2006年03月24日

行動療法の出自をあばく(2)

前回の続きです。

行動分析学と名を変えた徹底的行動主義心理学は、問題行動の制御や恐怖症の治療などに大きな成果をあげ、この地に根を下ろして再び勢力を広げ始めます。

この辺り、あたかも三国志か日本の戦国時代のような「陣地の奪い合い・勢力争い」の様相を呈しており、とても興味深いです。

そして、現在の行動療法の目指している方向や、ちょっと気をつけなければならないことなど、この「勢力争い」というイメージを重ね合わせて考えることで、初めて見えてくる重要な側面があると考えています。

前回、心理学の歴史から説明したとおり、スキナーが確立した徹底的行動主義心理学は、人の心、端的には「ことば」の領域に踏み込もうとして、「認知革命」の洗礼を浴びて心理学の表舞台から下りることになりました。

それ以降、心理学の世界では、いわゆるスキナー派と呼ばれる非主流の人たち以外は、スキナーの言語行動のモデルをほとんど使わなくなりました。
そういう意味では、かなり乱暴な言い方になりますが、スキナーの言語行動モデルは、心理学の世界を動かすような影響力を持つことなく消えていった、時代遅れの仮説だと言ってもいいでしょう。
私の意見としても、スキナーの言語行動モデルは、「ことば」の世界のごく一部を説明しているに過ぎず、ことばの獲得や発達といった、私たちがもっとも関心を持つ部分がごっそりとモデルからこぼれ落ちている可能性が高いと思います。

ただ、スキナー派の人たち、つまり行動分析学の研究者たちは、もちろんそうは思っていません。スキナーの言語行動のモデルは有効であるとし、このモデルをもとにした研究・応用を進めています。
でも、その研究結果を発表し、活躍する場は、もはや実験心理学の世界には(自分たちの学会などを除けば)ほとんど残されていません。

先ほどの「三国志」の例えを使えば、都落ちした「スキナー軍」は、もはや再び都に攻め入るだけの力を持っていないのです。

ところが、新たに足場を築いた「障害児療育・精神疾病の治療」という領地は違いました。
ここにいたかつての領主「フロイト軍(精神分析)」は、科学という武器を持てなかったために自滅に近いかたちで衰退し、「スキナー軍」は主権を握ることに成功しました。そして、問題行動の制御や行動スキルの獲得などの成果によって、高い評価を受けて足場を固めていきます。

そして、再びかつての野心が首をもたげてきました。「ことば」という王権の獲得です。
かつて、都でこの王権を狙ったときは、チョムスキーという新鋭軍に徹底的に叩かれ、それによって都落ちの憂き目にあったスキナー軍でしたが、幸い、こちらの陣地にはチョムスキーのような強力な反対勢力はいませんでした
スキナー軍は、「我々には王権を持つ正当性がある(ABAはことばの療育にも有効である)」という主張を始めます。
当地の民衆は、その主張に必ずしも賛同していたわけではありませんが、スキナー軍は徐々に勢力を拡大し、虎視眈々と王権を狙っていきます。
そして、事件が起こりました。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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