2006年07月10日

行動療法の効用と限界(4)

3回にわたって、行動療法(ABA)が有効な場合とそうでない場合をみてきました。
ここで、ターゲット行動の難易度ごとのABAの有効性について、これまで紹介した例をベースに少しだけ拡張し、整理してみます。

1.分化強化だけで制御可能なもの → 非常に有効
2.プロンプトがあれば制御可能なもの → 十分に有効
3.シェイピングが必要なもの → ステップ数が小さければ有効
4.膨大なステップのシェイピングが必要なもの → 実施可能だが非効率
5.どうシェイピングしていいか分からないもの → 実施不可能


ターゲット行動が同じであっても、療育を実施する相手の状態によって、ABAの難易度・有効性が大幅に変化するということにも注目してください。

ABAには「マニュアル本」の類がけっこう出ていますが、本来は、個別の療育プログラムが必要なのです。なぜなら、同じターゲット行動であっても、子どもの状態によって取るべき戦略が異なるからです。

さて、それではこれまでの話をふまえ、自閉症児の療育に関する、行動療法の得意・不得意分野について考えてみます。

最も得意な分野としては、問題行動の抑制があげられるでしょう。
問題行動は、既に起こっている行動ですから、その意味では新たに行動を形成する必要はありません。
この場合、問題行動がどのような機能(親からの注目、欲しいものの獲得、やりたくないことからの逃避、自己刺激、etc.)を果たしていて、どのように強化されているかを分析し(機能分析)、その強化の仕組みが働かないようにする一方で、同じ機能を持ち社会的に許容される代替行動(手をあげる、カードを出す、声を出す、安全な自己刺激など)を形成・分化強化していけばいいのです。

※当ブログでも、行動療法による問題行動の抑制について書いたことがあります。詳しくは、右のシリーズ記事の「パニック対策」をご覧ください。

「行動療法が自閉症児に効果がある」という評価は、この問題行動の抑制という側面から高まったと言っていいでしょう。

自助スキルの獲得も、比較的、行動療法の適用が容易な分野の1つです。
自助スキルは多くの場合、パターン化された一連の行動ですので、その行動を細切れにして、少しずつ教えていけばいいのです。
この場合、一連の行動の最初から教えるのではなく、最後から教えます
つまり、例えばズボンをはくという行動であれば、ズボンを腰のすぐ下まではかせてあげた状態から、「ちょっと持ち上げる」という行動を最初に訓練します。それができるようになったら、ズボンをひざまではいた状態から持ち上げる訓練をし、次に両足首だけ入れた状態から持ち上げ、次に片足だけはいた状態から片足を入れて持ち上げる訓練・・・と徐々にさかのぼっていき、最終的には「収納されたズボンを出し、自分ではく」という一連の行動ができるように訓練するわけです。
このように「後ろから順に教える」ことを、バックチェイニングと呼び、サーカスで動物に曲芸を教える場合などでも一般的に使われる有効な方法です。

「ことば」や「社会性」については、2つの側面があります。

アスペルガー症候群のお子さんなどで、既にことばが出ていて、ある程度意味のある活用ができているケースで言語スキルを伸ばす目的では、行動療法はかなり有効です。
この場合は、既にことばを話すという行動は獲得できているので、その行動の中から望ましいものを強化し、そうでないものを強化しないという「分化強化」によって、望ましい言語行動を形成していくことができます。
実は、欧米で「ABAでことばを教える」といったときは、純粋なゼロからの言語獲得ではなく、こちら(既に獲得された言語スキルを伸ばすこと)を意味している場合も多いようです。
「社会性」についても、友達と遊ぶのが少し下手だから矯正する、といったレベルの行動変容であれば、ABAは有効に機能するでしょう。

一方、行動療法が圧倒的に不得意なのが、「ことばの獲得」や「社会性の獲得」など、より高度な知的行動をゼロから獲得するという分野です
これについては以前の記事でも少し触れましたが、なぜ不得意なのか、ということについて、改めて次回の記事で考えてみたいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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