2006年03月30日

行動療法の出自をあばく(4)

前回は、ABAにとって「ことば」という領域には特別の意味があり、その「ことば」の世界で主導権を握ることに対しては、ある種の「野心」のようなものを感じる、という話をしました。

ちょっと過激な話になっているような気もしますが、行動療法(ABA)を否定するのが目的ではなくて、ABAがその出自であるスキナー心理学の時代から内包している「弱み」とでもいうものを知ることで、はじめて私たちはさまざまな療育法について客観的な評価を下せるようになるのだと思います。
声の大きさだけに惑わされてはならないのです。

さて、この記事の最初に書いたことの中で、ABAとTEACCHとの関係の話がまだ残っていますので、それを書いてみたいと思います。

これまで説明してきたとおり、ABAは、原則として「徹底的行動主義」の立場を取る行動療法です。心の働きなどの「内的な過程」は考えないか、外的環境と行動によって制御されるものだと考えます。
つまり、例えば「ことば」についても、舌を動かして声を出させて単語とマッチングして・・・といった、具体的な行動のつながりに還元して、それをトレーニングするという手法が生まれるわけです。

一方、心理学の世界では、スキナーの徹底的行動主義は非主流となり、現在は行動理論を道具として使い(方法論的行動主義)、脳内の情報処理プロセス(認知)に関する仮説を実験によって検証するという「認知心理学」が大きな流れとなっています。
これは、行動主義によって立場を失いかけた、心理学における心の存在が、認知心理学において「認知」と名前を変えて復権したとも言えます。

ところで、行動療法ではない、従来からの療育を進めてきた人たちは、行動療法が勢力を伸ばしていく情勢に対して、どう対応したのでしょうか。
従来、この領域には、いわゆる「臨床心理学者」がいて、精神分析的なアプローチを行なっていたのですが、精神分析の影響力は急速に衰えました。特に自閉症児療育の世界では、自閉症の障害は生育歴とは無関係、という「ラター革命」によって、精神分析の居場所はほとんどなくなってしまいました。

しかしながら、臨床心理学者というのは大抵、「心」の実在性を信じて疑わない人たちですから、「心とは行動である」というABAの思想は到底受け入れられません。
そして、他に何かないか、と見渡したときに、本流の心理学で優勢となっている認知心理学を「発見」します。認知心理学では「認知」という名の「心」の存在を認めていますから、臨床心理学者にも受け入れやすいわけです。

認知心理学を受け入れた臨床心理学者は、認知心理学の知見と、その背後にある「方法論的行動主義」、さらには、従来からある精神分析的な全人的人間像を組み合わせた、新たな療育パラダイムを模索していきます。

・・・お分かりですよね。
この、臨床心理学+認知心理学という枠組みから生まれた療育パラダイムの1つが、TEACCHなのです。

ABAとTEACCH、この2つは、端的にいえば徹底的行動主義と方法論的行動主義の違いと言えますが、それだけではまだ表面的な理解だと思います。
生臭い言い方をすれば、ABAとは「スキナー派の落武者」であり、TEACCHとは「認知心理学に転向した臨床心理学者」なのです。

ですから、TEACCHの本質は、認知心理学にも方法論的行動主義にもなく、あくまでも過去から脈々と続く、臨床心理学にあると思います。だからこそ「全人的な人間療育」という理念や、ある種の「愛情」のようなものが強調されたりするのです。
その一方で、TEACCHは認知心理学や方法論的行動主義の理論を体系的に取り入れているとは言いがたく、必要に応じてつぎはぎで理論を構築しているような、いかにも「臨床心理学っぽい」不完全さも感じられます。

更にここに、(臨床心理学や精神分析と縁の薄い)認知心理学者が自閉症療育の世界に新たに踏み込んでくる、という流れがもう1つあります。
それが「心の理論」のような、認知モデルから出発する療育の試みです。(これはまだまだ始まったばかりですが)

これが、現時点で私が考えている、ABAとTEACCHの出自です。
あくまで私見です。かなり荒っぽい結論でもあり、もしかすると誤解しているところもあるかもしれませんので、ご指摘などをいただけると幸いに思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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