すると、必然的に考えなければならないのが、「要求してきたときにそれを渡せない・渡したくないときにどうすればいいか?」という問題です。
この問題についても、PECSでは明確な立場を表明しているので、ご紹介したいと思います。
個人的には、PECSのこの考え方には、ちょっと「目からウロコ」でした。
PECSで「欲しいものをカードで要求する」という行動を教えることに成功すると、子どもは何度もカードを渡して欲しいものを要求するようになるでしょう。
それは、初めての汎用性のあるコミュニケーション行動の芽生えであり、とても価値のある道のりへの最初の一歩です。
ですから、PECSトレーニングの当初は、要求に応えることに躊躇してはいけません。極端な話、100回要求されたら100回与えるのが正解なのです。
与えすぎのリスクに対しては、1回の量を減らすとか、しばらくはそのリスクに目をつぶるといった対応を取りましょう。
この段階は、行動療法における「強化」の過程であり、行動が定着するためには、カードを渡すという「望ましい行動」に対し、要求したものを与えるという「ごほうび」を与えてしっかりと強化(連続強化)しなければなりません。
ただし、そんな状態が1週間も続き、完全に自発的なコミュニケーションが確立してくれば、必ずしも全ての要求に対して応える必要はなくなってきます。親として、欲しがるものを与えたいときには与え、与えたくない場合は、何とか「今はダメ」というメッセージを伝えなければなりません。
「A Picture's Worth」には、「今はダメ」を伝えるテクニックが、いくつか紹介されています。
A Picture's Worth : PECS and Other Visual Communication Strategies in Autism
著:Andy Bondy, Lori Frost
Woodbine House (2001)
1. 要求しているものが食べ物で、その食べ物がなくなったときには、空の容器を見せて、「もうなくなった」ということをアピールする。
2. 与えたくない理由が「まだ与えるべき時間でない」ためであり、かつ子どもが絵カードを使ったスケジュールを理解できるようになっている場合は、そのカードをスケジュール表のしかるべき位置に貼り付けてしまう。
3. 与えるまで少し待って欲しい場合は、「まって」カード(これの使い方はまだ紹介していませんが)を渡して待ってもらう。
4. 違うものなら与えられる場合は、与えられるものの一覧を「メニュー」のように提示して、その中から子どもに選ばせる。
5. カードを与えられるものと与えられないものに区別し、それぞれ色の違う場所に並べるなどして子どもに理解してもらう。
6. 「○○の課題をやったらあげる」という取引をする。これも紹介していませんが、必ずしもことばが分からなくても「取引」をすることは可能です。
7. 最終的には、ことばで「(今は)だめ」と言って聞かせることを目指す。
実は、ここからがポイントです。
上記のやり方の中に、誰もが考えつく一番シンプルなやり方が入っていません。
そうですね、「カードを隠してしまう」というやり方です。
でも、カードを隠してはいけません。
PECSでは、親がカードを隠してしまうことを厳しく禁じているのです。
(次回に続きます。)