないような気もしてきました。

・・・と、ここまで書いて、1つ、とても単純で、しかも、子どもにとっての「必然性」も持たせることができるやり方を思いつきました。

つまり、最初から、「みかん」というカードではなく、2枚分の横の長さを持つ「みかん+ください」という1枚のカードを作って、それを使うことでフェーズ1から3を進めていくのです。
そうすると、カードの数が増えるにしたがって、横に長いカードをたくさん保管することが不便になってきます。
カードが増えすぎてどうにもならなくなったところで、全てのカードを真ん中で半分に切り、「みかんください」と言いたいときは「みかん」と「ください」のカードをセンテンスストリップに貼り付けて持ってくるようにします
すると、「ください」のカードが1枚しか必要なくなるので、残りの全てのカードの「右半分」を捨てることで、カードの携帯性が回復します。これは、子どもにとってもメリットになります。
しかも、フェーズ3と「新しいフェーズ4」との間で、文章の構造が崩れません。(どちらも「みかんください」であることには変わりがない)

このアイデア、ちょっと本来のPECSのやり方とずれてくるかもしれませんが、改めて機会をみて検討してみようかと思います。
posted by そらパパ at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
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