(2)ステップ1:1枚スケジュールで、直後におこるイベントを教える
これまで説明してきたとおり、自閉症児のために絵カードによるスケジュール表を導入するのは、将来への見とおしを持つことに困難をもつ自閉症児をサポートして「生活を楽に=豊かに」することが目的です。
大人の期待するとおりにスケジュールをこなしてほしい、という目的もあるかもしれませんが、それはあくまでも二次的なものですし、「本質的な」ゴールではないと考えるべきでしょう。
とはいえ、「特定のアイテムがほしい」というニーズを持つ自閉症児に、そのアイテムを手に入れる手順を教えるのと比べると、こちらからスケジュールを教えて、子どもにその意味を理解させて将来の見とおしをもってもらうというのは、はるかに難易度が高いということを覚悟しなければならないでしょう。
まず、スケジュールを教えるためには、先の「要求のコミュニケーション」とは異なり、絵カードに印刷された画像(の違い)に意味があるということを、子どもが理解していることが前提になります。
したがって、先の「要求」のトレーニングがステップ3まで進み、子どもが要求のコミュニケーションのなかで絵カード(の違い)を意味のある「ことば」として理解していることが、絵カードによるスケジュールを導入するための、一応の目安、必要条件になると考えられます。
言い換えると、「要求」トレーニングのステップ3を子どもが習得できれば、その次のステップとしてこの「スケジュール」のほうを教えることを検討することができるようになるということでもあります。
そして、絵カードの意味が分かったとしても、今度はそれを複数並べたときにそれが(左から右なり、上から下なりの順に)「時系列」を表しているということを理解し、さらにそのなかの特定の絵カードが「今これから起こること」という特別な意味を持っているということを理解してもらうというもう一つの難問が待っています。
これは、お子さんに「時間の概念」を習得してもらうこととほとんどイコールであり、一言で言えば「非常に難しい課題」です。
こういう難しいことを教えるときは、やはりABAの王道でもある「スモールステップ」でいきましょう。
最初のステップとして、まずはスケジュールがもつ複雑な要素のうち「時系列」(時間の概念)という、最難関の要素を排除して、「これから今すぐ起こること」だけを、絵カード1枚で表現するやりかたで「スケジュール」を導入します。これが絵カードスケジュールのステップ1になります。
このステップ1のことを、ここでは「1枚スケジュール」と呼ぶことにします。
掲示の方法はいろいろあると思いますが、ここでは我が家で実践している方法をご紹介します。
制作するものは、「絵カード」と「掲示板(絵カードを貼るためのスペース)」の2つです。
まず絵カードですが、作り方は先の「要求のコミュニケーション」のときと同じです。こちらでご紹介している、絵カード自作用のテンプレートなども活用いただければと思います。裏面には、マジックテープ片を貼り付けます。
絵カードの「内容」は、「行き先」や「イベント」を表現するものになります。
「こうえん」「すーぱー」「ようちえん」(行き先)とか、「がいしょく」「みずあそび」「ひるね」(イベント)とか、そういったものですね。
要求のコミュニケーションを教えている過程で、子どもが理解しやすい画像のタイプ(イラストか写真か、カラーか白黒か、など)は判明していると思いますので、スケジュール用の絵カードを作るときも、同じように子どもが理解しやすい画像を使うようにします。
我が家で実際に「1枚スケジュール」を導入したときの絵カードをいくつかご紹介します。うちの娘の場合は(親がイラストを描けないということもありましたが(笑))、カラー写真を中心に使いました。
![](https://soramame-shiki.up.seesaa.net/image/PECS_sc1.jpg)
↑1枚スケジュールを導入したときに制作した絵カード。
「行き先」の絵カード以外に、「出発する時刻の絵カード」(時計のイラストの絵カード)や、「利用する交通手段の絵カード」(車、自転車、バス、電車、徒歩(靴)などの絵カード)をあわせて使うというアイデアも考えられます。これについては後の回で紹介する予定です。
これらのスケジュール用の絵カードは、親の側からの情報提供のために使うものですから、使わない絵カードは、子どもの手の届かないところで保管するようにしましょう。袋や箱などに入れるか、マジックテープを貼ったバインダーを用意してそこに貼り付けるかして親の側で保管するようにして、子どものおもちゃになってしまわないようにします。
これで、絵カードの準備は終わりです。
(次回に続きます。)
うちの子、ある程度、カードで要求できるようになり、次は、スケジュールの理解だ!
と張り切っていたのですが・・・
なかなか難しいんです。。。
<カード=要求するもの>
という刷り込みがあったようで、
それを取り除くために、苦労しております。
週末、お出かけするときに、行先をカードで
提示しても、関心を示さない状態が
続いており、どうしたものかと悩んでおります。
(スケジュール用のカードの大きさは、変えました)
毎回、毎回、本人の「おぉ!そこへ行きたい!!!」という要求レベルの高いところへ
行くこともかなわず(遊園地が大好き)・・・
近所の公園などでは、関心を引くことができず、困ってます。
「時間の概念」習得まで、気長に
あせらず、コツコツ、1枚スケジュールを
繰り返していくしかないのでしょうか?
逆に考えると、時間の概念ができるまでは
1枚スケジュールの取組みも、大部分が無駄なものだということなのでしょうか?
(いつ時間の概念が出来上がるかがわからない以上、取り組み続けるしかないのでしょうけど)
ご意見頂戴できれば幸いです。
コメントありがとうございます。
エントリでも書きましたが、要求に絵カードを使うところから、スケジュールが絵カードで表現されていることを理解するところまでの間には、かなり長い「距離」があることは間違いないと思います。
ですから、「時間がかかる」のはある意味当然と考えて、最初は単なる「環境」としてそこにあるだけでもいいと割り切って、「1枚スケジュール」を例えば玄関の近くに掲げて、出かける前に必ず見せてからでかける、といった地道な働きかけをしばらく続けていくのが、1つのやり方だろうと思います。我が家も、かなり長い間、そんな感じでした。
そんな娘も、今では1枚スケジュールだけでなく、学校からもらってきた時間割や、車のなかで使っている「次の行き先絵カード」などもそれなりに理解しているようです。
「絵カード刺激」→「その絵カードに対応する行き先や出来事」という経験をうまく重ねながら続けていけば、やがては「気づき」も生まれてくるんじゃないかと思います。
(ちなみに「1枚スケジュール」なら、理解するために「時間の概念」はほとんど不要です)