2006年03月28日

行動療法の出自をあばく(3)

「ことば」への考え方に対して徹底的な批判を浴び、心理学の表舞台から引きずりおろされた徹底的行動主義の心理学は、時をへて、新たな活躍の地となった療育の世界でふたたび、「ことば」についての「王権」を声高に主張しはじめます。

つまり、行動分析学(ABA)はことばについて他のどの療育法よりもよく分かっていて、ABAこそがことばの療育にとっても最高の療育法である、という主張です。

ここで、前回書いた「事件」とは、いわゆるロヴァースの早期集中介入の成功事例の発表を指します。
ロヴァースは、毎週40時間、2年間以上という超ハードなABAを幼児期に行なうことによって、ことばを始めとする自閉症児の障害を大きく改善することに成功した、と発表します。
これによって、「ABAはことばの療育に有効だ」、あるいは「ABAこそが唯一にして最高の療育法だ」という主張が、あたかも既成事実であるかのように語られるようになります。

「スキナー軍」はついに、念願の王権を手に入れたのです。

ただ、その王権の正当性、つまり、ABAがことばの療育も含め唯一かつ最高の療育法だという主張の正当性が、この実験で証明されたとは必ずしも言えません。

上記のロヴァースの発表は、成功例としての「陽の面」だけが取り上げられがちですが、この発表の「陰の面」、つまり、週40時間ではなく週10時間だけ、「ABAを」実施した自閉症児には、ほとんど効果がなかったという事実にも注目すべきでしょう。

実は、ロヴァースの発表は、ABAが有効だということを直接は証明していません。
発表結果を素直に信じたとしても、それでも、彼が示している結果は、「ABAが有効だ」ではなく「超ハードなABAは有効で、そうではないABAは有効でない」ということです。

毎週40時間を2年間などという常識はずれの療育は、ABA以外では誰もチャレンジしていません。チャレンジしていませんが、それだけの量をこなせば、もしかするとABA以外の療育法でも同じように、あるいはそれ以上に子どもの能力を伸ばせるかもしれません。
また、週10時間以下でそれなりの結果が出れば、その療育法はABAより効果が高い可能性が高くなります。

もちろん、現実に結果を出したという意味では、先駆者としてのロヴァースの業績は高く評価されるべきですが、それがそのまま、ABAは療育のあらゆる領域に対して常にベストの方法である、という結論にはならないと思います。

行動分析学にとって、「ことば」という領域は歴史的に特別の意味を持っており、この領域で主導権を握りたい(そしてあわよくば「都」に戻りたい)という「野心」は確実に存在すると思います。
ですから逆に私たちは、ABAを推進する人たちが主張する意見の中で、「ことば」に関するものについては、少し距離をおいて特に冷静に吟味する必要があると思います。

ABAの世界では「なかったこと」「単なる誤読」として完全に無視されていますが、チョムスキーが指摘したスキナーの言語行動モデルの致命的な不備は、結局のところ、まったく解決されていません。
にもかかわらず、ABAのことばに関する療育とは、その「不完全な」スキナーの言語行動モデルが全面的に信奉されて応用されたものなのです。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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