2006年04月07日

PECS:「今はだめ」を教える(2)

PECSのトレーニングの中で親が取り組まなければならない1つのチャレンジとして、「PECSで要求してきた子どもに、『今はだめ』と答える」というものがあります。

前回、いくつかのヒントとなるやり方をご紹介しましたが、1つのポイントは、やり方に一貫性を持たせるということです。
あるときはことばで「だめ」といい、あるときは「だめ」というボードにカードを貼り付けるといった混ぜこぜのやり方では、子どもを混乱させてしまいます。

もちろん、後であげるときにはスケジュール表に貼り、なくなったからあげられないときは空の容器を見せ、どちらでもないときは「だめ」というボードに貼るといったように、状況ごとに違うやり方を「一貫して」適用するのは問題ありません。

そして、もう1つ、これはPECSならではの禁止事項があります。
それは、与えたくないからといって、そのカードを隠す、取り上げるということは、決してしてはならないということです。

その理由は、PECSの出発点である、「ことばによるコミュニケーションと同じ機能をカードによって実現する」という発想にあります。

PECSをことばと(機能として)同じものだと考えると、PECSをやっている子どもにとって、絵カードは「単語」であり、私たちが口にすることばの語彙そのものだと言えます。

健常な子どもへの対応を考えてみましょう。
例えば、「おやつ、おやつ」とせがむ子どもの要求を抑えるために、口にガムテープを張ってことばを言えなくするのは、適切な方法でしょうか? もちろん違いますね。
PECSの絵カードを取り上げてしまうのは、こどもの「ことば」を奪うことであり、コミュニケーションの手段を奪ってしまうことです。

子どもが何かを欲しいと思ったとき、それをPECSカードで表現するという行為自体を妨げてはならないのです。なぜなら「伝えたいことを伝える」ことを封じ込める権利は、親にさえないからです。

「A Picture's Worth」には、次のようなとても味わい深い表現があります。

These (PECSカードのこと) are the child's pictures, part of his communication system. They are not the teacher's or parent's pictures. (中略) And we similarly never take away the child's ability to communicate with us. We may not agree to or reward every request a child makes, but that is a natural part of growing up in any society.

(訳)
絵カードは子どものもの、子どものコミュニケーション系の一部です。先生や親のものではありません。(中略)私たちは、子どもが私たちとコミュニケーションする方法を決して取り上げてはなりません。子どもの要求に応じたりごほうびを与えたりできないこともあるかもしれませんが、それは、どんな社会にもある、子どもが大きくなるための自然な過程の一部なのです。


さて、我が家でも、「みかんカード」を少し発展させて、PECS的に展開していこうという取り組みを始めました。
今まで、冷蔵庫をコミュニケーションブック代わりにしてうまくやってきたので、しばらくはこのままでいこうと思い、マジックテープではなくマグネットを使ったPECSカードを作りました。


↑冷蔵庫に貼り付けられる、マグネット式のPECSカード。

問題は、「今は与えられない」ものに対応したカードです。
上記のPECSの理念を尊重し、カードを隠すことはやめることにしました。
でも、いきなり冷蔵庫に貼ってしまうとかえって混乱させてしまうと思ったので、「今はだめボード」を鉄板で作り、そこに貼って冷蔵庫の隣にぶら下げておくことにしました。


↑この「今はだめボード」は、100円ショップの鉄製の落しぶたに紙をはって色を塗ることで作りました。

そのうち、この「今はだめボード」の意味がわかってきたら、もう少し柔軟なやり方に変えていきたいと思っています。
posted by そらパパ at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
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