2006年03月22日

行動療法の出自をあばく(1)

最近の私の関心は、行動療法(ABA)を「心の科学」というより見晴らしのいい観点から考え直し、その本質をとらえることにあります。

そういった関心が生まれた1つのきっかけとして、娘の療育について研究していて、いわゆるABAとTEACCHの違いがよく分からなくなった、ということがありました。
TEACCHというのは療育プログラムそのものではなくて、療育の「枠組み」であるという記事を以前書きましたが、じゃあ実際の療育プログラムはどんなものかと言えば、構造化した教室で行なわれることを除けば、典型的なABAのフォーマルトレーニングと変わらなかったりします。強化、シェイピングといった行動療法の方法論も、抵抗なくTEACCHに組み込まれています。
TEACCHというのは、構造化という概念を付け加えただけのABAであり、それをいくつかの「理念」で飾りつけただけのものだろうか?と考えたこともありました。

でもさらに考えを深めていくうちに、そういった形式的な部分よりずっと大きな、ABAとTEACCHの違いに気づいたのです。
それは、心理学の歴史と深く関係しています。

今回は、心理学の歴史から、どのように行動療法が生まれ、現在に至っているかという、いわば「行動療法の出自」について、私なりに考察してみたいと思います。

そして最後に、なぜその歴史がABAとTEACCHの違いを説明することになるのかの「タネ明かし」もしてみようと思います。

なお、ちょっと意地の悪い?書き方をしている部分もあるので、「ABA最高!」と思っている方は読まないほうがいいかもしれません(笑)。こんな考え方もある、と笑って読んでいただければ幸いです。

そもそも心理学は、哲学から分化した学問であり、自分自身の心の中をじっと見つめる「内観」という方法から始まりました。
ここから、内観できる「意識」以外に、意識上にはのぼってこないが我々の行動に影響を与えている「無意識」というものがある、と主張するフロイトの「精神分析」という流れと、心理学を科学たらしめるには心ではなく行動を扱うべきであるという「行動主義」という流れが生まれました。

行動主義はその勢力を急速に拡大し、科学的に扱えるのは行動のみである、という価値観を徹底的に推し進めた結果、やがて、我々が「心」と考えているものまで含めて、あらゆる人や動物の営みは、行動の観察と制御によって記述できる(すべき)という「徹底的行動主義」に到達します。

徹底的行動主義の確立者は、スキナーだと言っていいでしょう。
このスキナーこそ、現在のABAに直接つながる人物であり、ABAは「徹底的行動主義心理学」の一種です。

皮肉なことに、徹底的行動主義は、そのスキナー自身が著した1冊の本をめぐる論争により、心理学の表舞台から消えていくことになります。
その本とは「言語行動」というもので、人の心の根源に非常に近いところにあると考えられる「ことば」の世界を、徹底的行動主義の枠組みで説明するという意欲的な著作でした。簡単に言ってしまえば「ことばについて考えるのに『心』を語る必要はない」という主張です。

この主張に対して真っ向から反対したのが、これまた有名な言語学者である、ノーム・チョムスキーでした。
彼は、ことばの獲得は単なる随伴性や強化といった行動原理だけでは絶対に説明できず、生得的な能力と発達の過程が不可欠であることを示し、以下のように主張しました。

・人の行動は、外部からの刺激と内的な情報処理の過程の関係によって決まるものであって、外部からの刺激だけで行動を語るのは不十分である
・内的な過程は生得的な構造から複雑に生じ、発達していくものであって、「過去の外部からの刺激」だけでは説明できない(つまり、内的な過程がどんなものであるかは行動主義の枠の外で研究する必要がある)


チョムスキーの批判については、「言語行動」を誤読しているという批判も(スキナー派からは)ありますが、ともあれ、徹底的行動主義の主張に違和感と限界を感じつつあった当時の心理学界は、チョムスキーの主張に飛びつきました。

こうして、行動主義心理学の知見(行動理論)を活用しつつも、その枠組みの外側で人の心の中に存在すると思われるさまざまな「認知のプロセス」を仮定し、その存在を検証するという「認知心理学」が生まれました。
この転換を「認知革命」と呼び、それまで心理学の最前線、表舞台に立っていた行動主義心理学はその座を認知心理学に譲り、非主流として日陰に回ることになります

認知心理学においても、行動理論は活かされています。しかしそれは、実験を行なうための道具としてであり、人の心をすべて行動によってのみ説明しようとするスキナーの立場(徹底的行動主義)とは、価値観がまったく異なります。
このような認知心理学の立場は、方法論的行動主義と呼ばれます。

そして、心理学の「表舞台」から下りた徹底的行動主義が新たな居場所を求めてやってきたのが、自閉症をはじめとする障害児療育の世界だったのです。

(次回に続きます。)

参考図書:
スキナーの提唱した徹底的行動主義がどんなものであるのかざっと知るのに最適の本がこちらです。上記の「言語行動」の内容にも触れています。(参考記事



行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
著:杉山 尚子
集英社新書

posted by そらパパ at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。